4-3 質問
翌日、北守と海渡は春菜のマンションを訪れた。アポなしで行ったのだが、冬休みなので、春菜は自宅にいた。
「田之上春奈さん。これからお話することは非公式です。従って、われわれが帰った後、全て忘れていただけると助かります」
そう言うと北守は話始めた。
北守と海渡が代わる代わる、そして全てを話し終えるまで、春菜は一言も口をはさむことなく聞いていた。
だが、山崎美知佳から聞いた話をした時、彼女は涙を流していた。
全てを話し終え「我々が知り得た情報は以上です」北守が言った。
春菜は黙って頷いている。
「いくつか質問させて下さい」と海渡。
「はい」
「理央はどうやってあなたを知ったのですか?」
春菜は、初めて理央が園に来た日のことを語った。
「あなたはどうして田之上の養女になったのですか?」
春菜は、例の写真を見せられたことを話した。
「その時、理央は何といいました? 岡田澄子を殺したのは誰ですか?」
「……」
「春菜さん。今、ここでの会話は非公式です」
北守の言葉に春菜は頷いた「はい」
「仁菜ちゃんが殺したって言っていました」
「あなたはその話、岡田澄子が殺された日のことを仁菜さんから聞いていましたか?」
「はい」
「教えていただけますか?」
「はい。あの晩、澄子は激しく娘を暴行していました。澄子は最初、止めに入った良一に包丁を向けていましたが、それを止めに入った娘を殺そうとしました。そしてもみ合いになり、気が付くと包丁が母親の腹に刺さっていたそうです。仁菜ちゃんは、その瞬間のことは覚えていないと言っていました。見るとすでに母親は死んでいました。殺したのは自分だ。警察に行く。と言った良一を止めたのは仁菜ちゃんです。私を一人にしないで。と泣いて止めたそうです。良一はしばらく考えてから、包丁を自分の家に持って帰って隠し、二人共、血のついたパジャマを着替えてから救急車を呼んだそうです」
「ありがとうございます。澄子を刺したのはおそらく良一です」
「そうだと思っていました」
「ではなぜ?」
「あの写真を見せて、殺したのは仁菜ちゃんだって言われたら、みんな信じると思いました」
「でも、中三のあなたには無理でも、高校生のあなたなら、良一に直訴して自首させることも可能だったのではないですか? そうすればあなたは田之上夫妻の暴行から解放されたはずです」
「それも考えなかったわけではありません。ですが、同じ状況だったら百%わたしも仁菜ちゃんと同じことをしたと思います。仁菜ちゃんは自分ではなく、良一さんを守りたかったのです。仁菜ちゃんは初めて、自分を大切に想ってくれる人に出会ったのです。それはわたしにとっての山崎先生と同じです」
「わかりました。次に、田之上夫婦から初めて暴行を受けたのはいつですか? 辛いかもしれませんがお願いします」
「その日です。わたしが初めて田之上の家に来た日です。理央からはその日に。和彦からは高校生になってからです」
「時期がずれていますね」
「和彦は仕事以外では、ほぼ理央のいいなりでした。理央は私を拘束し、和彦に犯させました。理央に比べると頻度は低かったけれど、それから和彦や和彦の友人も交えた暴行が始まりました」
「それはいつまで続きましたか?」
「あの人たちが殺される直前まで」
「政男にも暴行されたことはありますか?」
「はい。でも喧嘩では私のほうが強かったので、未遂におわりました」
「政男も和彦や理央とグルだったのですか?」
「違います。政男は和彦や理央の秘密、彼等の趣味は知らなかったと思います」
「理央はどんな?」
「レズのサディストです。和彦もサディストです」
「この写真に映っている人たち以外にも暴行を加えていた人はいますか?」
「はい」
「名前はわかりますか?」
「全員はわかりません。名前だけ、数人はわかりますが、本名ではないと思います」
「生命保険のことはほんとに知らなかったのですか?」
「はい。知りませんでした」
「では最後の質問です。あなたは田之上理央を殺しましたか?」
ちょうどその時、北守のスマートフォンが震えた。
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