23日目 好きなもの




「──夕映の好きなものって、少女漫画と、アイスと、何があるっけ?」


 ふと、思いついたみたいに私は訊ねた。

 ……けれど、その裏には考えていることがあった。夕映が、最後の日にできる限り心残りがないように、何かプレゼントしてあげたいと思ったのだ。


「最近のブームはパスタかなぁ。すぐ終わっちゃうかもしれないけど」


 夕映は特に何も考えていない様子で答えてくれる。


「こないだ食べたから?」

「そうかも。美味しかったし、また汐璃の手料理食べたいな」

「いいよ」


 美味しかった記憶は多分、市販のソース部分だけど。

 茹でただけのパスタを手料理と言ってもらえるなら私でも作れる。


「あとは……ゲームと、ウサギと……」

「ウサギ……」


 ゲームのことは全くと言っていいほど分からないし、今頃買ったとしても、寿命までにクリアできずに逆に心残りになるかもしれないからダメとして。

 ウサギは私も好きだ。……と言っても、こっちもプレゼント向きじゃない。


「いいよね。……かわいいし、目が合うとどきどきするし、なにより一緒にいると安心するし」


「待って。そっちの好き、なの?」


 ここにきて、まさかのライバル出現だった。夕映とウサギは会わせてはいけない。


「汐璃に対しての『好き』とは違うよ?」

「…………」


 喜んでいいのか敗北感を覚えればいいのか、よく分からないことを言われた。


「汐璃は? 好きなもの」


 私が黙っていると、逆に好きなものを聞き返された。


「……なんだろ。動物ならネズミとか、小さくて動きが機敏な子が仕草がかわいくて好きかも」

「カニとかハエトリグモみたいな?」

「カニが好きって言うと、食べる前提に聞こえるよね。あとクモは別に……」


「カニも嫌い?」

「……まぁまぁ好きかな。たまにかわいいし」


「私も横歩きするとき、結構機敏だよ? さっさっ、て」

「別にカニと張り合わなくてもいいよ?」


 反復横跳びするときみたいに上体を左右に揺らす夕映。やっぱりどこか天然だ。


「まあ、そんなことしなくても。汐璃は私のこと、大好きだもんね」

「…………」


「……私の好きなもの。ものじゃないけど、汐璃と一緒にいるのがやっぱり一番好きかな」


 黙りこくる私に対して、にこにこと笑みを浮かべながら夕映が告げる。


「……。そっか」


 そんなことを恥ずかしげもなく言われてしまうと、どんな顔をすればいいか分からなくなる。

 ──最近、夕映は距離感が近いし。どんな風に接すればいいのかたまに迷う。











 残り、7日。



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