アウトオブオーディエンス

倉村 観

第1話 美少女エルフに転生したら


「うわ~やっと死んだよこいつ〜!やったぁ」


 先程、本屋で買ったラノベ


【異世界召喚された俺が、ハーレムとチートスキルを駆使して世界最強になりました。

〜俺TUEEEな人生が異世界でも始まったのでもう帰れないっす〜】


…の最新刊を早速読んでいたオレ【竹中タケナカ十地ジュウジ】は、作中の展開に興奮し思わず喫茶店のテーブルに手をつき立ち上がると、そんな独り言を呟いてしまった。



「どうした…?十地?そんなにおもろい?最新話」


隣の席に座っている、大学のレポートを書いている友人【木根キネ 新太アラタ】が、その手を止めて俺にはなしかけてきた。


「あぁ…オレの嫌いなヒロインがなぁ…ついに死んだんだぁ!しかもすげぇひでえ死に方」


「それって…一巻で主人公の護衛を務めることになった…エルフの子でしょ…?確か【ライナズ・フレーバーフレスト】…だったかな?」


「そうそうソイツだよ」


この小説の主人公【アルテリア・リプス・バルテルカ】は、とある事情で魔法学校からエルフ族女の子を護衛として雇うこととなったのだが、オレは兎に角そのキャラが嫌いなのだ。


理由は簡単だ、そいつがとにかくウザいのだ。


 まずなんと言っても弱い。剣の才能がないのか剣術を覚えず、魔法の才能もないため攻撃手段が殆どなく、いつも回復や補助系の魔法しか使えないというゴミみたいなスペックをしている。


というかそもそも、コイツは才能豊かな魔術師でアルテリアの護衛として強キャラ感溢れる感じで登場したのに、作中でちゃんと敵に勝ったところを見たことがない。


そして次に性格が悪い。


そもそも登場時はなぜか護衛のくせして、主人公の事を恨んでるし、(理由はあったと思うけど忘れた…確か一族かなんかを滅ぼされたとかなんとか…)

主人公とは口喧嘩ばかりしている。


それによく、主人である主人公を殴ったり蹴ったりする。


そして挙句の果てには、自分の事を守れない無能な主人公だと罵倒したり、主人公が女友達と遊んでいると「浮気者!」と叫びながら石を投げつけたりしていた。


そんな事もあっての小説に出てくるキャラの中で一番読者から嫌われていたのがこいつだ。


「俺も一巻は読んだけど…そこまで嫌いにはならなかったけどな……確かにちょっとウザイなって思ったことはあったが……」


木根はレポートをカバンに仕舞うと、ズズズッとコーヒーを飲み干してそう言った。


「まぁ…お前は変わってるしな…」


オレは思っていることを、直接口にした。 実際この友人、木根新太はかなり変わっている。


顔は悪くないし身長も170cmはある20歳で性格は明るくて優しい奴なんだが、さっきも言った通り一々行動が変わっている。


さっきも、この喫茶店に入ってくるなり「期間限定の奴!」とだけ注文し、それが出てくるのを待つ間、スマホをいじるわけでもなくただボーっとしている。


そして今飲んでいるコーヒーもそうだ。

この喫茶店はコーヒーの専門店で、豆の種類が豊富にあるのだが、木根はいつもそれを頼まない。 


しかも、変わっているのはそれだけではなく、学校のこともそうだ。


成績はいいのに毎回大学の課題に追われていて、今回もオレはコイツのレポート課題作成につきあわされて、図書館とこの喫茶店に足を運ぶことになったんだ。


「おいおい、人を変人みたいに言うな…!」


木根は少し頬を膨らませながらそう答えた。


「ん?この巻…作者の【四季原シキハラミナミ先生】からの後書きがある」


オレはそう言って、最新巻のあとがきページを開いた。


「ん?それってあれか……?作者の近況が書いてある奴だろ?確か……作者がこの巻の感想をくれるとか……」


木根はカップを皿に置くとそう言った。



「え…どれどれ…『今回なんとメインヒロインが死亡してしまいましたが…彼女は読者の皆から嫌われているいましたし、実際僕自身も執筆してる途中で、嫌いになったので…途中から酷い死に方させるって決めていました(笑)』…」


オレは声に出してその作者の感想を読んでいた。


「ははっ……酷い死に方って……一体どんな死に方だよ……オレも気になってきたわ」


木根は、その作者の感想を聞いてそう笑うとふと、窓の外に目やった。


外はちょうど夕時で、余りにも力強い夏の夕日が、本来、闇が支配するはずの街を紅く照らしていた。


「なぁ………十地…ソウスケいつ来るっけ?」


窓の外を眺めながら、木根は俺にそう聞いてきた。


「あぁ…もうすぐのはずだ」


オレは、時計をチラッと見てそう答えた。


 ソウスケとは【相田壮介】という、オレ達の親友だ。

オレ達三人は、同じ高校で知り合い。そして大学も同じところに入ったんだ。

 

 コイツもコイツ変わったやつなんだが…俺たちはいつも3人でつるんでいて、よく一緒に遊んだりしていた。

そして今日は、あいつは用事があって、5遅れて時半から俺たちと合流する事になっている。


「なぁ…十地…。俺たちずっと3人でつるんできたよな」


木根は突然、そんな事を言い出した。


「ん?あぁ……そうだな……」

そんなの今更だと思いながらもオレはそう返した。


「このまま、さぁ年取ってもさぁ…ずっとこうやって3人でつるんでいたいな……」


「また変なこと言い出しやがって…夕陽見ただけで、物思いにフケてんじゃねぇよ気持ち悪い」


オレは少し笑いながらそう言った。


「そうだな……」


木根も、少し笑いながらそう言った。


そんなやり取りをしていると、来店を知らせる。店の扉に備え付けられたベルがなった。


俺たちはソウスケが来たんだと思い、ふたりとも振り返った。


「動くな!!全員手をあげろ!動いたら撃つぞ!!」


そんな、テンプレのようなセリフを吐きながら入ってきたのは……強盗だった。


「おい……十地……。これやばくね?」


木根は、少し引きつった顔でオレにそう聞いてきた。


「あぁ……やばいな……」


オレもまた、引きつった顔でそう返した。


そして、その二人の男はオレたちのテーブルの前まで来てこう言った。

「全員手を頭に組んで伏せろ」


「おい……どうする十地……?」


木根は、小声でオレにそう言ってきた。


「とりあえず言う通りにしよう」


オレはそう答えた。

そしてオレ達は手を頭に組んで伏せた。


「おい……お前ら……金目の物をこのバックに詰めろ……」


そんな命令が、強盗の片方から下された。

その指示に従い、オレたちはレジに置いてあった現金をバッグに詰め込んだ。

その間もずっと強盗たちは、銃を構えながらこっちを警戒するように見ていた。


「よし……もういい下がれ……!」


バッグに現金を詰め終わり、強盗の一人がそう言った。

オレたちは命令通りに手を頭に組んでその場に立ち尽くした。

そんな時だった、突然女の子の泣き声が聞こえた。


「うぇーん!!怖いよぉぉ!お母さぁん!!」


そう泣きながら叫んだのは、人質として捕まっている女の子だった。


「うるせぇぞクソガキ!丁度いい見せしめだぁ」


そう言ってその女の子に銃口を突きつけたのは、先程から指示を出していた強盗のもう片方だった。


「いやぁ…やめてください!家の娘に酷いことを……」


少女の母親らしき人がそう、強盗に言い寄った。

「うるせぇ!お前も撃たれたいのか?」

そんな脅し文句を吐きながらその強盗は、母親に銃口を突きつけた。

「待って!」



すると突然俺の隣にいた木根が

、その強盗にそう叫んだ。

「なんだ?お前」 


強盗は木根を睨みつけながらそう言った。


「お金がほしいだけなんだろ?だったら人質なんて…要らないじゃないか?!増して人殺しなんてしたら、お前たち…後戻りできなくなるぞ」

木根は、そう強盗に説得した。

「うるせぇ!金がねぇと生きてけねぇんだよ!」

そんな強盗の答えに、木根は少し悲しそうな顔をしながらこう言った。


「わかるよ…悪いけどその身なりを見れば…君がお金がなくて困っていることは……。でもさ……もし君が人殺しになって刑務所に入ったら、君の家族はどうするんだ?寂しい思いさせるのか?」


「余計なお世話だ!!この野郎!その家族のためにやってんだよ!」


そう言って木根の胸ぐらを強盗が掴んだ。


俺はというとそんなすったもんだの間にテーブルの影に隠れて、スマホを取り出し警察に通報していた。


「家族?家族のためにお金がいるっていうことは…まさか」


木根は強盗の一人に胸ぐらを掴まれている状態でそう呟いた。


「病気なんだよ…母さんが……。だから俺は母さんのためにも、金が必要なんだ!」


そう言って木根の胸ぐらから手を離した強盗はそう言った。


「そうか……でも…こんなやり方じゃあ…」

木根は、少し悲しそうな顔をしながらそう呟いた。

そんな時だった、突然店の扉が開き警察が突入してきた。


「警察だ!武器を捨て大人しく投降しろ」 


その警官の一言に、強盗たちは一瞬硬直したように見えたがすぐに銃を構え始めた。


「もう…駄目だよ…銃を捨てて…やり直そう…できることは手伝うからさ…」


木根は強盗にそう説得した。


「クソッ!どいつもこいつも…俺たちを舐めやがって!」


強盗はそう叫ぶと、再び女の子に銃を向けた。


「どうしてだよ…どうしてこうなったっ!!クソがっ!!」


強盗はそう叫んだ。


「やめろ!」


木根がそう言って、女の子と強盗の間に走り込んだ。そしてドォンという音と共に、銃声が響き渡った。


「ぐっ……」


木根は、その場に倒れ込み腹部から血を流した。


「確保!」


警官はそう叫ぶと、強盗を取り押さえた。


「おい……木根!大丈夫か?!」

オレはそう言って、木根に駆け寄った。


木根は大量の血を腹部から流し、医学に目は虚ろで、医学に疎い俺でももう駄目だとすぐにわかった。


「おい!木根!しっかりしろ!!お前は……こんな所で死ぬやつじゃないだろ!!」


オレはそう叫んだが、反応は帰ってこない。


「十地……そうだよな…死ぬわけには…オレを撃った奴らも…母さんに…あえなく…」

 

木根は、オレの問いかけに対して虚ろで焦点の合わない目でそう返答した。


「わかった…もう喋るな!すぐに救急車が来る!」


「十地……俺さ……。お前と友達でよかったわ……」


木根はそう、最後に言うと目を閉じ動かなくなった。


「おい……木根……?木根!!」


オレの呼びかけに、木根が反応する事は二度となかった。


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