2-12 重要参考人 ①

 現職の県会議員とその妻が殺されたとあり、事件の翌日という事もあるが、ワイドショーではトップの扱いで放送している。どの局も田之上和彦が長年、県議に当選している点を強調していた。それはつまり県民から支持されているという事にほかならない。そしてそれを支えた良妻。警察には一刻も早い犯人逮捕を期待する。というお決まりの流れだ。

 

「ほんとワイドショーには吐き気がする」

 本部の四階から駐車場を見下ろして北守が言った。

「TV局ですか?」

 海渡が窓の下を覗く。

「帳場は蘇我だってのに、こっちまできやがって」

 北守が毒づく。

「北守! 今夜は蘇我だ。お前も顔出して報告しろ! 蘇我の連中にいろいろ隠されても知らんぞ」

 立野課長が、咥えていた禁煙パイポを北守に突きつけた。

 海渡は、最初、それがなんだかわからなかった。ネットで調べ、禁煙グッズだと知ったのはつい最近だ。

「課長、わかっていますが、あの連中、特に郡山―奴は重要な情報、絶対隠しますよ。こっちが教えてやる必要ありますかね?」

「北守! お前の上司は俺だ! 俺の立場も考えろ!」

「わかりましたよ……」


 事件翌日の夜八時、蘇我署にて捜査会議が開かれた。

 壇上の真ん中には県警本部の刑事部長と課長。その隣に蘇我署の署長と副署長が座り、その周りには本部の警視クラスが並んでいる。

 捜査員は応援も含め三十人を超えている。これだけ見てもかなり大きな事件だということがわかる。


 被害者は、千葉県議会議員の田之上和彦たのがみかずひこさん、五十三歳とその妻、田之上理央たのがみりおさん、四十八歳。

 事件発生は昨日二月二十八日。長女の田之上春菜たのがみはるなさん二十三歳大学生が、両親の遺体を発見。数分後(被害者を抱きしめていた時間。二、三分程度と思われる)110番通報。時刻は十三時五十二分。

 解剖の結果、妻の理央さんは胸部を刺されたことによる失血死。夫の和彦さんには致命傷となる外傷は無く、死因は不明。急性心不全と思われる。

 死亡推定時刻は二人共二月十八日、朝六時~八時。

 和彦さんは頭と額に、犯人につけられたと思われる切り傷と打撲の痕があった。

 理央さんは、何十回と頬を張られたと思われる跡があった。彼女は全裸で拘束されていたが、性的暴行の痕跡は見られなかった。胸の刺創は二ヶ所。うち一ヶ所が致命傷となった。

 なお傷跡から、凶器は刃渡り十八センチ以上の片刃のナイフと思われるが、まだ発見されていない。

 荒らされていたのは和彦さんの書斎だけだった。金庫が開けられていて、発見当時、中には何も入っていなかった。

金庫の中になにが入っていたのか、春菜さんにもわからないが、和彦さんが現金をしまっているところを見たことがあるという。

 和彦さんはカメラや時計が趣味で、高価なものも所有していたが、そのうち時計のケースがなくなっていることが、春菜さんの証言で明らかになっている。

 時計は、時価にして一千万~二千万円とのこと。同僚によると常々、和彦さんはそう口にしていたという。詳細は不明だが、和彦さんのSNSには度々、高級時計を着けている写真がアップされていることから、間違いないと思われる。

 当日、和彦さんは議員仲間と、恒例のゴルフコンペの予定だったが、朝五時四十分に、和彦さんのスマートフォンから、当日の幹事である柏崎尊さんに、急用ができたから欠席する。という旨のメールが送られている。

 なお、和彦さん、理央さん共に、所有していたスマートフォンが見つかっていないことから、犯人が持ち去った、もしくは処分したものと思われる。

 また、遺体発見当時、玄関の鍵は開いていたという。


 以上の事から、怨恨、物取り、及び田之上家をよく知る近しい者の犯行を疑い、捜査を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る