第4話 初めての狩りその2

その倉庫の入口は開きっぱなしの赤い木製の扉で、その扉は倉庫の2階部分まで伸びていた。


「ライナズちゃんは……この中に入ってて」

彼はそう言うとオレを倉庫の中に案内する。そしてオレは彼の言う通りに倉庫の中に入ると、そこには大量の武器が置いてあったのだ。しかもどれも一級品以上のものばかりだった。


だがそんなオレの反応を見てロメスティは言った。


「これは全部私のコレクションだよ」


「コレクション?」


「うん、私が昔旅をしていた時、立ち寄った村や国で見つけたものとかをここにしまってあるんだ」


そう彼は言うが、それでもこれは多すぎる。

オレはついそう思ったので思わずロメスティにこう聞いた。


「何個あるの?」


すると彼はニッコリと笑って答えた。

「さぁ……?千か二千」

「とんでもねぇや」



オレは思わずそう呟いてしまう。するとロメスティはいきなりオレ銀色の太い棒のようなものを渡してきた。

オレはそれを両手で受け取ると、その棒はオレの手にズッシリと重かっく、持ち手を見てみると引き金やボタンがいくつかついていた。


「これは?」 

オレがそう聞くと彼は答えた。

「それは私のコレクションの中でも


一番の業物で……名を【女神の銀耳ギンジ】と言うんだ。」


そんな説明を受けたが、オレにはそれがどういったものかはわからないので、とりあえず彼に聞いた。


「それで?どう使うんだ?これは…。見たところ引き金と、ボタンがあるけど……」


すると彼は笑顔のまま答えた。


「うん……それじゃあ説明するよ。

まずその【女神の銀耳しきゃく】にはね……ライナズちゃんが持っている持ち手のてっぺんの部分に小粒程度の宝石が3つあるでしょ?」


「え?あぁ……」


オレはそう答えると手に持ってる棒に目を移した。


屋敷から出て早々、ロメスティはオレの目を見ながら聞いた。


「うん……」オレはそれに短く答えた。すると彼は続けて聞いた。


「じゃあ…テーフドラゴン呼べる?」


「魔術以前にエルフの基本スキルじゃねぇか…舐めんの?」


「あーごめん、ごめん、じゃあ呼んでほしいんだけど…面倒だから」


オレは、「はぁ…」とため息を着き、左手の人差し指と薬指を交差させて、口に咥える。


そしてゆっくりと息を吹くと笛と呼ぶには低い音、例えるならトロンボーンのような重厚感溢れる音が森の木々にこだました。


「これでいいか?」


オレはロメスティの顔色を伺うと、彼はニッコリと笑って答えた。


「うん……完璧」


しばらくすると、前方の空から、銀色の鱗を身にまとった全長12メートルほどと大きく四足歩行の竜が飛んでくる。


その竜は、テーフドラゴンと呼ばれる。竜の族に極めて近い身体をしているが実は、魔獣よりは、精霊に近いモノでこの見た目で生物ではなく意思のない、一種の現象のような性質であり、故に魔術で簡単に呼び出せる。



そんなテーフドラゴンの首に、俺たちは捕まりながら、その場を離れる。


オレは目的地を知っているロメスティにテーフドラゴンの操作を任せて、彼に質問した。


「で?今回のターゲットは?厄介なやつなんだろ?」


「うん、そうだね……今回の獲物【デノンカシカ】はね。屋敷から遠くに生息していて、ライナズちゃんも出会ったことないやつだから、きっと見たらビックリするかも…」


「びっくり?」


「兎に角でかいんだよ…それに見た目も、普通の魔獣とは明らかに違うしね……。まぁ森から出てくればすぐわかるよ」


そんな会話をしていると、テーフドラゴンは高度を下げて、目的地に着地する。


「着いたね……」ロメスティがそう呟くと、オレは辺りを見渡す。そこは大きな岩の崖だった。


「ここは?」


オレがそう聞くと彼は答えた。

「うん?ここ?ここはね、私のお気に入りの狩り場だよ!デノンカシカの生息域…寝床の近くさ…あっ…ここから暫く歩くけど、音立てないようにね」


「ついにご対面か…」


オレはそう呟く。そして、2人して岩の崖を下る。するとロメスティが突然立ち止まった。

「しっ……静かに……」

「え?」

オレが思わずそう反応すると彼は人差し指を立てて言ったのだ。


「デノンカシカは眠らない魔獣でね、ずっと活動時間なんだ」


そんな彼の言葉を聞いた瞬間だった。オレ達の前方からドシン!ドシンという地鳴りのような音が響いてくる。その音は徐々に大きくなり、

実際に地面の揺れを感じる。


やがてその音源が姿を現した。


それは生物と呼ぶにはあまりにも巨大で奇妙な無機質さがあった。


体全体は、まるで石の鎧を身に纏っているかの如く、ゴツゴツとした、肌色というよりも灰色に近い岩石の装甲で覆い尽くされており、その肉体には様々な模様が描かれていて生物というよりかは人工物の彫刻の塊のようでもあり、だがその体格からして、まさに歩く山のようでもあった。



前方から長く伸びている先、おそらく頭部にあたる部分にはヘラジカを思わせるような大きな角があり、その角は左右対称に2本伸びていた。


そしてそんな頭部のすぐ下には、まるでエメラルドの宝石のような美しい翠色の眼球が片側だけで5つもあった。


「な……なんだあの化け物は……魔獣というより…精霊とか…巨大装置の類だろ?」


「見てくれはね…でも……あれは、ちゃんと息もしているし、呼吸もするし、食事もする、自らの思考も意識も魔力もある…あの見た目だけど、ちゃんと生きている魔物だよ…」


まじかよ…正直ビビった。


転生して8年ずっとこの森に住んでいたが、あんな異質な生物は見たこともなかった。

オレがそんな考えを巡らせているとロメスティは言った。


「作戦会議をしようか……、まずはライナズちゃんどう戦う?」


そう言われたがオレは微笑むロメスティを睨む。


「どうもこうも…まだオレに言ってないことがあるだろ? それともまさか、あの図体だけで厄介とか云ってるんじゃねぇだろうな?」 


「そうか……やっぱりライナズちゃんは、頭がいいね」

ロメスティはそう言うと、オレの目を見てこう続けた。


「うん……あれが厄介というのはね……その大きさもそうなんだけどね……」


「なんだ?」


「あのデノンカシカはね、まあいろいろヤバい生態を持ってるんだけど中でも凶悪なのは、あの腎臓じゃない肺活量と皮膚を石で生成できるところかな?」



「皮膚を石で?どういう事?」


そんな、ロメスティの言葉にオレは思わず聞き返した。すると彼はこう答える。


「……うん…奴はね岩を主食として、クジラみたいに、口を開けて、肺の吸引力だけで周りの大地ごと岩を吸いこんで食べちゃうんだ…であの体をみての通り、外皮が岩で出来てるんだけど、奴は、吸い込んだ岩を使って、即座にかつ自由自在にあの外皮を生成できるんだ」


「うーん…なら傷を負わしてもすぐ回復してしまうな…確かにすげぇめんどくせぇな……」


オレはそう呟く。


「うん……それで…どうするの?ライナズちゃん……」


ロメスティはオレの顔を覗き込みながらそう聞いてきた。


オレは彼の問いかけに「へっ!」と鼻で笑ってから答える。


「試してるつもり? んなの決まってんだろ?ああいう手合の相手だぜ?やることは決まってる」


そう答えながらオレは徐ろに自分の首元にぶら下がっている、銀色の、小さなペンダントを外した。


「えぇ? ライナズちゃん!そ…それ魔導具?!いつの間に造れるようになったの?!!」


ロメスティが目を輝かせて聞いてきた。そんな子供のような目でみてくる彼に、オレは笑いながら答えた。


「……この前あんたの本を読んでな…この魔導具には身につけた対象の魔力を極端に制限する効果がある。 魔力の効率化の練習に使っていたんだ」


「今のライナズの魔力は?」


「体感…いつもの四十倍だ…いつものってったて、これが本来の魔力だから変な話だけどな…どう?少なくとも奴に築かれない程度には上手く隠せてるでしょ?」


オレはそうロメスティに聞くと彼は答えた。


「うん……すごいね!でも…魔力を解放させて…一体どうするの?」


「やり方は決まっているっつてんだろ?狩りの基本はまともに戦わないこと…出し惜しみしなければいい…」


オレはそう言いながら、今朝も使用していた革製の鞄から魔導書を取り出して、あの分身魔法が記されたページを開く。


「ルネクロハ」


手をかざして詠唱すると、森のいたるところからガサガサと音がした。




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