第2話 転生したらエルフのヒロインだった。

オレは死んだ。


自分は特別だと、なぜか昔から思っていたのだが、木根新太20歳…俺の人生は思えばあっという間でありふれていた。


ここはどこなのだろう…やけに息が吸いづらい。 指や脚の関節と関節の距離がやけに短く感じる。 そして何より、視界に映る自分の手が……小さい。


「おぎゃぁ!!おぎゃぁ!!」


自分の口からそんな声が出る。

どうやらオレは赤ん坊に転生してしまったようだ……。


そして今オレがいる場所がどこなのか、何となくはわかった。


【異世界転生】だ……。


オレはどうやらライトノベルの世界に転生したようだ。


いや……そんなはずがないだろう……と言いたい所だが、そうとしか言いようがないのだ……だってこんな景色見たことも聞いたこともないのだから。


まず辺りの木々の色がおかしい、日本の木は大体が茶色っぽい色合いをしているがこの世界にある木は全体的に透明感のある赤い色やら青い色やらで、日本にはなさそうな見た目の木ばかりだし、生えている。 その淡い色合いも相まって、まるで水彩画のように見える。



参ったな……。

こんな森を赤ちゃんの体でさ迷ったら間違いなく死んでしまうだろう、例え前世である20歳の大学生の状態であってもこんな森のど真ん中に遭難したらきっと、3日も持たずに死んでしまうだろう。


「おぎゃぁ!!おぎゃぁ!!」


そんなことを考えていると、自分の口からそんな声が出た……。

どうやらオレはお腹が空いたらしい……。

この体になってから、1度も食事を取っていないから当然といえば当然だが……。


オレは必死に泣き叫んだ。しかしこんな森の中でいくら叫べども人が来る気配はない。


はぁ…。まずいなホントに……。

どうしたものかとオレは考え込んでいると、後方からブーンという羽音が聞こえてきた。


「ん?なんだ……あれは……」


オレは、自分の目でハッキリと捉えるまで少し時間を要したが、なんとかその謎の物体を目に捉えることができたのだが……。


でか…なんだこの化け物…虫?


その謎の物体は6枚夜羽がはえていて、謎の液体が滴り落ちるその体は、まるで巨大なダンゴムシのような見た目をしている化け物だった。


「グゲェー!ギッギ!」という声と共に、その化け物はこちらに突進してきた。

まずい、逃げなければ……。

しかし、オレはまだ1歳にも満たない赤ん坊だ。そんな体で逃げることなどできるわけもない。


そして、虫の鋭い牙がオレの首元に迫ろうとしたその時だった、突然虫の体が紫色の光に包まれると、パンッという弾ける音と共にその体は消し飛んだ。



「おや?この森に赤ん坊がいるなんて……危なかったわね」


オレのそんな声が聞こえる。目の前に黒い靴が見える。


見上げるとそこには、身長170cmくらいの、紫色の髪の毛の女の子が立っていた。


その女の子は、不思議なことに頭から2本角が生えていた。

そして、その背中にはコウモリのような羽が生えている。


右目には黒い眼帯をしていて、服装はなんというかメイドのような格好をしている。


その女性は白いタオルのようなもので俺の体を包んでから、オレを抱き抱えると次の瞬間思いも寄らない言葉を口にした。


「あら…貴女…女の子なのね…しかもエルフの」


「だぶぅ?!!」

えーーッ?!!


おれ…女の子なの?!! しかもなに?エルフって…まるで竹中のやつが読んでいたラノベみたいな……。


木根は、そのメイドの格好をした女性を改めて見た。

確かにその人の耳は長く尖っていてエルフという種族に見えなくもないが……。


いや、俺は男だぞ?!! そう叫びたいのだが、それは今の俺の人格の話で、体を確認したこの女性の言う通り、多分オレはまじで、エルフの女の子なのだろう。


だって……前世では確かにオレは男だったはずなのに、今俺は赤ん坊で自分の体が女になっているんだもんな……。しかもエルフとか言うよくわからん生物…?種族に…。


もう意味がわからない。


「ほら、泣かないで」


俺がそうやって悩んでる間にも、そのメイドは俺を揺さぶってあやしてきた。

しかし……よくよく思えば、赤ちゃんの体にこのメイドの腕力は強いのか弱いのかよく分からないのだが……正直言って少し怖い。


すると今度は、このメイド服の女性の背後から、別の女性の声が響いた。


「そんなとこで…何をしているメナゼル…まるで何かを見つけたようだが…」


「ロメスティ様!!」


メナゼルと呼ばれたこのメイド服の女性は勢いよく振り向いた。彼女の背後から現れたのは、見るからに高貴そうな貴族服を着たロメスティと名乗る男性だった。


その男性は身長も190cmくらいありそうで……絵に描いたような美形だ。そしてなんと言っても耳が長いことと、右手に握られた、鋭利で複雑な構造を理解出来る見た目の杖が目立つ。


「ん?なんだこの赤ん坊は?」


そんな彼は俺を見るとそうメナゼルに聞いた。するとメナゼルがこう答えた。


「はい!森を探索中突然この子の泣き声がしまして、見に行ってみると【ゲタン】に襲われていたのです。」 


と彼女は言った。するとこのロメスティは顎に手を当てて考える素振りを見せた。


「エルフの…女の子だな…この近くのゲトニアの奴らが、こんなとこに捨てていったのか?」


「言え…我ら魔族は…特に我々エルフ族は、絶滅必至なほどに子供に恵まれません。 貴重な子宝を捨てるとは」


メナゼルはそうロメスティに聞いた。

すると彼はこう言った。


「そうだな……なら親を探すのは困難か…まぁ見たところ赤ん坊の様だし……面倒を見るのはいい…この森で一人にしてはいけない」


「はい!私もそう思います」


そんな会話から察するに、どうやらこの2人はオレをこの森に置いていく気はないらしい。


そしてオレは今、エルフという種族の女の子になっているみたいだが……。


いやもう……この一日でどれだけの情報を処理すれば良いのだろうか。

木根新太が死に、今はエルフ?の女の子だ。


もう思考回路はショート寸前だよ……。


「ロメスティ様…これから私たちはこの子と長い時を過ごすことになります。 …ならば名前が必要です」


メナゼルにそう言われたロメスティは再び顎に手を当てて、暫く考える素振りをすると、口を開いた。


「なら……この森での名前を付けてやらねばな……」


そしてこう言った。

「【ライナズ・フレーバーフレスト】という名前はどうだろうか?」


「ロメスティ様!素晴らしい名前だと思います」


メナゼルはそう叫んだ。


オレは、その名前を聞いて激しい既視感に襲われた。その名前は前世の竹中十地が読んでいたラノベに出てきたヒロインと同じ名前だったからだ。


ライナズ……フレーバーフレスト……竹中言うには確か、この名前をハーフエルフの女の子に付け、かなりこじらせていて最悪な性格をしているというキャラだったはずだ。


ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい…。


オレは頭の中で今ある一つの仮説がある。


もしかしてオレは竹中が読んでいたラノベ小説の中の世界に転生してしまったのではないか?という仮説だ。


しかも主人公ではなく、よりにもよってあまりの弱さから読者に嫌われていて、そのせいか酷い最期を迎える嫌われヒロインキャラに…。


いや……その転生先が悪かったのかそれとも憑依先が悪かったのかはわからないが、兎にも角にもオレには将来的に死ぬフラグが立ちすぎである。


まぁ仮に竹中が読んでいたラノベの世界だとしてだが、オレは別にこのライナズというキャラに思い入れがあるわけでもないし、というか…オレはあのラノベ一巻しか読んでねえから、ライナズがどうやって死ぬのかとかモロモロはマジで知らねえんだけどな……。


「それじゃあこのライナズちゃんもお腹が空いているでしょうし早く帰りましょう」

「そうだな」


そんなオレの悩みなんて知りもしないこの2人は、俺を抱えたまま森の奥へ歩き出した。

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