4-4 アリバイ

 八十二銀行、長野駅前支店にて、破けた一万円札を両替にきた男が拘束された。一万円札にはバイキンマンの落書きがあった。警察から協力を求められていたため、気づいた行員が通報した。

 男の名は小出修司二十七歳、フリーター。警察の調べに対し、小出は、二月二十七日の夜、若い女から財布を盗んだと供述した。

 女は駅のベンチに座りバックを隣に置いた。バックの口は開いていた。彼女はスマホを見始めたが、垂れてくる前髪を気にし、髪を後ろで縛った。その時しばらく横を向いていたので、そのすきに掏ったのだという。どんな女か覚えているか? と聞くと、小出は、いい女だったからもう一度見ればわかると言った。そこで若い女の写真を五枚並べて選ばせたところ、春菜を指さした。確かか? と聞くと確かだと言った。そして、首に火傷のような傷跡があったと証言した。女がマフラーを外し、髪をあげた時、ちらっと見えたのだと言う。

更に小出は、翌二月二十八日、朝七時十分頃、同じ女を見たと言った。 

 コンビニバイトのシフトがその日、朝七時半からだったので、小出は歩いてバイト先に向かっていた。その時、ホテル柊から出てくる女を見た。昨日、財布を掏った女だった。小出は目を伏せたが、女は掏ったのが小出とは気づいていないようだった。

 女が柊から出てきたので、最初は売りやってる子かな、とも思ったが、あの時間に一人で出てくるってことは、金が無くてあそこに泊まった可能性が高い。そう考えると、少し申し訳なく思ったと言った。女は駅とは反対の国道十八号線の方向に歩いて行ったと言う。

 破けた一万円札は、買い物で断られたので、バイト先のレジで交換しようとしたところ、店長にダメだと言われたので、銀行に行ったと答えた。

 その後の調べで春菜と小出修司には全く接点がない事がわかった。よって、春奈のアリバイは証明された。

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