2-11 田之上政男(事件二ヶ月前)

 あの女は親父を殺すかもしれない。いや、たぶん殺すだろう。

 この前、あの女は居間で、証書のようなものを見ていた。俺に気が付くと、それを隠し、自分の部屋に上がっていった。

 俺はあの女の部屋を調べた。そして見つけた。

 ベッド下に隠された引き出しの中に生命保険の証書が入っていた。あの女が見ていた証書だ。親父には二億円の死亡保険金が掛けられていた。あの女が親父を愛していないことは昔から知っている。

 ガキの頃からあの女にはムカついていた。バカにしやがって。

 何度もあの女を殺してやろうと考えた。だが、下手打って逮捕でもされたら目も当てられない。今、あの女が生きていられるのは、俺が殺さないでおいてやるからだ。

 あの女はいずれ親父を殺す。保険金殺人。いつだ? そう遠くはないはずだ。どうやら親父は財産を使い切ってしまった感がある。本当に金がないから、今までのように金は渡せないと言われた。最初はまた、適当な事を言ってるんだろうと思っていたが、どうやら本当らしい。更にあの女は投資で失敗したらしい。ここ最近は借金取りの電話もかかってきている。

 近いうちに親父は殺される。間違いない。鉄板だ。

 親父に言うべきか? 言ってどうなる? 離婚でもしてそれでおしまいだ。俺にとっては親父だってあの女とたいして変わらない。俺をお荷物扱いしやがって。それでも金を引っ張れるから、まだ我慢してやっていたのだ。金のない親父がいなくなったところで痛くも痒くもない。むしろせいせいする。

 あの女が親父を殺すのを待って、あの女に二億入ったら……その時、あの女から金を奪えばいい。殺したってかまわない。だが待てよ……そもそもあの女が捕まってしまったら元も子もない。あの女は頭が悪い。完全犯罪ができるとは思えない……どうする? 親父を殺すまで協定を結ぶか……俺の取り分は五千万でいいと言えばのってくるかもしれない。勿論、二億全額頂くが。

 よく考えろ。大勝負だ。失敗は許されない。

 田之上政男たのがみまさおは部屋に飾ってあるカスタムナイフを掴み、その刃を舐めた。

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