3-11 理央と早苗 4

 田之上和彦が県議に再選した年、お祝いとして、彼の後輩から、長野旅行のチケットを貰った。和彦は面倒くさがったが、ホテルも食事も超豪華だったので、理央は一人で行くことにした。

 軽井沢で一泊し、二泊目は長野市、善光寺の参道にある老舗旅館だ。夕方、長野駅についた理央は駅前の珈琲ショップで一服した。その時、ふと通りを見るとそこに知った顔があった。忘れもしない。及川早苗だ。明るく染めた茶髪の生え際は三センチ程黒く、四ヶ月は美容院に行ってないことを物語っていた。ワゴンセールで買ったような安っぽいワンピース姿で、擦り切れたバックを肩にかけていた。理央は素早く会計を済まし、彼女の後をつけた。

 早苗は長野駅から路線バスに乗り、丹波島橋を渡った所で降りると、国道一八号線沿いのスーパーに入っていった。そこで彼女は半額のシールが貼られた弁当を二つと缶ビールを一本買った。理央は早苗に気づかれないよう慎重に後をつけていった。弁当が二つということは二人で住んでいるのだろうか? 早苗は結婚したのか? 相手はどんな男だろう。あの時、わたしを騙した男だろうか?

 いずれにしろ、今の早苗の容貌から、裕福な暮らしをしているとは思えない。そう思うと理央は嬉しくなった。

 スーパーを出てから十分は歩いている。途中、夫から電話があった。政男が酒に酔って暴れ、東京の坂町署に留置されているという。今、弁護士を向かわせているから今日中に迎えに行ってくれという。

 あのバカ! 思わず声に出た。政男は夫のコネで今年、都内のFラン大学に入学した。足し算もろくにできないくせに大学生になれるのだ。親ガチャとはよく言ったものだと理央は思った。

 そうこうしているうちに早苗を見失ってしまった。

 理央は翌々日、再び長野に赴き、ネットで調べておいた興信所を訪れた。

 興信所から及川早苗についての調査報告書が届いたのは、それから二週間後だった。

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