聴こえないメロディー
藤泉都理
聴こえないメロディー
「おい」
「ハイナンデショウ?」
「おまえのメロディーが聴こえねえ」
「ワタシノメロディートハイッタイナンデゴザイマショウ?」
「おまえの余裕綽々のメロディーだよ。おまえの心身魂が織り成すメロディーだ。乱れまくりじゃねえか。どうしたんだ?体調が悪いのか?そういえばいつもよりも体温が高いな。バカが。体調が悪いのに来るんじゃねえよ。ほら。帰れ帰れ。私は。おまえの家には送ってやれないんだからな」
「イエ、グアイハワルクハアリマセン。タダアナタニダキツカレテイルコノジョウキョウニドギマギシテイルダケデス」
「はあ?いつも抱き着いてるじゃねえか。大体おまえから言ってきただろうが。陸上は暑くて堪らない海中だけがオアシスだそれに冷やっこい私が抱き着いてきてくれたら言う事はねえって。小さい頃からの習慣だろ」
「イエイマハモウオタガイニチイサクナイノデ」
「なんだあ?おまえ、恥ずかしくなったのか?はは。そうかそうか。思春期ってやつか。肉体の違いにドギマギしてんのか?それで私が聴きたいメロディーを奏でられなくなったのか。仕方ねえやつだなあ。ほら。離れてやったぞ。深呼吸もしてみろ。どうだ?落ち着いたな。よし………うん?まだ乱れまくってるぞ。どうした?私の肉体を見るだけでもドギマギするのか?しょうがないやつだな。じゃあ、目を瞑れ。これなら大丈夫………じゃないな。本当にどうしたんだ?やっぱり具合が悪いんだろ。ほら。帰れ帰れ。夏は私も人化できないって知ってるだろ。おまえを家まで運べないんだからな。タクシーを代わりに呼んでやるから。な。帰れ」
「ジャアオコトバニアマエテマタキマス」
「おう。またな!」
砂浜まで幼馴染の少年を泳いで連れて行って、少年がタクシーに乗ってここから離れるまで見送った人魚の少女は、自分の胸を見下ろした。
「ぺったんこなのに、何をドギマギする必要があるんだ?意味わからねえ。ほかの身体の部分も鱗で覆われている下半身以外はあいつと変わらねえのに」
(とか考えてんだろうなあ。あいつ)
はああああああああ。
タクシーの後部座席に乗った少年は身体を横に倒すと、高熱をこれでもかと帯びた顔を両手で覆って、何度も何度も深い溜息を吐き続けたのであった。
「悪いな。当分。もしくは。一生。おまえの望むメロディーを聴かせられんかもしれねえ」
一生、ドギマギし続ける自信だけがあった。
(2024.8.27)
聴こえないメロディー 藤泉都理 @fujitori
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