22日目 お酒(ノンアルコール)




「喉渇いたね」

「ちょっと待ってて。冷蔵庫からお茶取ってくる」

「うん。ありがと、汐璃」




     ◇




「お茶がなかったから、お父さんのビール1本貰ってきた」


「あ、いけないんだ」


 私からビールの缶を受け取った夕映が、缶を色んな方向から検める。

 ちなみにノンアルコールのやつだ。


「いけないことしようと思って。一緒に飲むから共犯だよ。心の準備はいい?」

「ちょっと待ってね、心の準備が……」


 ぷしゅー。


「あ、開けた」

「いるから……」


 ごくごく。


「あ、飲んだ……。覚悟決まりまくってるじゃん」


 それも、結構な勢いで飲んでいる。


 缶を半分ほど傾けた辺りで、ようやく「ぷはー」と夕映が息継ぎをする。

 それからしょぼんとした顔をして、肩をぶるっと震わせた。


「いとにがし」


「にがい……。夕映、やっぱり私飲まなくてもいい?」


「……。いとあまし」


「絶対嘘だ……」


 ビールが甘いなんて聞いたことがない。というか無糖の麦芽飲料が甘くなるはずがない。


「……汐璃、私、酔ってきたかも」

「ノンアルなのに?」

「汐璃が五人に見える~。ふふ。お得だ」

「…………」


 いきなり顔を近づけてきた夕映の肩を持って押し戻す。

 と、夕映が想像以上に『がーん』みたいなリアクションを取った。


「……夕映? どしたの?」

「五人から断られたから五人分つらい……」

「それ重複するんだ」


「はっ……今、汐璃から何かしてもらったら五倍お得なのでは?」

「ポイント五倍デー?」


「冗談はさておいて。共犯だから、汐璃もちゃんと飲んでね」

「……わかった」


 ビールを受け取って、苦虫を嚙み潰したような顔で缶の口を注視する。

 軽く匂いを嗅いでみたけれど、いい匂いはしなかった。


「間接キス、だね」

「…………」


 私は無言で夕映の口にビールの缶をつけて傾けた。

 夕映はむぐむぐ言いながらもビールを飲んでいって、遂に傾きが最大になる。


「…………!」


 夕映が口にビールを含んだまま何かを訴えている。

 私は聞こえないふりをして、ベッドに戻ろうとした。


 ──その時だった。


「……ん、っ…………⁉」


 後ろから肩を掴まれて振り向かされたかと思うと、夕映が口移しにビールを飲ませてきた。

 頬を紅潮させじたばたする私を無視して、夕映は口の中のビールを私の口に注ぎこみ続ける。


「……ぷはっ。これで、共犯ね?」


「……っ⁉」


 息継ぎをしながら悪戯っぽい笑みを浮かべる夕映に、私は何も言えずに。

 ごくりと、口内の苦い液体を飲み干した。











 残り、8日。




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