「で、結局ここに戻ってきたわけね」

佐藤が赤くなった顔でへらへらしている。

「いや、家には行ったんだけど」

健吾は真奈美の家に行った。

母親に「どうしても謝らせてほしい」とお願いし、母親から健吾が会いに来たことを真奈美に伝えてもらったものの、部屋から出てくることはなかった。

そして結局どうすべきかわからず、居酒屋に戻ってきたのだ。

「もう少しほっておいてやった方がいいんじゃない?」

「それもそうなんだけど、なんかなにもしてやれないのが歯がゆくて」

「でもそれはお前の気持ちだろ。お前が何かして安心したいだけじゃないか?今真奈美に必要なことが何かを考えて行動すべきだろ」

「・・・関口、正論すぎて辛い」

健吾は一気に日本酒を飲み干すとため息をついた。

「いや、俺は健吾の突っ走る感じ好きだぞ。なんでもやってみなきゃわかんねぇからな。当たって砕けてこい」そう言って佐藤が豪快に笑う。

「やめてくれ、佐藤。ますます落ち込むから」

そしてその帰り道、健吾は真奈美に何をしてやれるのか、そもそも真奈美は何を求めているのかを冷静に考えていた。

とにかく真奈美の笑顔を取り戻してやりたい。

別れたあの日から今まで真奈美の笑顔を見ていない。

健吾は翌日仕事帰りに、真奈美の家へ行った。

真奈美の母親はお茶を出しながら「今日も多分真奈美は・・」と悲しそうに眼を伏せている。

「いえ、今回はお母さんに話を聞きたくて。どうしたら真奈美が笑顔になれるか昨日も一晩中考えたんですけど、やっぱり事情がわからないとどうしようもなくて。話せる範囲で構いません、どうか教えていただけないでしょうか」

健吾が頭を下げるも「ごめんね」と母親に断られてしまった。

(そりゃそうだよな)

健吾はどうすべきか考えるが、真奈美に事情を聞けない以上母親に聞くしかない。

(「いや、俺は健吾の突っ走る感じ好きだぞ。なんでもやってみなきゃわかんねぇからな。当たって砕けてこい」)

そう言った佐藤の言葉が蘇る。

佐藤の思いつくことはいつもロクでもないが、何度失敗してもみんなを喜ばせようと色んなことを考え実行してきたから人望がある。

(佐藤を信じてみるか)

健吾はその日から週に一度、真美子の家を訪ねた。

事情を無理やり聞きだすのではなく、話してくれるのを待とうと、真奈美の部屋に向かって少し呼びかけたり、他愛もない話を母親とする日々が続いた。

秋になり朝夕が肌寒くなってきた頃、いつものように真奈美の家を訪ね、帰ろうとすると、真奈美の母親は「いつもありがとうね」と言って、「話したいことがあるから駅前のカフェで待ってて」と小さな声で囁いた。

駅前のカフェで待っていると30分程度して真奈美の母親がやってきた。

「ごめんなさいね、突然」

そういうとコーヒーを頼んで落ち着いたところで、話を切りだした。

「お話というのは?」

「・・・本当に定期的に真奈美に会いに来てくれてありがとうね。あの子のことを気にかけてくれる人がいるということは母親として救われたし、何より私自身も娘のこともあってなかなか近所の人と話もできなくてね。健吾君が他愛のない話をしてくれるだけで気も晴れた」

「いや、そんな」

「本当に感謝してる。それで、ずっとこのままってわけにはいかないし、苦しんでるあの子を私では救えなくて・・・本当に情けない母親なんだけど、あの子の力になってやってほしいの」

そう言って、真奈美の母親は真奈美に何があったのか話し始めた

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