2-9  笹川幸一(株式会社ドマーニ社長)

「はい。私が笹川ささがわです」

「警察の方?」

「田之上和彦さんね。はい、知っていますよ」

「いえ、奥様とは面識ありません」

「え? 死んだ?」

「トラブルですか?」

「はい。いやがらせをされました」

「はい。野菜も卵の農家からも契約は無理だと言われました」

「農家の方からは、深山さんか田之上さんと交渉してくれと言われました」

「部下に任せる事もありますが、基本、私が出向きます。いままでもずっとそうしてきましたから」

「はい。重たる大規模農家は、田之上さんが抑えていて、深山スーパーさんに独占させていました」

「一般流通商品や、その他生鮮食品も卸してもらえませんでした」

「深山さんとこの割り当てしかないと言われました」

「農家は皆、実際には、うちと契約したかったようですが、田之上さんに逆らうことはできない。そんな感じでした」

「はい。来たのは深山さんではなく、田之上さんでした」

「千葉への出店はあきらめたほうがいいんじゃないか? と言われました」

「はい。深山社長でなく田之上さんでした」

「口論にはなりました」

「うちは関西系でして、独自のルートがあるので、千葉の農家がダメでも、出店は可能でしたから」

「なぜ千葉にですか?」

「はい。一年ほど前に、情報を提供してきた人物がいました」

「はい。匿名です。会ってはいません」

「千葉県議会議員である田之上和彦と深山スーパーの癒着、野菜農家や畜産農家への圧力。その証拠を渡すから深山と田之上を潰してほしいとのことでした」

「はい。最初は無視していました」

「でも、データをみて驚きました」

「農家は不当に安い納入価格で契約させられていました」

「あれじゃ、いくらなんでもひどすぎます」

「農家にとっては、それでも無いよりはマシだったのだと思います」

「農協?」

「一度、外部契約をした農家は敬遠されます。そもそも、農協の買い取り価格があまりに安く、手間も多いので、大規模農家は大手スーパーや外食産業と個別契約をすることが多いんです」

「悪く言えば、中抜き業者です」

「公取?」

「いや、無理でしょう。私が手にしたのは、あくまで匿名のデータですから」

「その人物?」

「わかりません。多分、どこかの大規模農家だと思います」

「はい。調べたところ、商売として成立する算段がつきましたので、出店を決めました」

「深山さんのところへは挨拶に行きました」

「いえ、その時は会ってはもらえませんでした」

「挨拶? いいえ、通常はしません。私は筋を通したかっただけです」

「でも、その後、深山社長からコンタクトがありました」

「はい。お互い納得する形で契約は成立しました」

「千葉の農家とも契約ができました」

「例の資料?」

「ありますよ。外部に公表しない、とお約束いただけるなら、お渡しします」

「昨日の朝ですよね」

「前日は静岡の駅前ホテルに泊まり、昨日は朝五時半から七時くらいまで、卸しの現場にいました。清水市です」

「はい。静岡県です。千葉には夕方、戻ってきました」

「視察です」         

「高市マーケティング部長と一緒でした」

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