27日目 身辺整理




「そろそろちょっと、身辺整理しようと思う」

「…………。急だね」


 夕映がベッドから立ち上がって、私の部屋にある荷物を片付け始めた。

 私の部屋の3分の1は夕映の荷物に侵食されているからだ。


 ──私は片付けを手伝わなかった。身辺整理が済んでしまったら、その瞬間に夕映がいなくなってしまう気がして。どちらにせよ寿命が覆ることはないのに。

 夕映から「手伝ってよー」と言われても、私は「……やだ」と、傍観を貫いた。


「──遺影に映る前にダイエットしたいなぁ」


 ふと、そんなことを夕映が呟いた。


「別に太ってないのに」


「汐璃よりは重いし……」

「私より身長高いからね。今くらいがちょうど普通くらいじゃない?」


「それでも痩せたいの。今からどうやったら痩せるかなぁ」

「今からはさすがに遅いんじゃない……?」

「ダイエット格言ならあるよ。1日1食、2日で無職、三日で三色同順サンショク!」

「賭け麻雀にでも嵌っちゃった人?」


 あまり役に立たなそうな格言だった。


「でも、遺影……いいのないかもなぁ。私、たまにしか自撮りしないし」

「そもそも自撮りが遺影になることってあるのかな」

「あ。これ、映りいいかも!」

「その写真、隣に私も写ってるから、私も死んじゃったみたいになるけどね」


 夕映が画像フォルダから選んだのは、私と夕映の高校に上がりたての頃の写真だった。

 この部屋を背景に。私と、軽く私に寄り掛かる夕映が写っている。


 スマホを三脚で立てて、二人で撮った写真だ。

 ……というか、私がちょっと不満そうな顔をしている。こんなの遺影にされたくない。


「身辺整理といえば、エンディングノートを書くと良いって言うよね」

「エンディングノート?」


 夕映の発言中のあまり聞き慣れない単語に、私は聞き返す。


「どんなお葬式にしたいかとか、死後の希望とか、家族への遺言とか。書いておくんだって」


「死後の希望──……。夕映は、何かあるの?」


 何の躊躇もなく夕映から『死』という言葉が出たことに、私は動揺を隠しながら会話を繋ぐ。本当に、私は今も何の実感も湧いていない。……夕映は、どうなのだろう。


 夕映は私の質問に天井を仰ぎながら考え込むと、小首を傾げながら口を開いた。


「できることなら一緒に撮った写真とか。汐璃が残しておいてくれると嬉しいな」


 まるでそれだけで安心できると言うように、優しい笑みが浮かべられる。


「…………、ん」


 何故だか胸が詰まって、私は、小さく頷くことしかできなかった。











 残り、3日。

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