17日目 通り雨
ぽつり、ぽつりとアスファルトの色が変わっていく。
手に冷たい感触があったかと思うと、すぐに雨は本降りになり始めた。
「あ……、雨降ってきた」
「汐璃、こっち……! 雨宿りしよー?」
商店街にある潰れた花屋さんの、
「……珍しく出かけた日に、ついてないなぁ」
なんて、夕映がぽつりと呟く。
「傘持ってくればよかったね。……結果論だけど」
「雨降らないのに持っててもかさばるからね」
「…………」
「今のは傘とかさばるをかけた」
「解説しなくていいから」
「……それにしても。空は晴れてるし、雨降るとも言ってなかったのに」
私はまだ太陽が照っている空を仰いで文句を零す。
朝の天気予報では、今日は一日通してずっと晴れだったはずだ。私のだけじゃなく夕映の分まで洗濯ものを干してあるから、家の方では降ってなければいいのだが。
「右足ちょっと濡れちゃってるけど、汐璃寒くない?」
「なんで色々濡れてる中で右足だけチョイスしたのかな。ちょっとは寒いけど」
まあまあ強めの通り雨だったため、右足だけじゃなくて、全身びしょびしょに濡れていた。夏場とはいえ、水に濡れたままだと風邪を引いてしまうかもしれない。
「そっか。私もなんだ」
夕映がそっと手を伸ばして、私の手を取ってくる。
相変わらず柔らかくて小さな手だ。でも、それ以上に──。
「冷た」
夕映は末端冷え性だ。水に濡れたからか、もう手が冷え切っている。
「こういう時は温め合わないとね」
「温まってるのは夕映の方だけだけどね」
私がそう言って夕映の手を軽く振り払うと、夕映はじっと目を見てきた。
そのまま、夕映はゆっくりと距離を詰めてきて口角を上げる。
「……じゃあ、汐璃の身体も温めてあげよっか?」
「刑法第176条(※不同意わいせつ罪)」
「あぅ」
私が頭にチョップを入れると、夕映は変な声を漏らして被撃部位をさすった。
別に強くやったわけじゃないけど涙目になっている。演技派だ。
「そんなことするつもりないのにー……」
「じゃあ何する予定だったの?」
「それは……濡れた服を脱がせてあげようと思って」
「民法第709条(※不法行為による損害賠償請求)」
「あぅ」
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