第10話 レアスキル〈調律〉
「調律……?」
祈のレアスキルが〈調律〉であると知った俺は、驚きのあまり言葉を失った。
そんな俺を見て何か勘違いしたのか、祈は気まずそうに続ける。
「や、やっぱり知りませんよね、こんなスキルなんて。スキル説明にしたって、『魔力の波長を整え、様々な効果を生み出すことができる』っていう意味不明な一文しかありませんし……」
そんな彼女に対し、俺は言った。
「いや、そんなことはない。他のレアスキルと比べても、調律はトップクラスに優秀なスキルだ」
「え?」
その言葉は嘘ではない。
〈調律〉は一周目において、最高峰のサポートスキルと称されていたほど優秀なスキル。
味方へのバフ、敵へのデバフ、周囲の索敵。
ありとあらゆることを叶えられる万能の力だった。
とはいえ、それだけ優秀なスキルにもなれば当然デメリットも付随する。
どのような効果が齎せるかは、使用者の魔力操作技術に依存してしまうのだ。
他のスキルのように発動すればシステムが自動でサポートしてくれるわけではなく、本人が一から魔力の扱い方を学ぶ必要がある。
そのため初心者が使いこなすには、かなり難易度が高いスキルと言えるだろう。
(なるほど……祈やパーティーの奴らを含め、これまでは誰も使い道が分からず持て余していたってところか)
その効果が十全に発揮された時のことを想像すれば、勿体ないの一言に尽きる。
このスキルを使いこなせていれば、彼らは何倍もの速さで上層に駆け上がれただろうに。
祈りの持つ〈調律〉は、それほどまでに強力なスキルなのだ。
(――それだけじゃない)
〈調律〉の魅力は、ただ強力なだけではない。
俺にとっては何より重要なことが、もう一つ存在する。
〈調律〉のスキルレベルが上がることで獲得可能な
もっと言うと、第1階層の
つまり何が言いたいかと言うと、祈は摩天城のシステム直々に、〈調律〉を使いこなす才能を認められたということ。
(――こんな逸材、絶対に逃せない!)
俺は身を乗り出すと、まっすぐ祈を見つめた。
「祈、一つ頼みがある」
「えっ? は、はい、何でしょうか?」
「俺と、パーティーを組んでくれないか?」
「……へ?」
素っ頓狂な声を上げる祈。
まるで自分が今、何を言われたか理解できていないようだ。
「もう一度言う。俺とパーティーを組んでくれないか?」
「……ほ、本気で言ってるんですか?」
再度同じことを伝えると、ようやく受け止めてくれたらしい。
戸惑うような彼女の問いに対し、俺は力強く首肯した。
「ああ、もちろん。今言った通り、調律は強力なスキルだし、俺ならその使い道を教えられる。まずは仮パーティーでいいから、一緒に組んでみないか?」
「…………」
想定外の言葉に驚くように目を見開く祈。
彼女はしばらく悩むような素振りを見せた後――自信なさげな表情でゆっくりと俯いた。
「や、やっぱり難しいと思います。お誘い自体はすごく有難いですし、断ってしまうのも申し訳ないんですが……佐伯さんは土村さんを圧倒されるくらい強い方ですし、きっと私が足を引っ張ってしまいますから。組むなら私なんかより、他の人の方がいいんじゃ……それこそ、最近噂のノーネームさんとか!」
……ふむ、ここでもNoNameときたか。
「残念だけど、それは無理だな」
「っ、そ、そうですよね、ごめんなさい。あの方は引く手数多でしょうし、そもそも会えるかどうかすら――」
「いや、そうじゃなくて。俺がそのNoNameだから」
「……………ふぇっ?」
祈は本日何度目かも分からない、困惑の表情を浮かべた。
つい話の流れで俺の正体を明かしてしまったが、どの道仲間になる相手に隠すつもりはないから問題ない。
「ノ、ノーネーム? 佐伯さんが? 圧倒的な速度でダンジョンを攻略しているっていう、
くるくると目を回す祈。
どうやら、今の一言だけではまだ信じてもらえていないようだ。
(どうすれば信じてもらえるだろうか……そうだ!)
俺はステータス画面を表示し、その称号欄を祈に見せる。
「ほら、この【
「………………」
それを見た祈はしばらく無言でステータス画面を凝視した後、
「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
これでもかと絶叫するのだった。
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