第13話 アイヴィー・ガーディアン
「それで佐伯さん、具体的にはどうすればいいんですか?」
祈の問いかけに、俺は他人の魔力へ干渉する上でのコツを伝えることにした。
「まずはじっくりと自分の魔力に向き合い、他との差を見極めることからだな。でないと他人の魔力に干渉するときの感覚が掴みにくくなるんだ。理想を言えば、離れた場所から繊細な操作をできればいいんだけど……」
さすがに初めからそのレベルを望むのは無理があるだろう。
ということで、
「今回は分かりやすく、直接触れながらの強化を試みよう」
「直接、ですか?」
「ああ、まずは俺の手を握ってくれ」
「わ、分かりました。失礼します……」
祈が遠慮がちに俺の手を握ったのを見て、説明を続ける。
「強化の具体的なコツとしては、対象者の内側に魔力を浸透させて、その人の潜在能力を引き出すイメージだな。魔力がより効率的に全身にいきわたるように、道筋を作るんだ」
「内側に浸透させ、全身にいきわたるように……」
俺のアドバイスに従い、祈は徐々に魔力の使い方を学んでいく。
まずは第一段階として、自分とそれ以外の魔力の違いを把握することから。
俺の内部には俺の魔力しか存在しないため、ありとあらゆる魔力が漂う外気を扱うよりも難易度は格段に下がるはずだ。
「……うん、これなら」
すると、祈の表情が真剣なものに変わる。
どうやら俺の魔力の特性をしっかりと捉えられたようだ。
それからも試行錯誤を続けること10分後。
〈調律〉による
「よし、いい感じだ。俺の身体能力がアップしているのが分かる」
「本当ですか?」
「ああ。倍率としては、だいたい7~8%ってところか」
「そ、それだけですか? 〈波長乱し〉の時は20%減少とのことでしたが……」
少しだけ不満げな表情を浮かべる祈。
だが、俺としてはこの結果は上々だと感じていた。
「使用している魔力量が違うし、初めてにしては十分すぎるくらいだ。とはいえ当然この程度で満足してもらう気はない。これからはもっと〈調律〉の使い方を研究していこう。祈の才能なら、必ずこれ以上にうまくやれるはずだ」
「……! はい、がんばります!」
祈の目が希望に満ちる。
とはいえ、本番はここから。
あとは実戦の中で、どれだけ使いこなせるかが本当の勝負となる。
「バフには持続時間があるし、実際には魔物と遭遇してからの短い時間で強化を行う必要がある。今のように、数分と時間をかけるわけにはいかないからな」
「はい!」
気合十分に頷く祈。
こうして俺たちは、新たな〈調律〉の使い方を携えて、森の奥地を目指して進んでいくのだった。
◇◆◇
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『SPを10獲得しました』
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『SPを10獲得しました』
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『SPを10獲得しました――――
約3時間後。『迷いの森』の進度50%付近にて。
適度に休憩を挟みつつ、格上の魔物中心に討伐することで、俺たちはここまで順調に経験値を獲得していた。
その結果、現在の俺たちのステータスはというと――
――――――――――――――――――――
名前:
性別:男性
年齢:18歳
レベル:31
HP:3417/3622 MP:1028/1639
筋 力:521
持久力:414
速 度:540
知 力:329
感 覚:371
幸 運:362
スキル:〈共鳴〉LV1、〈水滴石穿〉LV1
称 号:【最速踏破者】
――――――――――――――――――――
名前:
性別:女性
年齢:18歳
レベル:30
HP:2953/2953 MP:639/1984
筋 力:347
持久力:362
速 度:358
知 力:491
感 覚:428
幸 運:410
スキル:〈調律〉LV1、〈慧眼〉LV2
称 号:なし
――――――――――――――――――――
このように俺がレベル31、祈はレベル30にまで到達していた。
「これまで経験してきたのとは比べ物にならないレベルアップ速度ですね……」
改めてステータスを確認した祈が、信じられないと言った様子でそう零す。
(まあ、普通の冒険者からしたらそう感じるのも無理はないか……)
そんな感想を抱く傍ら、俺は改めて祈の才能の高さを実感していた。
最初に比べれば、強化魔法の発動にかかる時間は15秒ほどにまで短縮し、効果時間も1分弱まで伸びている。
この伸び率は、尋常ではない。
この調子でさらにレベルアップとスキル特訓に励みたいところではあるが……体力と残りMPを考慮すれば、今日はこの辺りで引き上げるべきだろう。
「そろそろ、町に戻る頃合いかな」
「そうですね。私もちょっと疲れが……」
そんなやり取りをしている、まさにその時だった。
「ァァァァァァァアアアアアアアア!」
地響きのような咆哮が、俺たちの会話を引き裂く。
次の瞬間、目の前の木々が根こそぎ薙ぎ払われ、巨大な影が姿を現した。
「な、なんですかアレは!?」
太い蔦に全身を覆われた、3メートル近い高さを誇る巨人――
否、巨大な魔物の出現に祈が悲鳴を上げる。
そして祈ほどではないが、困惑しているのは俺も同様だった。
「……どうして、コイツがここに……?」
――――――――――――――――――――
【
・レベル:40
・エリアボス:『迷いの森』
――――――――――――――――――――
アイヴィー・ガーディアン。
表示されている通り、この『迷いの森』を支配するエリアボスだ。
しかし通常であれば、この魔物は最奥の定められた区域にのみ出現するはず。
それがこんな場所に現れるとは……一体どういうことなのか。
そう疑問に抱く俺の横では、祈も遅れてヤツの情報を確かめていた。
「そんな、エリアボス……!? 早く逃げましょう、佐伯さん!」
取り乱しかけている祈の言葉を聞きながら、俺は考え込む。
(祈もいるし、彼女の言う通りここは逃げるべきか? ……いや)
ちらりと、俺は改めて自分のステータスを確認する。
俺のレベルは31を超え、SPは210となっている。
これだけあれば、
(それにレベル差自体も【智慧の蛇】と戦った時以下。二周目の俺にとっては大した相手じゃない)
せっかくの機会だ。
ここからさらに時間をかけて会いに行くのは面倒だと思っていたが、向こうから来たのであれば都合がいい。
さっさと倒して、目的のアイテムを獲得させてもらうとしよう。
「祈、バフを頼む。その後は後方から、あるだけの魔力を使ってヤツにデバフをかけてくれ」
「えっ? まさか……」
「ああ。せっかくの機会だ、アイツはここで倒させてもらうとしよう」
かくして、想定していなかったボス戦が幕を開けるのだった。
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