第5話 初めての狩りその3

「その魔法は…分身できるやつだよね…ライナズちゃん…何処に何体分身を召喚したの?」


「10体…アイツを取り囲むように、ここから見える茂みの中全てに隠すように分身を召喚した」


「えぇ?ライナズちゃんがそんなに?!楽園だ〜」


 ロメスティは相変わらずいつも通りキモい事を言っているがいちいち相手にする必要はない。


オレはロメスティの言葉を無視して、心のなかで合図を送る。

すると、茂みの中から10体の分身が飛び出して、デノンカシカの周囲を取り囲む。


「厄介な能力を持っているなら、使われないうちに少なくとも削り切る…」


10体のライナズの分身たちは一斉に飛びかかると、その内の1体が奴にしがみつきそのまま、デノンカシカの体をよじ登り一瞬にして頭部まで、駆け上がる、残りの9体はジャンプしながら体のあちこちに飛び乗り、それぞれが女神の銀耳を取り出し殴りかかった。


「わぁ!すごい」


ロメスティはそう言うと、目をキラキラさせる。


分身魔法ルネクロハは身につけている服や装備もコピー品のように、本人そっくりに作ることができるつまり、オレの持っているこの女神の銀耳もコピー品のまがい物ではあるが、本来の女神の銀耳とほぼ同等の性能のものを現在分身それぞれが所有している。


分身が殴るたびに空気が破滅する音が響きデノンカシカの皮膚は剥がれ落ち、そしてまたその傷口から石が生成される。


だが、普段から鍛えた肉体から、出力されるパワーとアジリティ、女神の優れた打撃武器としての性で、さらにその分身は、そのデノンカシカの皮膚を石が生成されるよりも速く破壊し、また次の分身が殴る。


「すごい!すごいよ!ライナズちゃん!」


ロメスティは手伝いもせず、そう叫んでいるがオレはそんな歓声には耳を貸さず、持っていた女神の銀耳の赤い宝石の部分を押し込んだ、女神の銀耳はやはりチャクラムのような形に変形すると、赤い結晶を射出する。


さて…さっきは試せなかったけど…お手並み拝見といこうかな…

赤い結晶は6つ浮遊して俺の体の周りをぐるぐると回っている。


ロメスティはこの結晶に念じるだけで熱線、つまりはレーザービームのようなものを放ってくれると言っていた。 


息を呑んで、標的のデノンカシカを見ると、大地を揺るがすほど大きな唸り声、いや悲鳴を上げながらズシンと四本の膝を地につけてしまった。


巨大な山と遜色ないあの体格でも、ちゃんと効いているみたいだ。普段から鍛えたフィジカルがこれでもかと役に立っている。


頭部に登った分身が、頭を激しく叩いている。よく見るとあの宝石のような眼球を護っていた、瞼の1枚は完全に剥がれていた。



オレは再生しないうちにとその眼球に狙いを定めて


「発射」と叫んだ。


するとその瞬間、6つの結晶は同時に熱線を放ちながらデノンカシカの頭部を貫き、その場所を起点に大爆発を起こした。


「よし…なんとかなったな……」


頭部を貫き、周りの幾千本の木をなぎ倒し、凄まじい轟音とともに倒れる対象を見てそう呟いていると、後ろから「いや……まだだよ……」とロメスティの声がした。


「まだ死んでない!」


「え?」


ロメスティの言葉に驚愕しながら振り返ると、もはや骸とかしているはずのデノンカシカの頭部がひとりでにもげた。


「え……あぁ?なんだ?」


オレは10体の分身にゆっくりと転がる頭部の周りを取り囲ませて、警戒する。


ちぎれた頭部は、まるでトカゲの尻尾のように、ポロっと角を切り離しその後、死にかけの虫のようにピクピクとしか動かないが、よく見ると、次第に頭部からは突起のようなものが伸びていき、次第にそれは四本の岩でできた手足がゆっくりと生えてくる。


「なんだよこれ……まで生きてんのか?」

「ここからだよ…ライナズちゃん」


オレの開いた口は閉まらず、言葉を失うのを尻目にロメスティは言った。そして次の瞬間それは一瞬にして起こる。


 なんと俺がほんの少し瞬きした瞬間に、デノンカシカの頭部を取り囲ませていた俺の分身10体全てが、それぞれ吹き飛ばされた。


「はぁ?え……なんだよ……」


思わず間抜けな声を出してしまったが、よく見てみると、激しく吹き飛ばされた分身は、木などに激突すると、瞬く間に光となり一人残らず消滅していく。


 デノンカシカの頭部の方を見ると、いつの間にかそれは二足歩行で立ち上がり、両手には自らの2本の角を大剣の握る、全長3〜4メートルほどの岩でできた巨人のようになっていた。


 ルネクロハによって召喚された分身は一定以上のダメージを受けると消滅してしまうが、そうでない限り


消滅することはない…つまり俺の召喚した分身10体は全て一瞬のうちにあのデノンカシカによって角で殴り飛ばされたのだ。


「まじかよ」


思わずそう呟くと、デノンカシカは両手を地面に置き四つん這いの格好になったかと思えば、凄まじい勢いで、俺たちに背を向けて森の奥へ走っていった。


「野郎逃げやがったっ!」


俺は慌てて、奴のあとを追うために走り出し木の上に登りターザンのように木から木へと飛び移りながらデノンカシカを追いかける。


「ライナズちゃん、待って!!」


そうロメスティの声が聞こえた気がしたが、既にその声は小さくなる場所まで離れていたため、俺は気にすることが出来なかった。

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