2-14  田之上和彦(事件一ヶ月前)

「はい。すみません。もう少し待って下さい」

「はい。来月には目途がたちそうなので」

「はい。よろしくお願いします」

 相手が切るのを待ってから電話を切った。

「くそ!」

 田之上和彦はスマートフォンをソファーに投げつけた。

どいつもこいつも、畜生! 

 今まで尻尾を振ってついてきた連中が、手のひらを返して金を返せと迫ってきた。俺は悪くない。富津の件では失敗したが、不動産もあるし返せない額じゃない。なんなら俺の借金は待ってもらうことだってできる。

 問題は理央の借金だ。ノンバンクからの取り立ては日に日にきつくなってきている。

 和彦はソファーに腰を下ろして、目を閉じた。

 そもそも理央と結婚したのが間違いだった。先にあいつに惚れたのは自分だが、その結婚だってあいつの策略だったと思える節がある。

 春菜を引き取ったのも、あいつのわがままを聞いてやったからだ。あの時はかなり無理をした。理央は恐ろしい女だ。これ以上一緒にいたら確実に破滅する。

 どうする……決まっている。理央に掛けた保険金二億……

 完璧な計画がある。だが自分一人では難しい。誰か信用のできる人間は……そう考えて和彦は愕然となった。誰もいない。誰も……政男に相談するしかないか……あいつは理央を恨んでいる。いや、あいつは頭が悪い……果たして計画通りに動けるか……

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