第12話 〈波長乱し〉

「ふー、無事に終わったな」

「佐伯さん!」

「ん?」


 討伐を終え息を整えている俺の元に、祈が慌てた様子で駆け寄ってくる。

 何かあっただろうか?


「その、申し訳ありませんでした!」

「……えっと、何の話だ?」

「いえ、結局私のスキルじゃダメージを与えられなくて、全て佐伯さんに任せる形になってしまったので……」


 ……ふむ。

 やはりと言うべきか、どうやら祈は自分のスキルがどういうものなのか理解していないらしい。

 まずはその認識違いを改めるところから始めるべきだろう。


「そんなことはない。期待通り、凄い効果だったぞ」

「……えっ?」


 困惑する祈に対し、俺は先ほど考えていた内容を伝えていく。


 〈調律〉はそもそもサポート用スキルであること。

 バフやデバフ、索敵といった多種多様な使い道があること。

 そのうちの一つである〈波長乱しデバフ〉を祈は無意識に発動させており、それがどれだけ凄いことなのか、などなど。


 一通り話し終えた後、祈は目を丸くしていた。


「私が、そんなことをしてたんですか……?」


 これまでの認識と大きく異なるせいか、まだ完全には納得できていない様子。

 そこで俺は別の方向から説明することにした。


「前のパーティーに所属していた時に、何か心当たりはないか? 祈が調律を使っている時だけ、やけに魔物が倒しやすくなったり」


 すると、祈がハッと何かに気付いた素振りをする。



「そ、そう言えばありました。何とか皆さんの役に立とうと調律を使った結果、魔力切れになってしまうことが何度かあって……そういう時は決まって、その後の討伐速度が落ちていたんです。ただ、皆さんからは『足手まといのお前を庇ったせいで体力と集中力が落ちただけ。お前がいなければ初めからもっと早く討伐できた』って言われ、それで……」

「……やっぱりそうか」



 これでようやく納得できた。

 やはりこれまでも、祈の〈調律〉自体は役立っていた。

 ただ以前のパーティーには、それを祈によるものだと理解している人間がいなかったのだろう。


(こうなってくると、これまでの快進撃についても怪しくなってくるな……)


 祈の〈調律〉がもたらす効果は甚大。

 土村たち元パーティーは、恐らく知らず知らずのうちに彼女へ依存していたはず。

 これまでに致命的な事故が起きなかったのも、“祈の〈調律〉が切れて魔物が倒しにくくなる”=“自分たちの体力や集中力が切れて苦戦している”と解釈し撤退、が運よく機能していただけだ。


 その認識ができなくなった今ごろ、果たして彼らはどうなっていることやら。

 以前までと同じ感覚で格上に挑戦してなければいいのだが。



「……まあ、俺が気にすることでもないか」

「? 何か言いましたか、佐伯さん?」

「いや、何でもない。それより、〈波長乱し〉も効果自体はいいんだが、現状だと魔力消費量が大きすぎる。できるだけ節約する方法を考えないとな」

「節約、ですか?」



 俺はコクリと頷く。



「たとえば、魔力を相手に直接ぶつけるんじゃなくて、味方の魔力に干渉して強化するって手がある。対象は限られるけど、その分低燃費で強化することができるんだ」

「そんな方法があるんですか?」

「ああ。乱暴に魔力をぶつけるだけで成立するデバフと違って、それなりに魔力への理解と操作技術がいるんだが……逆に言えばスキルを使う中でそれらを学ぶことができるし、結果的に〈波長乱し〉使用時の効率を上げることにも繋がる。やってみる気はあるか?」

「は、はい、お願いします!」



 そう告げる祈の顔には、これまでにはないやる気が満ちていた。

 〈調律〉の可能性と、今までに自分がやってきたことに意味があったのだと理解できたからだろう。


 これから教えるバフは〈波長乱し〉と異なり難易度が高いが、これだけの才能と向上心があるのならすぐにでも覚えられるかもしれない。


「それじゃ、始めるぞ」

「はい、佐伯さん!」


 こうして俺と祈は、次の段階へと足を踏み入れていくのだった。

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