第20話 魔帽の指揮者
翌日。
俺と祈は幾つかのエリアを突破し、第10階層のボス部屋へと向かっていた。
一番の近道は『迷いの森』を突っ切ることだが、あそこは平均レベルが高く、ボス戦前に体力を消耗したくないという事情があった。
だからこそ俺たちは、比較的楽な魔物を討伐しつつ、着実に目的地へと歩を進めていく。
そして、探索開始から2時間ほど経った頃。
俺と祈はようやく、ボス部屋の前に辿り着いた。
「ふぅ……ようやく着いたな。祈、ひとまずここで休憩しよう」
「分かりました」
俺はポーションを取り出し祈に手渡した。
HPとMPが全回復するまで、ここでしばし待機することにする。
数十分後。
準備を終えたタイミングで、俺と祈は改めて、現状のステータスを確認することにした。
――――――――――――――――――――
名前:
性別:男性
年齢:18歳
レベル:36
HP:4261/4261(+639)
MP:1940/1940(+291)
筋 力:622(+93)
持久力:488(+73)
速 度:643(+96)
知 力:392(+58)
感 覚:447(+67)
幸 運:436(+65)
スキル:〈共鳴〉LV1、〈水滴石穿〉LV1、〈重奏撃〉LV1
称 号:【最速踏破者】
――――――――――――――――――――
【
・ダンジョンの階層最速踏破者に与えられる称号。
・フロアボスとの戦闘時、HPとMPを除く全パラメータが9%上昇する。
上昇率は、最速踏破数が増えることに加算されていく。
・現在の最速踏破数:9
――――――――――――――――――――
名前:
性別:女性
年齢:18歳
レベル:35
HP:3501/3501(+525)
MP:2364/2364(+354)
筋 力:403(+60)
持久力:425(+63)
速 度:420(+63)
知 力:582(+87)
感 覚:506(+75)
幸 運:488(+73)
スキル:〈調律〉LV1、〈慧眼〉LV2
称 号:なし
――――――――――――――――――――
だいたいはこんな感じ。
祈が共鳴者となったことで、お互いのステータスが15%上昇されている。
他に気になる点があるとすれば、お互いのSP量だろうか。
特に祈は200もSPが余っているため、新スキル獲得はもちろん、〈慧眼〉のレベルを上げることも可能な数字である。
普段なら惜しみたく使いたくなるところだが、今から挑むエクストラボス戦の仕組み上、特にその辺りを気にする必要はない。
そのため、俺たちは現状のままで挑むことに決めていた。
さて、挑戦前の確認もこれで終わりとして――
「万全の状態だな。それじゃ祈、準備はいいか?」
「はい、いつでも大丈夫です!」
俺と祈は互いに目を見合わせ、力強く頷く。
そして、俺たちはボス部屋の前に立った。
扉には小さな窪みが存在する。
俺はそこに【蔦鎧の宝玉】を埋め込んだ。
すると、それまで白く輝いていたボス部屋の扉が一転して黒に染まっていく。
これをもって、エクストラボスへの挑戦が可能になったのだ。
「それじゃ、そろそろ行くか、祈」
「はい、佐伯さ……いえ、奏多さん!」
「……ん?」
今までと違う呼ばれ方が引っかかり、俺は振り返る。
するとそこには、僅かに顔を赤く染めた祈の姿があった。
彼女はそのまま、少しだけ恥ずかしそうに口を開く。
「そ、その、せっかく正式にパーティーを組んだことですし、お名前で呼んでもいいかなと思いまして……」
「あ、ああ。それはもちろん」
一大イベントのように告げる祈を見て、ふと思い出す。
彼女とは違い、俺がこれまで普通に祈のことを下の名前で呼んでいたことを。
(摩天楼の上階層には色んな国の冒険者がいて、名前はファーストネーム呼び捨てが基本だったから、うっかりその感覚が残ったままだったな……)
何か特別な意図があったわけではないのだが、それを受けて祈も俺と距離を詰めようとしてくれたということだろうか。
……俺はそんな彼女の気持ちに感謝の念を抱きつつ、微笑みを返す。
「それじゃ改めて――行こう、祈」
「はい、奏多さん!」
絆を確かめるように名前を呼び合った後、視線を前方に戻す。
意を決して扉を開け中に入って行くと、そこには異様な空間が広がっていた。
「これは……」
本来、第10階層の
第1階層の【白き番犬】と対を為す白鎧の騎士であり、殺風景な空間で待ち構えている。
しかし今回、俺たちがエクストラボスに挑戦する影響か、内装はガラリと変化していた。
まず、全体の様子を一言で表すなら大聖堂がピッタリだろうか。
天井は高く、まるで空に届きそうなほど。
左右の壁面には色鮮やかなステンドグラスが並ぶ。
そして部屋の最奥。そこには一際大きな指揮台が鎮座していた。
「……何だか、ボス部屋にしては不思議な空間ですね」
「ああ」
祈の言葉に相槌を打ちつつ、周囲を警戒していた直後だった。
「シィィァァァアアアアアアアアア」
耳をつんざくような、けたたましい声が室内いっぱいに響き渡る。
見上げると、指揮台の遥か上空から一人の人影が舞い降りてきていた。
小太りな人影は黒いタキシードに身を包み、頭上には不気味な
そして両手。そこには指揮棒を思わせる二本の棒が握られていた。
俺は素早く、ボスの情報を確認する。
――――――――――――――――――――
【
・レベル:50
・フロアボス(エクストラボス):第十階層
――――――――――――――――――――
「
エクストラボスなだけはあり、やはりレベルはかなり高めだ。
とはいえこの程度なら想定内。
〈共鳴〉や【最速踏破者】によるステータス上昇に加え、祈の〈波長乱し〉と〈波動励起〉があれば、パラメータ面でも十分上位に立てるはず――
――そんな期待を許してくれるほど、第10階層のエクストラボスが甘くないことを俺はよく理解していた。
「ァァァアアアアアアアア!」
続けて
彼らは皆、種類こそ違えど一様に楽器を手にしている。
つまりは一つの楽団。奴らはコンダクターに仕える演奏家集団であり、場の雰囲気と合わさって、まるでオーケストラ会場のような様相を見せていた。
それを見た俺は、思わず眉をひそめる。
「厄介だな……複数ボスときたか」
――こうして、俺たちとエクストラボス【
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