第21話 VSウィザード・コンダクター


「厄介だな……複数ボスときたか」



 そう呟きながら、俺は改めて状況を整理する。


 エクストラボス【魔帽の指揮者ウィザード・コンダクター】。

 レベルは50と高めだが、それだけなら絶望的な差ではない。

 より厄介なのはボス本体ではなく、その周囲に構える楽団の存在だった。


 さっと見渡したところ、楽団の数は左右に12体ずつで、計24体。

 ボスであるコンダクターを含めれば、25体という大所帯だ。

 もしコイツらまで攻撃手段を持っていた場合、祈を守りながら戦うのがかなり難しくなる。


(さすがに、そこまで無法なボスとは考えにくいが……)

 

 いずれにせよ、警戒は強めておく必要があるだろう。


「祈、今のうちに〈波動励起はどうれいき〉を頼む」

「は、はい!」


 祈にバフをかけてもらいつつ、コンダクターと楽団の様子を観察し続ける。

 明らかに何かしらのギミックが伴ったボス戦である以上、一つして情報を見落とすことはできない。

 そんなことを考えていると、ある変化が訪れる。


「っ、これは……」

「……演奏?」


 楽団がそれぞれの楽器を構え、演奏を開始したのだ。

 整った旋律が空間いっぱいに響いていく。


(まるで、ゲームの戦闘用BGMみたいだな……)

 

 俺がそんな感想を抱いた直後、ようやく本命コンダクターは動きを開始した。

 コンダクターが左手を高く掲げると、その手の中にある指揮棒が、なんと一瞬にして杖へと変貌を遂げた。

 奴はそのまま、杖先をこちらに向け――


「ァァァアアアアア!」


 ――けたたましい叫び声と共に、杖先から魔力の刃が放たれた。


「ッ、祈!」

「きゃっ!」


 高音を響かせながら高速で飛翔するそれを見た俺は、咄嗟に祈の体を抱えてその場から飛びのく。

 直後、魔力の刃は、先ほどまで俺たちがいた足場を深く斬り裂いてみせた。

 直撃していたらタダでは済まなかったであろう破壊力だ。


「か、奏多さん、今のはいったい……」

「……音の斬撃ソニックエッジだな。速度、破壊力共に秀でた魔法だ」


 直線的な軌道でしか放てないため、熟練者であれば簡単に避けられる魔法だが、祈のような初心者ではそれも難しいだろう。

 この調子で何発も撃ってこられると、かなり面倒なことになる。


(指揮台の上から動こうとせず、魔法を放ってくるところから見るに遠距離攻撃型のボスなのか? 左右の楽団が攻撃を仕掛けてくる様子もない。なら――)

 

 素早く方針を立てた俺は、そのまま祈に話しかけた。


「俺は距離を詰める! 祈は回避を念頭に置きつつ、隙を見つけて波長乱はちょうみだしを使ってくれ!」

「わ、分かりました!」


 端的に作戦を伝えた後、俺は力強く地面を蹴り加速する。


「ァァァアアア!」


 コンダクターは接近してくる俺に狙いを定めたのか、連続でソニックエッジを放ってきた。

 しかし、俺はそれを持ち前の読みと身体能力で回避していく。

 一応、その中でも左右の楽団に対する警戒を怠ることはない。


(俺に目の前を通られても、変わらず演奏を続けているだけ。コイツらの役割はいったい……)


 違和感を拭うことができず気持ち悪いが、そちらだけに意識を向けるわけにもいかない。

 俺は視線を前方に戻し、そのまま指揮台へと迫っていった。


 コンダクターとの距離は約2メートル。

 ここまでくれば、魔法使いではなく剣士の間合い――


「シィィィ!」

「――ッ!?」


 ――かと思われた直後。

 叫び声と共にコンダクターの杖が指揮棒に戻り、その代わりと言わんばかりに、右手に握られた指揮棒が一振りの剣へと変化した。

 コンダクターはそのまま、俺めがけて高速の斬撃を放ってくる。


(変化する指揮棒が2本……接近戦と遠距離戦、状況に応じてどちらもこなす万能タイプか――だが!)


 2本の指揮棒を持ち、そのうちの1本が杖に変わった段階でこの展開を予測していた俺は、回避や捌きによって全ての斬撃を凌ぎきってみせた。

 結果、ガラ空きになるコンダクターの胴体。

 さらには――


「波長乱し!」

「ッッッ!?!?!?」

 

 最高のタイミングで、祈のデバフがコンダクターに襲い掛かった。

 20%身体能力が下げられたことにより、明らかに動きが遅くなっている。

 ――畳み掛けるなら、今!



「――水滴石穿すいてきせきせん重奏撃じゅうそうげき!」



――――――――――――――――――――


 〈水滴石穿すいてきせきせん〉LV1

・MPを消費して発動可能。

 発動後、一定時間内に同じ部位に連続で攻撃を浴びせることで、クリティカル発生率&クリティカル火力が上昇する。


――――――――――――――――――――


 〈重奏撃じゅうそうげき〉LV1

・MPを消費して発動可能。

 攻撃成功時、二回分の攻撃判定が発生する。

 (一撃ごとの火力は減少する)


――――――――――――――――――――



 出し惜しみすることなく、2つのスキルを発動。

 戸惑いの中にいるコンダクターに、素早く4発(判定は8発分)の斬撃を浴びせてみせた。

 そのうちの幾つかはクリティカルが発生し、奴の体に大きな傷跡を刻み込む。


「まだだ!」


 あと一撃なら間に合う。

 そう確信し、クリティカル発生率とクリティカル威力が最大まで上昇した斬撃を浴びせようとした直後だった。




『『『――――――――――――――――――――』』』




(ッ!? この音は――?)


 突如として楽団の演奏が一変する。

 テンポが変わり、ボルテージが一気に上昇。

 轟音のような大音量が、ボス部屋いっぱいに響き渡った。 


 驚くのはそれだけではない。

 その演奏が鳴り響いた瞬間、コンダクターの纏うオーラが目に見えて膨れ上がる。

 さらには身体能力が大きく上昇。コンダクターは〈波長乱し〉を受ける前の通常時をも上回るほどの動きで、渾身の一振りを放ってきた。


「ァァァ!」

「くっ!」


 咄嗟に剣を翳して受け止めるも、力の差は歴然。

 あきらかに向こうの方が膂力で上回っており、俺の体はそのまま後方に吹き飛ばされた。

 空中で態勢を整えて何とか着地しつつ、なんとか状況を分析する。


(演奏が変わった瞬間、ボスのステータスが明らかに上昇した。それも、祈の波長乱しを帳消しにして余りあるほどの強化幅……なるほど、か)


 ようやく全容ギミックを理解することができた。

 ボス本体であるコンダクターは、剣と杖を自由自在に操る万能型。

 そして周囲に侍る楽団は、そんなボスを支える強化役バッファーなのだ。


 説明するまでもなく、回帰してから戦ってきた中で最も強力な相手。

 俺は頬に流れる汗を拭いながら、全開で脳を回し続ける。



「さあ……どうやって倒す?」


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