第15話 ランキング1位の実力


 ――佐伯さえき 奏多かなたが〈水滴石穿すいてきせきせん〉と〈重奏撃じゅうそうげき〉を駆使し、アイヴィー・ガーディアンを追い詰めていく一方。



 後方からその光景を眺めていた少女――白河しらかわ いのりは驚きに目を見開いていた。

 それほどまでに、奏多の戦いぶりが彼女にとって衝撃的だったからだ。


 レベル差を物ともせず、アイヴィーの蔦を斬り落としていく奏多。

 その火力も恐ろしいが、祈にとって一番の衝撃は奏多の身のこなしだった。

 次々と襲い掛かってくる蔦の攻撃を、まるで未来でも見えているかのように最小限の動きで回避し、的確に攻撃を浴びせていく。



「……すごい」



 『迷いの森』を一緒に攻略する中、彼の凄さに衝撃を受ける瞬間は多々あった。

 しかし今、目の前に広がる光景はそれらと比べ物にすらならない。

 彼の本気の姿は、口から自然と感嘆の言葉が漏れ出してしまう程にまで、祈を心を掴んで離さなかった。


 敵は彼よりレベルが10近く高い魔物だというのに、まるで相手になっていない。

 自分の援護など、初めからいらなかったと思わされるほどだ。


 現に、既に戦闘が始まってから1分以上が経ち〈波動励起〉が切れているにもかかわらず、奏多の動きはむしろ洗練さと迫力を増していく。

 〈波長乱し〉こそ継続して発動しているが、これがなかったとしても結果は変わらなかっただろう。


 冒険者の常識を覆すほどの圧倒的な実力。

 祈は改めて、彼が何者であるかを思い出していた。



「これが、数々の記録を塗り替えてきたランキング1位の実力……!」



 日本最速の、さらに数倍の速さで摩天城を駆け上がっていく冒険者【NoName】。

 これまでも決して疑っていた訳ではないが、その正体が奏多であることを、祈は改めて強く実感していた。


 そして、だからこそ疑問に思ってしまう。


(どうしてこれだけ凄い人が、私をパーティーに誘ってくれたんでしょう……)


 奏多からは〈調律〉の凄さや祈の可能性について力説されたが、やっぱり自分に彼と並び立てるだけの何かがあるとは思えない。

 やっぱり、パーティーを組むのはやめておいた方がいいのではないか。

 そんな不安が胸中に湧き上がってくる。


 だが、


(それでも、私は)


 普段ならそう卑屈になってしまいそうな中、祈はグッと堪え、奏多の戦う姿をまっすぐ見届けようと思った。


 今はまだ、祈自身は自分の可能性を信じられていない。

 それでも、あれだけの実力を持つ奏多が認めてくれたのなら、少しは自分を信じられるような気がした。


 その上で、さらに思う。

 奏多と共に冒険する中で、今はまだ彼の言う通りに動くことしかできていない。

 けれど……



(いつかちゃんと、私自身の力で、佐伯さんの助けになりたい……!)



 祈の中で、冒険者として生きていく上で大きな目標が生まれた、その一方。

 アイヴィー・ガーディアンとの戦いに、とうとう決着がつこうとしていたのだった――



 ◇◆◇



 戦闘開始から、約3分が経過。

 2つのスキルを巧みに組み合わせて猛攻を仕掛けた結果、10本以上あったアイヴィーの蔦は既に4本にまで数を減らしていた。


 その光景を前に、俺は小さく微笑む。


「さて、下準備はここまでだ」


 これだけの数では、ヤツの巨大な体を覆い隠すことはできない。

 蔦に比べて柔い胴体が、ところどころ剥き出しになっていた。


 それでも必死に対抗すべく、蔦を素早く動かして体を守るアイヴィーだったが――


「防御が間に合っていないぞ」

「ガァッ!?」


 その合間を縫って放たれた剣撃が、次々と深い傷跡を残していく。

 もはや〈水滴石穿〉の効果がなくとも、十分にダメージを与えることが可能になっていた。


「ゴァァァァァアアアアアアアア!」


 最終盤、アイヴィーは最後の足掻きのごとく、残る蔦を全て使って攻撃を仕掛けてくる。

 しかし苦し紛れで放った攻撃を喰らってやるほど、俺は甘くない。


 グッ、と地面を蹴り加速。

 全ての蔦による攻撃を潜り抜け、目の前には完全に弱点をさらけ出したアイヴィーが迫る。

 俺はそのまま、〈重奏撃〉による斬撃を一気に五発浴びせてみせた。


 そして最後の一撃のみ、〈重奏撃〉を解除。

 両手で握り締めた剣を高く構え、渾身の一撃を振り下ろす。



「うおおおぉぉぉぉぉッ!」



 白銀の刃はアイヴィーの胴体に命中し、見事にクリティカルを発生。

 そのままヤツの巨体は真っ二つに両断され、ゆっくりと崩れ落ちていく。


 その直後、



『経験値獲得 レベルが5アップしました』

『SPを50獲得しました』



 鳴り響くレベルアップ音。

 それを聞いた俺は振り返ると、ここまで援護してくれた祈に向かって告げる。


「終わったぞ、祈」


 かくして、蔦鎧の守護者アイヴィー・ガーディアンとの戦闘は、無事に俺たちの圧勝で幕を閉じるのだった。

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