21日目 キス




 ──仰向けの私の上に馬乗りになった夕映が、徐々に迫ってくる。

 何を考えているのか分からない無表情で、ゆっくりと顔を近づけてきて。


 あと少しで唇が触れそう、と言ったところで私は夕映の口に指を突っ込んだ。


「ふぁ」

「それ以上はダメ」


「かぷっ」

「ちょっと痛い……」


 夕映の口の中で適当に指を回していたら、指先を甘噛みされた。

 私が指を引っ込めると、不満そうに眉をハの字にする夕映が、「むー」と零した。


「……最近、汐璃ってキスしてくれないよね」


「そんな気軽にするものじゃないからね」


 前にしたのも、ずっと前の事だ。


「チークキスなら気軽にしてもいいと思う」

「イタリアかスペイン辺りの人?」


 キスは挨拶的な。……まあ、確かに夕映とする時はそんな感覚だけれど。


「そもそもキスって、シチュエーションが大事だからね」

「じゃあ、汐璃がキスされたくなるのってどんなときなの?」


「沈みゆく船首の上で、夕日に照らされてる感動的なとき」

「それ、タイタニック以外で再現できるものなのかな……確かにいいシーンだけど」


 私が誤魔化し続けていると、夕映は私のお腹に軽く体重をかけて目をじっと合わせてきた。


「……。どしたの?」

「昨日も、壁際でちゅーしてくれるって言って結局してくれなかったし」

「怒ってる?」

「ううん。……でも、ちょっと寂しいかも」


 言いながら、夕映は私の上に倒れ込んできた。


「……重い」

「キスしてよー……。ほんのちょっと、一回だけでいいから……!」

「そんな初めて彼女ができた男子高校生みたいなこと言われても」

「してくれるまでここから動かないないから」


 完全に居座り体勢に入った夕映に、私は夕映の背中に軽く手を回す。


「……いいよ。じゃあ、ずっとこうしてひっついていよっか」

「いいの⁉ わーい」

「目的変わってない?」


「全然。だって、二人が密着したらその後にやることなんて一つでしょ?」

「……そうなの?」

「例えばスト6のリュウなら、集中→(パニカン)強足刀→雷刃波掌撃→ラッシュ引き大P→大P→大P→中足刀→強昇龍→CAで最大」

「ごめん。何の呪文か全然分からない」


「むー。……じゃあ、お願い。『熱中症?』って、ゆっくり言って?」

「……それに、何の意味があるの?」


 意味が分からず、なんだか変なことを考えられてそうで聞き返す。


「いいからいいから! ほら、さんはい」


「……ねっ、ちゅう、しょう?」

「言質取った! いいよー」


「やられた……」











残り、9日。





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