第33話 事後処理


『経験値獲得 レベルが5アップしました』

『SPを50獲得しました』



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 名前:佐伯さえき 奏多かなた

 性別:男性

 年齢:18歳


 レベル:49

 HP:5977/5977(+896)

 MP:2460/2811(+421)

 筋 力:914(+137)

 持久力:687(+103)

 速 度:940(+141)

 知 力:559(+83)

 感 覚:652(+97)

 幸 運:636(+95)

 SPスキル・ポイント:240


 スキル:〈共鳴〉LV1、〈水滴石穿〉LV1、〈重奏撃〉LV1

 称 号:【最速踏破者】、【編纂者】


――――――――――――――――――――



 システムの通知音が鳴り響き、レベルアップしたことを告げる。

 格上の相手を何人も倒しただけあって、それなりの経験値を獲得できたようだ。


 俺は深呼吸をし、周囲の状況を改めて確認した。

 鳴海と彼の側近たちの亡骸が転がる中、少し経つと洗脳されていた信者たちが目を覚まし始めた。

 彼らの表情には混乱の色が濃く滲んでいる。


「いったい何が……」

「そうだ、思い出してきた。鳴海って奴にクラン勧誘されて、断ったら何かのスキルを発動されて……」

「俺たちは今まで、操られていたのか?」


 彼らの声が、静寂を破って響く。

 曖昧ながらも、鳴海たちに操られていた頃の記憶が残っているようだ。


 その直後だった。

 困惑した状態の信者たちの目が俺と鳴海たちの死体に向けられる。

 すると、


「ひっ!」


 そんな声を上げながら後ずさる音が聞こえた。

 恐怖と混乱が入り混じった表情を浮かべる彼らに対し、俺はゆっくりと告げる。


「落ち着け。お前たちが操られていたことは分かってるし、手を出すつもりはない」


 俺の言葉に、彼らは少し安堵の表情を見せた。


「ほ、本当ですか?」

「ああ」


 一瞬だけ彼らの表情が和らぐも、すぐに不安の色が浮かんだ。


「し、しかし、私たちはこれからどうすれば……アイツに操られていたとはいえ、色々な悪事に手を染めてきました」


 その言葉を聞いて、俺は少し考え込んだ。

 現時点の『新世紀会』はまだ規模こそ大きくなかったとはいえ、組織を拡大する過程で様々な悪事に手を染めていたのだろう。

 その記憶が彼らの心に重くのしかかっているのは明らかだった。


 フォローしたい気持ちはなくもない。

 しかし、それは彼ら自身で乗り越えなければならない壁。

 俺にできることは、現実を突きつけることだけだ。


「それを決めるのはお前たち自身だ。どの道これから、ダンジョン内での生存競争はより過熱になっていく。ここで冒険者を辞めるか、それとも覚悟を決めて先に進むか……後悔しない方を選べ」

「っっっ」


 言葉を選びながら、できるだけ冷静に告げた。

 そう言い残し、俺は踵を返して町に向かう。

 ここは安全地帯セーフティ・ゾーンで魔物が出ないため、彼らに気を遣う必要もない。

 鳴海たちの死体も、時間が経てばダンジョンに吸収されるはずだ。


「後悔しない方……」


 後ろから聞こえてきたつぶやきに、少しだけ振り返る。

 彼らの表情には迷いと決意が入り混じっていた。

 すると、そのうちの一人が「ハッ」と何かを思い出したように顔を上げる。


「そ、その……助けてくださり、ありがとうございました!」


 一人目に続くように、他の者たちも深く頭を下げる。

 俺は手を挙げて意思表示をすると、そのまま第11階層の町『グランドフィールド』に向かうのだった。



 数分後。

 体に付着した汚れを落としてから『グランドフィールド』に辿り着くと、


「っ、奏多さん!」


 先に町に入っていた祈ががすぐに駆け寄ってきた。

 彼女は心配そうな表情を浮かべている。


「その、大丈夫でしたか? 雰囲気からして、怪しげな方たちでしたが……」

「ああ。少し話しただけで済んだよ。心配かけて悪かったな」


 何が起きたか、全てを祈に伝えるつもりはなかった。

 ただでさえ今日は【魔帽の指揮者ウィザード・コンダクター】との戦闘に加え、俺が10年後から回帰してきたことを伝えた。

 祈が一日で処理できる情報量を大きく超えているはずだ。

 そこに今の出来事まで伝えると、内容の重たさも鑑みて、祈がショックを受ける可能性は高い。


「分かりました。奏多さんがそう言うのなら信じます……けれど」

「ん?」


 そう思っての発言だったのだが、祈はなぜか柔らかい表情を浮かべた。


「もし本当に困った時は、私に相談してくださいね。その……私は、奏多さんの仲間ですから。どんなことも受け入れる覚悟はできています」

「…………」


 祈の言葉に、俺は一瞬言葉を失った。

 しかしすぐに落ち着きを取り戻すと、彼女に向けて感謝を伝える。

 

「ああ。ありがとう、祈」

「はい!」


 そうして、俺と祈は『グランドフィールド』の奥に向かうのだった。

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