9日目 餌付け




 部屋の座卓に二人分のお皿を並べて、フォークをそれぞれ構える。

 私が作ってきたパスタを見て、夕映が目を輝かせる。


「これ、汐璃の手作り?」

「まあ……一応そうなるかな。私の手作り料理だよ」

「わーい」


「といっても、パスタを茹でただけだけど」


「ソースは?」

「市販のカルボナーラ」

「うんうん。どおりで美味しいね」

「ちくちく言葉だ……」


 軽口を言いながら、二人してパスタを食べ進める。


 夕映はパスタをすすらない。食べる時に音も立てない。だからといって、なんというか上品なわけじゃなくて、ある一定の長さで噛み切りながら食べている。

 どこかで見たことがある気がして、私はその既視感の正体を思い出そうとする。


「あ……、カメだ」

「カメ?」


「……なんだか、夕映の食べ方。カメみたい」

「あれ、飼ってたの?」


 もぐもぐと口いっぱいにパスタを咀嚼しながら夕映が聞いてくる。


「うん。小学五年生の頃、いきものがかりで」

「ありがとー、って伝ーえたくてー」

「そっちじゃないかな」


 ちなみに夕映のクラスではメダカを飼っていた。私はどちらかというとカメよりもメダカが好きだったので、そっちが羨ましかったような記憶がある。


「カメって長生きだよね。学年変わった時、どうしたの?」

「それがベランダで飼ってたから、夏場に暑すぎて死んじゃった」


 あれは可哀そうだった。クラスには泣いてる子も何人かいた気がする。

 最近の夏は毎年のように最高気温を更新していて、カメだけじゃなくて人も死んじゃうような暑さだ。夕映の寿命も熱中症とかじゃないといいけど。


 ……もし、どうあがいても夕映が死んじゃうとしたら。

 できるだけ苦しまない方がいい。私がその瞬間を見ていなければ、もっといい。

 その瞬間に立ち会えば、私はきっとその光景を生涯忘れられないだろうから。


「ごちそうさま。……カメ、死んじゃったあとはどうしたの?」

「食べるの早いね。クラスの皆でお墓を作ってあげたよ。私もお墓掘ったなぁ」


「じゃあ、私が死んだら、汐璃がお墓作ってくれる?」

「そのお願いは私の力を超えた願いだから叶えられないかな……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る