28日目 神様




 ──この世界にもし神様が存在するとしたら、そのカミサマは相当性格が悪いのだと思う。




 もちろん、夕映と会えた巡り合わせをカミサマのおかげとするなら、私はカミサマに感謝をして、ありがとうございます、と頭を下げなければならない立場なのだろう。


 だけど、それ以上にカミサマは理不尽で、いじめ好きだ。


 人がずっと欲しかったものを与えておいて、途中でそれを取り上げる。

 ……そんなの、やっていいはずがないのに。カミサマだから許されるのか。


 私の一番大切なものを塗り替えておいて。行動原理まで彼女に染まった状態で。

 今更いなくなるだなんて、そんなの悪質過ぎる。






「ね。汐璃?」


 考え事に耽っていると、夕映が自分の頭の上を指さしながら訊いてきた。


「私の寿命、今日含めてあと3日なわけでしょ?」

「……うん」

「なんか、赤色になってピコーン、ピコーン、ってなってたりしない?」

「……そんな、宇宙から来た特撮ヒーローみたいなことにはなってないかな」


 夕映は今日も何も変わらない。まるで寿命がまだまだ長い人みたいに。


 寿命が見えない人は、皆こうなのかもしれない。私だけが今みたいな苦しみを背負っている。──心の準備をする時間が長い、とも言えるかもしれないけれど。


「……汐璃。元気ないね」


 夕映が気遣うように私の顔をじっと見てきた。

 かと思うと、自分の顏の両側を両手でつまんで変顔を披露してくる。


 あまりに急なことで準備ができていなかったこともあり、私は吹き出してしまう。


「……ふふ。なにそれ」


「あ、笑った。私の勝ちね?」

「もしかしてにらめっこしてた?」

「ううん。『汐璃が笑ったら私の勝ち』ゲーム」

「それ、私の勝利条件なくない?」


 続けざまに冗談らしいことを言われて、私は思わず突っ込んでしまう。

 すると夕映は今度こそ、満足げに笑みを浮かべた。


「やっぱり、その方が汐璃っぽいよ」

「……私っぽい?」

「うん」


 ……なんというか。明らかに慰められているのが伝わってくる。

 それが何となく悔しくて、私は夕映のことをいきなりぎゅっと抱き締めた。


「え」


「…………」


 見るからにあたふたしている夕映を横目に、私は両腕に更に強く力を込める。

 夕映はしばらく何もせずにいたけれど、しばらくすると私の背中に手を回してきた。


「汐璃って意外と、甘えたさんだよね?」

「……そうかな」


「そうだよ。一人になっても大丈夫?」

「……じゃないかもしれないから、ずっと一緒にいて」

「……。うん」











 残り、2日。



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