第8話 追放と圧倒

 視線を向けた先には、少し気分のよくない光景が広がっていた。


 真っ先に視界に入ったのは、銀色の髪を肩口で切り揃えた可愛らしい少女。

 彼女は数人の男女に囲まれて、居心地が悪そうに両手で杖を握りしめる。

 大きく澄んだ瞳が、不安げに揺れ動いていた。


(さっきの発言からするに、あの集団はパーティーで、戦力外の彼女を脱退させようとしてるって感じか……)


 そう分析する俺の前で、少女はゆっくりと声を出した。


「お、お願いします! これからは足を引っ張らないように頑張ります。だから、このパーティーにいさせてください……!」


 震える声で懸命に頭を下げる少女。

 どうやら彼女には、冒険者としてどうしてもやり遂げなければならないことがあるらしい。


 しかしそれを聞いたリーダーらしき男が、声を荒げて言い放った。


「ふざけんな! を持ってるから誘ってやったのに、まったく役に立たねぇ。そんな奴を残しておく意味がないだろ」

「そうそう。それで生意気にも報酬を求めるんだから困ったものね」


 他の女性冒険者も同調するように告げる。

 非難の声に、少女は俯いてさらに申し訳なさそうな顔をした。

 しかしリーダーたちは気にせず話を続ける。



「なあなあ、新しくパーティーに入れるならどんな奴がいいと思う?」

「そりゃ、私たちに匹敵する才能の持ち主よ」

「あっ、だったらアイツはどうだ? 最近噂になってるノーネーム!」

「おお、悪くねぇな。こんな足手まといよりはよっぽど役立つだろうし!」



(いや、絶対嫌だけど)


 思わず内心でそう突っ込んでしまった。


 と、そんな未来は1%もないから置いておくとして。

 周囲を見渡せば、何の騒ぎかと徐々に野次馬が集まり始めていた。

 明らかに良くない雰囲気だ。


「………………」


 そんな中で俺はというと、冷たい目で彼らを見つめつつ、思考を巡らせていた。


 ダンジョンの攻略は文字通り命がけであり、パーティー運営において、その手の判断はシビアにやる必要がある。

 故に俺も、こういったパーティーからの追放自体を否定するつもりはない。


 ただ、


(……わざわざこんな衆人環視の中で、あんな言い方をするってんなら話は別だけどな)


 内心で不満を抱きつつ、俺は少女の様子を伺った。

 彼女は皆の視線を意識しているのか、どんどん委縮していく。

 リーダー格の男はそんな彼女に顔を向けると、そのまま不満げな表情で、乱暴に少女の肩を掴もうとした。


「なあ、分かっただろ? お前はもう不要なんだから、とっとと消え――」

「――!」


 恐怖するように目を見開く少女。

 それを見た瞬間、俺は静観を諦めた。


「ちょっと待ってくれ」


 そう告げ、ゆっくりと彼らに近づいていく。

 男は俺に気付くと、眉をひそめて口を開いた。


「あぁん? 誰だテメェ、俺たちに何か用か?」

「用というか……そういう話はせめて、人のいないところですべきじゃないか? それに言い方ってものもあるだろう」

「あぁ!? そんなもん、お前には関係ないだ、ろ……」


 発言の途中、男は俺を見て動き止めた。


「はっ、おいおい、なんだその貧相な装備は。もしかしてお前も、金魚の糞みたいにどこかのパーティーに寄生して上がってきたタチか? そんで同じ立場のコイツを庇おうとしたってわけだ」


 ……ふむ。

 ここまでは速度重視で攻略を続け装備の優先順位が低かったため、確かに第10階層の冒険者として俺の装備はかなり見劣りする。

 そこから俺を実力の伴わない新米とでも勘違いしたのだろう。


 残念ながら、その予想はまったく見当違いなわけだが……わざわざそのことを言う必要はないだろう。

 それより、


「今そんなことは関係ないだろう。ただ、時と場所を考えろと言ってるんだ」

「っ、うるせぇ! 外野が口出ししてきてんじゃねぇよ!」


 リーダーはそう叫ぶと、苛立ちを抑えきれないとばかりに殴りかかってきた。

 その動きを見届けながら、俺は内心で溜め息をつく。


(口頭で済ませればよかったんだが。こうなったら、少しばかり痛い思いをしてもらうしかないか……)


 そう覚悟を決めると、俺は戦闘態勢に入る。

 お山の大将とでも言うべきか、いくら威張っていようと、コイツはせいぜい第10階層で活動する一般冒険者でしかない。

 俺にとっては動きが止まっているも同然で、簡単に対処することができた。


「遅いな」

「なっ!?」


 するりと身を躱すと、リーダーの拳が虚しく空を舞う。

 その腕を易々と捕まえると、俺はそのまま男の身体を捻った。


「ぐあっ!」


 バランスを崩したリーダーを勢いよく投げ飛ばす。

 宙を舞った彼は、やがて背中から地面に叩きつけられた。


「が……は……」


 息も絶え絶えに、リーダーは何とか身体を起こす。

 その目には俺に対する怒りと反抗心が込められていた。

 どうやらまだ懲りていないようだ。


「舐めやがって! 俺に逆らったこと、今すぐ後悔させてやる!」


 取り乱しつつ、リーダーは鞘から剣を抜こうとする。

 そんな彼に、俺は冷たく告げた。


「抜くのか?」

「……え?」


 困惑したように動きを止めるリーダーの前で、俺は腰元の短剣に手を添える。



「それを抜いたら、退


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