第14話 〈重奏撃〉
祈に〈
俺は【
「かかってこい」
「ガァァァアアアアア!」
俺の言葉に応じるように、アイヴィーは雄叫びを上げ、ドスンドスンと地面を揺らしながら迫ってくる。
そして、蔦に覆われた剛腕を勢いよく振り下ろしてきた。
「遅い」
「――ッ!?」
その動きを読んでいた俺は素早く背後に回り込む。
そして、そのまま力強くショートソードを振り切るも、ギィンと鈍い音とともに刃が弾かれた。
「……やっぱり、そう簡単にはいかないか」
予想していた結果とはいえ、俺は思わず眉をひそめる。
アイヴィーは攻撃力と防御力に秀でた魔物。
体中が硬質な蔦によって覆われているせいか、生半可な攻撃は通じず、逆にあちらからの重みのある殴打はかなりの破壊力を誇り一撃でも致命傷になりうる。
しかし、蔦による重みがあるせいか動き自体は遅い。
立ち回りにさえ注意すれば、一方的にダメージを与えていくことも可能――そう考える者を呆気なく葬ってしまう厄介な特徴を、アイヴィーは有していた。
「ゴォォォオオオオオ!」
「――――ッ!」
咆哮と共に、アイヴィーの体を覆っていた蔦の一部が解ける。
直後、それらがまるで鋭い槍のように、グンッと俺に目がけて迫って来た。
「佐伯さん!」
「大丈夫だ」
祈の驚いたような声が聞こえるが、当然これも想定通り。
俺は細かいステップで2本の蔦を回避した後、
「――
〈水滴石穿〉を発動し、残りの1本を剣で弾いてみせた。
そのまま連撃を浴びせようとするも、他の蔦が再び襲い掛かってきたため、諦めて一度後方に飛び退く。
「……さて」
そしてそのまま、改めてアイヴィーの情報を整理することにした。
見ての通りだが、アイヴィーには2通りの行動パターンが存在する。
1つ目が蔦を全て体に巻き付け、攻撃力と防御力に重みを置いた近距離型。
2つ目が蔦の一部を開放し、離れた敵に手数で攻撃をしかける遠距離型だ。
この2つの戦闘形態を自由自在に使い分けるコイツはかなり厄介であり、レベル以上の強さを誇っているといっていいだろう。
特に、俺にとって面倒なのは後者の遠距離型。
複数の蔦が同時に襲い掛かってくるため、切り札である〈
それだけでは、クリティカル発生率も火力も十分な水準まで伸びないのだ。
(水滴石穿は10回以上の攻撃を浴びせることを前提にしたスキル。最低でも、7~8回は確保したいところだ)
では、どうするのか。
それらの問題を解決してくれる対策を、俺は既に考えていた。
「やはり、
俺は素早くステータス画面を操作し、スキル一覧を表示する。
――――――――――――――――――――
〈共鳴〉LV1→LV2
(必要SP:200)
※条件を満たしていないため、このスキルは取得できません。
〈水滴石穿〉LV1→LV2
(必要SP:300)
――――――――――――――――――――
真っ先に表示されたのは、既に保有しているスキルたち。
〈共鳴〉は取得条件を満たしておらず、〈水滴石穿〉に関しても現在の保有
そのため俺はさらにスキル欄をスライドさせ、新規獲得欄からそのスキルを探す。
すると、目的のスキルはすぐに見つかった。
「これだ――〈重奏撃〉!」
200SPを消費し、俺はすばやくそのスキルを獲得した。
――――――――――――――――――――
〈
・MPを消費して発動可能。
攻撃成功時、二回分の攻撃判定が発生する。
(一撃ごとの火力は減少する)
――――――――――――――――――――
通常スキル〈重奏撃〉。
説明の通り、攻撃時の衝撃――攻撃判定を2回発生させるスキルだ。
代償として、一撃ごとの攻撃力が60%まで減少するというデメリットを持つ。
とはいえ、2回攻撃判定が発生するのなら、合計で120%となるからむしろプラスなんじゃないか――そう思う者も多いだろう。
しかし残念ながら、そう上手くはいかない。
なぜなら魔物にダメージを与えた際のダメージ量は、こちらの攻撃力が、どれだけ向こうの防御力を上回れたかによって決定するからだ。
そのため、相手の防御力が相当低くでもない限り、〈重奏撃〉を発動した際の最終ダメージ量は通常時より下がることの方が多い。
(ならなんで、わざわざ大量のSPを消費してこのスキルを獲得したのか――それは特定の条件下において、〈
たとえば毒属性の武器を使用している場合、相手に毒状態を付与できるかどうかの判定は攻撃成功ごとに行われることが多い。
要するに、このスキルを使えば、確率に左右される能力の試行回数を強引に増やすことができるのだ。
そしてその利点は、そのまま〈水滴石穿〉にも適用される。
一撃を浴びせた度、通常であればクリティカル発生率と火力が5%ずつしか上昇しないはずが、一気に10%も上昇するのだ。
つまり、たった5回攻撃を浴びせるだけで、それぞれを最大値まで上げることができる。
その上で最大火力を浴びせたいのなら、その時だけは〈重奏撃〉を切り、100%の火力に〈水滴石穿〉の効果を上乗せしてやればいい。
(さあ、準備は整った)
俺は改めて剣を構えると、真正面からアイヴィーを見据える。
スキル取得中にもヤツは次の準備を終えていたようで、すぐに先ほどと同じ本数の蔦を放ってきた。
俺はそのうち、先ほど剣で弾いた一本の蔦に視線を向ける。
(さっきの水滴石穿発動から、まだ30秒と経っていない。今なら――)
「――
「ッッッ!?」
獲得したばかりの〈重奏撃〉を発動し、蔦を弾き飛ばす。
同時に、手には二重の衝撃が発生。
このスキルを発動している時にしか味わうことのない、独特の感触が襲ってくる。
それはアイヴィーも同様だったのだろう。
先ほどと違い、僅かに対応を遅らせた。
「はあッ!」
その隙を狙い、蔦に向かってさらに3回連続で剣を振るう。
30秒前の初撃に加え、2連撃×4――計9回の斬撃を浴びせたおかげか、そのうち幾つかはクリティカル攻撃が発生し、見事に蔦を切断することに成功した。
「ガァァァアアアアア!?!?!?」
想定していなかったであろう事態に、声を荒げるアイヴィー。
それを見届けた俺はニッと笑みを浮かべた。
そして、
「手応えは十分。このまま仕留め切るぞ」
力強く地面を蹴り、アイヴィーに迫っていくのだった。
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