第27話 真実

 第10階層のエクストラボス【魔帽の指揮者ウィザード・コンダクター】討伐後。


 ドロップアイテムとして【指揮剣コンダクト・ソード】と【指揮杖コンダクト・ロッド】。

 さらに攻略報酬として【編纂者へんさんしゃ】と【調律士ちょうりつし】の称号を貰った俺たちは、第11階層に足を踏み入れる前に、ここで少し今後のことを話し合うことにした。


「せっかくだし、このタイミングで今後のことを伝えようと思う」

「今後のこと、ですか?」

「ああ。より具体的に言うなら、次の目標についてだな」

「は、はい」


 ビシッと背筋を伸ばす祈に向け、俺は続ける。


「一言で告げるなら、一刻も早く最前線に追いつく――それが目標だ」

「す、凄い目標ですね。確かにこれまで攻略記録を更新し続けてきた奏多さんなら叶えてしまいそうですが……」


 そこでふと、祈は不思議そうな表情を浮かべた。


「けど、どうしてそこまで急ぐんですか? ……あっ、そういえば【最速踏破者】の称号って階数が増えるほど効果が増すんでしたね。だからでしょうか……」

「それもあるが……一番の理由はまた別にあるんだ」

「そ、それっていったい……」

「……信じてもらえるか分からないが、祈には聞いておいてほしい」


 そんな前置きの後、俺は祈に向かって告げる。


「このままだと、第44階層でダンジョンブレイクが発生する――つまり大量の魔物が地上に溢れることになる。俺はそれを止めたいんだ」

「――――!」


 驚愕に目を見開く祈を見ながら、俺は前世の――一周目の記憶を振り返る。



 それはまだ、俺が冒険者になる前の話。

 順調に【夢見の摩天城】の攻略を進めていた日本の冒険者たちだったが、彼らは知らなかった。

 第44階層はそれまでの階層とは違い、特殊なギミックが存在している。

 それを知らずに挑戦した攻略者たちは呆気なく敗北し、魔物たちが地上に溢れてしまったのだ。


 そのダンジョンブレイクがもたらした被害は悲惨も悲惨。

 最終的には、首都圏を中心に1000万人以上の死傷者が出るほどの大災害を引き起こすこととなる。

 そしてそれはダンジョンが出現してから長い歴史の中でも、五本の指に入るほどの衝撃的な事件だった。



(かつての俺は……そんな悲惨な光景を前にし、冒険者になることを誓ったんだ)


 たとえそのダンジョンブレイクが防げなかったとしても、即座に世界が滅ぶようなことではない。

 一周目の俺がそこから冒険者になり、第80階層までたどり着けたことからもそれは証明済みだ。


 ――だけど、だからといって黙って見過ごせるかとういえば話は別。


 俺は10年前に回帰し、やり直すチャンスをもらった。

 ダンジョンブレイクが発生するであろう約3か月後までに最前線までたどり着ければ――その上で俺が〈共鳴〉の真価を発揮できれば、防ぐことができるはずだ。


 それが現時点における、俺の目標。

 そしてそれを達成するには、間違いなく祈の力も必要になってくる。

 だからこそ俺は、その未来について語ったのだ。


(けど――これだけじゃまだ足りない)


 祈は今、疑問に思っているはずだ。

 俺が伝えた内容が真実かどうか。

 そして仮に真実だとすれば、なぜそんなことを知っているのか――


(話すとしたら、ここしかない)


 について、必要以上に触れ回るつもりはない。

 しかし短い期間とはいえここまで一緒に冒険し、信頼を築いてきた祈に隠し事をしたくはなかった。

 俺が抱えているものを打ち明け、その上で今後もパーティーとしてついてきてくれるのか訊きたくなったのだ。


 ゆえに――


「祈」

「は、はい、何でしょうか?」


 今だ困惑した様子の祈に対し、俺は真剣な表情を向ける。



「すぐには信じられないかもしれないが、聞いてほしいことがある、今の話にも関わってくることだ」

「………………」

「俺には未来の――10年後の記憶がある」

「10年、後……?」



 困惑する祈に対し、俺はここに至るまでの経緯を説明するのだった。

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