13日目 カラオケ




 学校帰り、私たちは久しぶりにカラオケに行くことにした。

 特に何があったわけでもなく、いつもの思い付きだ。


 部屋番号の書かれたプレートを貰って、私は部屋に向かおうとする。

 しかし夕映は部屋のある方と反対方向に歩いて行く。


「夕映? 部屋こっちだよ」

「先にドリンクバー入れた方が効率的じゃん」

「それもそっか」


 確かに、と手を打って夕映の後をついていく。夕映は「はい」とガラスコップを私に手渡すと、鼻歌を歌いながらドリンクを選び始めた。


「えーと……コーラと、メロンソーダと、オレンジジュース、あとは……」

「カクテルでも作ろうとしてる?」


 二種類なら混ぜてる人を見たことがあるけど、三種類以上は初めて見る。夕映のコップには、既にコーラに侵食されて黒っぽくなった飲み物が入っていた。




     ◇




「わ。この部屋広いね~。汐璃、マイク白とピンクどっちがいい?」

「じゃあ白で。はい、デンモク」


 私が夕映にデンモクを渡すと、夕映はさっそく曲名を検索し始めた。

 しかし、しばらくして夕映が「あれ……」と首を傾げた。


「どしたの?」


 私が画面を覗き込もうとすると、夕映がばっとこちらを振り向いた。


「汐璃どうしよう。小学校のも中学校のも、高校のも校歌が入ってない……!」

「校歌だからね……」


 多分、余程有名な大学の校歌とかじゃないと入ってない。……というか校歌って、仮にも最近の女子高生がカラオケで選ぶ曲としてどうなんだろう。


 夕映はちょっと残念そうに溜め息を吐いて、またデンモクを手に取る。


「じゃあ……『I Don't Want To Miss A Thing』かなぁ」

「まさかのハードロック……振れ幅すごいなぁ。他にはないの?」

「ないことはないけど。別のが聞きたい?」

「うん。できればもうちょっと落ち着いた曲とかがいいかな」


 一曲目にエアロスミスは、その後のテンションについていける気がしない。

 ……というか、夕映が洋楽を聞いているところなんて見たことがないのだけれど、本当に歌えるんだろうか。ちょっと気にならない。


「仕方ないから君が代にしよっかな。……ダサいし古いし好きじゃないけど」

「ぎりぎり不敬罪に触れそう」


 曲が送信されて、『君が代』と大きく画面に表示される。

 と、急に夕映が立ち上がり、背筋を伸ばした。


「──国歌斉唱、一同、起立!」


「小学校で聞いたことあるフレーズ。まさかこれ、私も歌う流れ……?」

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