3-6 理央と早苗 3

 桶川理央おけがわりお及川早苗おいかわさなえと組んで一年程(仕事)をした。大した実入りにはならなかったが、ホームセンターの仕事は続けていたし、贅沢をしなければ、生活に困ることはなかった。わずかだが貯金もできた。なにより男を騙して金を巻き上げる。という行為に高揚した。

 早苗と組んで一年が経った頃、彼女は別の儲け話を持ってきた。組織的な詐欺だった。早苗は学校を辞めるきっかけとなった詐欺グループの残党と、今でもつきあいがあったのだ。

 内容は出資金詐欺。架空の出資をでっちあげて、二,三回配当を渡して安心させる。そこで、大きな出資をさせてだまし取るというものだ。わたしには電話勧誘の仕事を担当して欲しいという。週末に三時間程のアルバイトで月十万と言われ、即決した。

 電話オペレーター室はプレハブ倉庫の一角で、ただスチールのテーブルと椅子があるだけだった。そこで二人の年配女性が忙しく電話をしていた。

 一回目の給料を貰った後、早苗に呼び出されて、銀座にいった。早苗はブランド品で身を包み、高級なフレンチを奢ってくれた。食事を終え、レストランのテラスで煙草を吸っている時、四十代くらいの男性が現れた。カチッとしたスーツに銀縁眼鏡、高そうな時計をしていたが、いたって真面目そうな人物だった。

 男は元、銀行員だという。彼は篠崎隆と名乗り、理央に説明した。あなたは及川さんの友達だし、信用ができる。幹部になりたければ、特別に推薦するという。

 幹部になるための出資金は一口百万。配当は主資金に応じて支払われる。因みに、平均的な主資金二口の場合、だいたい月に六十万~七十万の配当、三か月で元が取れるという。出資金は一年ごとに更新される。早苗は昨年一口、今年は二口出資しているという。

 理央は貯金を下ろし、足りない三十五万はサラ金で借りた。

 百万を振り込んだ翌日から、篠崎と早苗の二人とは連絡が取れなくなった。

 オペレーター室のあった倉庫に行ってみると、もうそこには何もなく、一人の年配女性がたたずんでいた。週末、一緒に電話オペレーターとしてバイトをしていた女性だった。今になって思えば何もかもおかしかった。渡された電話番号に、三時間、ただ電話をかけ続けるだけ、五回に一回くらいは相手が出るが、投資の話をすると断られた。結局一件も契約は取れなかったし、それは、いまここにたたずんでいる年配の女も同じだったと思う。

 どうして気づかなかったのだろう……怒りよりも、自分のバカさ加減が嫌になった。

 その翌年、理央は横浜線で痴漢のでっちあげに失敗した。だが、幸いな事に何とか事なきを得、三十万を得ることができた。

 理央はホームセンターを辞めて風俗でバイトした。サラ金から借りている借金をなんとか完済し、その翌月には心機一転、東京に移り住み、キャバクラで働き始めた。

 そのころにはうすうす自分の性癖に気づいていた。自分は男には興味がない。性的な対象は女であると。

 理央は女と付き合った。それも自分よりかなり若くて従順な女と。それが理央の好みだった。従順な女を虐めれば虐めるほど興奮する。だが、誰とも長くは続かなかった。それは自分の性癖のせいだと自覚はしていたが、どうすることもできなかった。

 ある晩、店に金持ち風の男がやってきた。彼は数人の友人と連れ立っていたが、翌週、一人で店にきて理央を指名した。彼の家は千葉とのことだが、理央を気に入ったからと、毎週末、店に来るようになった。

 二ヶ月ほど経った頃、その男から、付き合ってくれないかと告白された。理央は正直にその男に告白した。自分の性的対象は女、男とできないわけでは無いが、女のほうが好きだと話した。だから、お付き合いはできないと。

 男は、それでもいいと言って、店に通い続けた。そして何回か彼と身体を重ねた。嫌悪感はあったが、優しいセックスだった。

 ある日、男は自分の性癖について理央に告白した。いわゆるサディストだった。彼の性的対象は女性だが、彼とは話しが合った。話し方や立ち振る舞いは至って紳士的で、自分が普通の女なら惚れてしまうのだろうと思った。

 彼の実家は代々、地元の政治家で、億単位の財産もあることを知った。なにより本人も千葉の県会議員ということに驚かされた。

 玉の輿……その言葉が理央の頭に浮かんだ。

 お互いの自由を束縛しない。その条件で田之上和彦と桶川理央は結婚した。

 田之上和彦には過去に婚姻歴があり、小さな息子がいるが、和彦の母親が面倒を見ているので、君に負担はかけない。そして必要充分以上の生活費を約束する。と言った。因みに前妻は子供を産んだ翌年に病気で亡くなったという。

 大きな家と、社会的地位。必要充分以上のお金。自由も約束されている。

 わたしは勝ち組だ。

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