第28話 本当の仲間

 俺は祈に全てを話した。


 1周目の世界で人類は敗北したこと。

 特殊なアイテムを使い、俺だけが10年前の過去に回帰したこと。

 今度こそ最上階に辿り着くべく、一からやり直すと決意したこと。


 全ての事実を告げた俺は、静かに彼女の反応を待っていた。

 しばらく無言で何かを考え込んでいた祈だったが、やがてゆっくりと口を開く。


「……奏多さんには、そういう事情があったんですね」

「っ、信じてくれるのか?」


 驚きを隠せない俺に、祈はコクリと頷いた。


「は、はい。突拍子もない内容だとは思いますが……不思議と信じてしまう自分がいるんです。上階層で戦った経験があるならダンジョンの攻略記録を更新し続けているのも納得ですし、先ほどのエクストラボス戦の発生条件を含め、前々からダンジョンについてすごく詳しいんだなと感じていました……そして何より、奏多さんの言うことだから信じられるんだと思います」

「……ありがとう、祈」


 俺は感激で胸が熱くなるのを感じた。

 回帰後、初めて仲間になったのが彼女でよかったと心の底から思う。


 そして、だからこそ改めて正式に伝えなくてはならないことがある。


「これを踏まえた上で、祈には改めて協力を頼みたい。今後の目標としてはまず最前線に追いつき、ダンジョンブレイクを食い止めること。そしてそれ以降も、最前線で攻略を続けるつもりなんだが……どうか、これからも力を貸してくれないか」


 俺は頭を下げ、真剣に頼み込む。

 すると祈はゆっくりと語り始めた。


「実は私……つい先日まで、冒険者を辞めようと思っていたんです」

「え?」


 断られたのだろうか。

 そう疑問に思う俺の前で、祈は続ける。


「土村さんたちのパーティーにいた頃、私はずっと実力不足を痛感し、冒険者として皆を守りたいという夢を諦めなければならないと思い悩んでいました」

「…………」

「だけどそんな時、ある人に出会えたんです。その人は私の力を認めて、必要だと言ってくれました」


 そこまでを言い切った後、祈は真剣な眼差しを向けた。


「だから――もちろんです! 奏多さんが望むなら、私は何だって協力します!」

「ってことは……」

「はい! ここれからも末永くよろしくお願いいたします!」

「……ありがとう、祈」


 改めて、祈が真の仲間になってくれたことを実感する。

 隠し事をせずに済んだ安堵感から、俺の心はすっきりと晴れやかになっていた。


 穏やかな時間が流れる中、ふと祈が「あっ」と声を上げる。


「事情は分かりましたけど、本当に最前線まで間に合うんでしょうか? その、3か月以内にダンジョンブレイクが起きるんですよね? ここまでの階層だけでも攻略に時間がかかったのに、あと30体以上もボスを倒す必要があるようだと間に合わないんじゃ……」

「いや、それなら心配いらない」

「え?」

「実はチュートリアル階層とそれ以降じゃ、ダンジョンの仕組みが変わるんだ」


 俺はそう切り出し、第11階層以降の仕組みを説明し始めた。


 第11階層以降にも、各階層に階層主フロアボス自体は存在する。

 ただ、誰かが一度でも階層主フロアボスを討伐できた場合、他の者は無条件で次の階層へ進めるようになるのだ(ボス部屋までたどり着く必要はあるが)。


 例外があるとすれば10の倍数階。

 20階層、30階層、40階層には、より強力な超越階層主ハイフロアボスと呼ばれるボスが出現する。

 超越階層主ハイフロアボスは1パーティーで討伐するなど不可能なほどの実力を有しており、基本的には前線組総出でのレイド戦が行われる。

 そして超越階層主ハイフロアボスが一度でも討伐された後は、レベルが低下――つまり弱体化した階層主が現れるようになり、それを各パーティーで倒す必要が出てくるのだ。


 まとめると、後から前線組に追いつこうとする俺たちにとって、戦う必要があるのは10の倍数階だけ。

 20階層、30階層、40階層の3体との戦いが鬼門になる。

 とはいえ――


「エクストラボス戦に勝利してアイテムや称号を得たおかげで、今の俺と祈はかなりの実力を手にした。第20階層突破までは、そう時間をかけずにいけるはずだ。目標としては1日につき、1階層といったところか」


 ひと呼吸置いてから、俺は付け加えた。


「まあ、ボスがいても俺たちなら攻略速度にそう影響はないと思うが……とにかく、そういうことだ。効率よく攻略を進めて、強力なアイテムを回収していけば、2か月もあれば追いつけると踏んでいる」

「な、なるほど……!」


 圧倒されつつも、祈は目を瞑って強い決意を覗かせた。


「分かりました! 奏多さんを信じて、ついていきます!」

「ああ。よろしく頼む、祈」


 俺たちは目標を共有した後、今度こそボス部屋奥の扉を潜り、第11階層へと足を踏み入れる。



 ――その先で待ち受ける、存在きょういを知る由もないまま。

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