戦隊ショーに年齢は関係ない
「お待たせいたしました、夏休み特別企画、仮面戦隊スペシャルショー、開演でございます」
観客席から盛大な拍手。
「みんな、元気かな~! 今日はお姉さんが、仮面戦隊のところヘ会いに行くよ~!」
ぱっと女性の声色が変わる。対象年齢が変わり、雰囲気もガラッと変わった。
「仮面戦隊に、会いたい子は返事してね!」
女性がマイクを観客席に向けると、観客席の子供たちから『はーい!』の合唱。
「おーみんな元気いいね! それではさっそく……きゃあ!」
女性の言葉が止まると、ステージ下手から、如何にもという怪人っぽい服に身を包んだ男が三人。
顔はマスクらしきもので覆われているが、どこかにのぞき穴があるのか、まっすぐ女性に近づいていく。
「あなたは……ショッタン怪人!」
「おっと、こちらのことを知ってるとは話が早い。おい、連れていけ」
中央のショッタン怪人なる男がリーダー格らしく、両端の二人が嫌がる女性の両腕を抑えてステージ下手に引きずり込んでいく。
「いやあ、助け……」
女性の声が消えると、残ったリーダー格のショッタン怪人がステージ中央でマイクを持つ。
「やあやあ子供たちよ、この吾輩にわざわざ会いに来てくれるとは非常にうれしい。吾輩のことは好きかね?」
怪人がマイクを観客席に向ける。観客席の子供たちからは『嫌だ!』『嫌い!』などの声が出てくる。
……誰かが指示してるわけでもないのに、訓練された子供だなあ。
「ふむ……まあたまにはそういう子供もおるか。残念なことに、子供は吾輩の計画には最初から含まれていないので、用はないのだ。それではさらば!」
怪人はステージ下手に引き上げていった。
「子供たち、みんなすごい興奮してるね。彩音ちゃんはどう……」
俺は、隣の彩音ちゃんに目を向ける。
……彩音ちゃん、目がきらきらしてるような……
観客席から大歓声が上がる。
ステージ上手から、カラフルな仮面で顔を覆い隠した仮面戦隊が五人現れたのだ。
「みんな、こんにちは!」
赤い仮面のリーダー格らしき男がマイク片手に呼びかけると、観客席の子供たちがいっせいに『こんにちは!』と叫ぶ。
「今日はわざわざ会いに来てくれてありがとう! そしていつも俺たちを応援してくれてありがとう!」
マイクを通して、仮面戦隊の男たちが言葉をかけると、それに呼応して観客席の子供たちから声が飛ぶ。
「……子供って、こういうのを経験して大きくなっていくんですね」
ふっと、隣の彩音ちゃんがそう言った。
「ああ、誰しも子供のころはこういうものにはまり、いろんなものを学んで、大きくなっていくんだ」
田舎で育ってきた俺は、こういうショーを見たことはなかったが、それなりに子供向けの特撮ものとかは見ていた。
多かれ少なかれ、子供の成長にキャラクターというのは影響を及ぼし、子供に夢や希望を与えるとか、憧れを抱かせるとか、とにかく何らかのプラスを子供たちに与えると思ってる。
自らも創作をする者として、そういう力の存在を信じてるし、創作に触れることは必ず子供にとって、良いものを与えることを疑わない。
彩音ちゃんは、そういうのとは無縁の環境で育ってきた。だからこそ、今これに魅力を感じているのだろう。
「……ところで、今俺たちは、さっき聞こえた悲鳴の正体を探っているのだけど、みんなは何か知ってる?」
「はいはい!」
赤い仮面の男が呼びかけると、子供たちから威勢のいい返事が飛ぶ。
「よ~し、じゃあ君、話してくれるかな?」
赤い仮面の男が、手に持ったマイクを最前列にいた小さな男子のところに持っていく。
「さっきお姉さんが、ショッタン怪人にさらわれた!」
「何、それは本当か!」
赤い仮面の男は大げさな驚きのポーズをとると、少し離れたところにいる男子のところにもマイクを持っていく。
「ショッタン怪人が、お姉さんをさらって逃げちゃった!」
「それは大変だ!」
赤い仮面の男はステージに上がって叫ぶ。
「みんなありがとう! 今すぐショッタン怪人を探しに行くぞ!」
仮面戦隊の五人は、そう言ってステージ上手に引き上げていった。
再びステージ下手からショッタン怪人の三人が登場。
「どうだ、実験の準備は整ったか?」
「OKです」
「今すぐ始められます」
下手の舞台袖からは、姿は見えないが、先ほどのお姉さんの『助けて』という叫びが聞こえる。
「よし……では開始といこうじゃないか」
中央のリーダー格の怪人が、右手にスイッチのようなものを取り出す。
「カウントダウンだ、三、二、一……」
中央の怪人が、スイッチを押そうとしたその時。
「待て! 何をしている!」
その声とともに、ステージ上手から仮面戦隊の五人が飛び出してくる。子供たちの大歓声。
「くっ……!」
中央の怪人の右手が、再びスイッチに伸びる。
しかし一瞬早く、緑の仮面戦隊が、中央の怪人に膝蹴り。
怪人が転がり、投げ出されたスイッチを、青の仮面戦隊がキャッチして、すぐさま握りつぶす。
「……仕方ない、お前たちをここで倒すしかないようだな……」
そういうと、立ち上がった中央の怪人は顔のマスクを取り外す。
……って、顔出しあり?
かと思ったが、その下から新たなマスクが出現した。
「ははは、本気の吾輩を倒せるかな……?」
動きが止まる仮面戦隊の一同。第二形態ってやつか?
「……みんな!」
赤の仮面戦隊が観客席に向かって呼びかける。一方、ずっと左側にいた怪人が観客席ヘ降りていく。
「ショッタン怪人を倒すために、応援してくれ! みんなの力が……?」
赤の仮面戦隊の声が不自然なところで止まった。
観客席ヘ降りた怪人が、客の一人を引っ張ってステージヘ上がっていったのだ。
「あ、あの人……」
彩音ちゃんがつぶやく。俺もすぐに気づいた。
怪人に連れてかれたのは、観客席の最前列で陣取っていた、あのうるさい女たちの一人だった。茶髪を振り乱し、いかにもという抵抗をしている。
仮面戦隊五人の、そしてステージに残った怪人二人の動きが止まる。
ステージ上に戻ってきた怪人は、まるで俺が彩音ちゃんを連れ去った時とおなじように、左手で女の首を抑える。
そして右手から、なんと包丁を取り出し、女に刃を向ける。
「おい、やめろ!」
緑の仮面戦隊が叫ぶ。
客を巻き込むショーというのはよくあるが、本物の包丁を使うとは……しかし、仮面戦隊や他の怪人の動きが、なんだかおかしい。
「仮面戦隊よ……子供たちも、その親たちも全員だ……俺の指示通りにしろ、そうしなければ……」
怪人は、包丁の刃を女に近づける。
ステージが、観客席全体が、しんと静まり返る。
怪人は、女を連れたまま、ステージの中央に出てくる。
「おい、緑! 来い!」
怪人が叫ぶ。緑の仮面戦隊は、自分を指さして困惑した様子。
「早くしろ!」
怪人の大声に、緑の仮面戦隊がようやくステージの中央に出てくる。その出てきた緑の仮面戦隊に、怪人は女を連れたまま近寄る。
「……えっ?」
その瞬間、怪人はまさかの行動に出ていた。
緑の仮面戦隊の仮面を、右手で乱暴に引っぺがし、さらに衣装の頭の部分を破り捨ててしまったのだ。
緑の仮面戦隊の顔があらわになる。そしてその顔は……
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