第2話

悠人は、フードを被った男の後を黙々とついていった。街灯の明かりがぼんやりと照らす夜道を歩く二人の足音が、静かな夜に響いていた。どこに向かっているのか、どれだけ歩けば着くのか、男は何も教えてくれない。けれど、悠人は不思議と焦りや不安を感じなかった。むしろ、この見知らぬ道の先に、自分が求めていた真実があるのだという確信が、彼の胸を支配していた。


しばらく歩くと、二人は人気のない路地裏に入った。雑多なゴミや廃棄物が散乱する狭い通りは、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。男は無言で歩き続け、悠人はその背中を追うように進んでいった。


やがて、男は立ち止まり、古びた建物の前で振り返った。薄暗い照明がその顔をほんの少し照らし出す。男の表情は見えなかったが、その目だけは鋭く光っていた。


「ここが、ZATUの拠点だ。」


男の言葉に、悠人は息を呑んだ。目の前の建物は、まるで廃墟のように見える。ひび割れた壁、壊れた窓、錆びついた鉄扉――とても、組織の拠点とは思えない。しかし、男の言葉には確信があった。


男は錆びついた扉を開け、悠人に中へ入るよう促した。悠人は一瞬躊躇したが、意を決してその扉をくぐった。中は外から想像していた以上に暗く、古びた匂いが漂っていた。


「この先に、本当のZATUがある。」


男の声に促され、悠人はさらに奥へと進んだ。古い階段を降りていくと、地下にたどり着いた。そこには、まったく異なる世界が広がっていた。明るい蛍光灯が照らす広々とした空間には、最新のコンピュータやモニターがずらりと並んでおり、数人の男女が真剣な表情で作業をしている。


「ここが、ZATUの作戦本部だ。」


悠人は、その光景に圧倒された。古びた廃墟の中に、これほどの設備が隠されていたとは予想だにしなかった。


「ZATUとは、君が考えているような単なる反体制組織ではない。我々は『TOKIZ』が隠している真実を暴き出し、世界に正しい情報を伝えるために活動している。」


悠人の後ろから、男が説明を続けた。


「君が今までに見たニュースや情報の中には、真実と嘘が巧妙に混ぜられている。『TOKIZ』は、人々が真実を見失うように仕組んでいるんだ。だが、ZATUはその嘘を暴き出し、人々に真実を届けるために戦っている。」


男の言葉に、悠人は困惑した。この組織が本当に正しいのか、それともまた別の陰謀に巻き込まれているのか、彼の頭の中で様々な疑念が渦巻いていた。


「…なぜ僕をここに連れてきたんですか?」


悠人は意を決して尋ねた。男は一瞬黙った後、ゆっくりと答えた。


「君は、我々にとって重要な存在だ。『TOKIZ』の目を逃れるためには、君のような外部の目が必要なんだ。我々内部にいると、どうしても見落としがちになる部分がある。君の視点が、新たな真実を発見する手助けになるだろう。」


「でも、僕は何の経験もないし、ただの一般市民です。」


「だからこそ、君が必要なんだ。」


男の言葉には、確固たる信念が感じられた。悠人は、自分がなぜ選ばれたのかを理解できないまま、彼らの計画に巻き込まれていくことを覚悟した。


「それに、君には特別な才能がある。『TOKIZ』のフィルターを通さずに真実を見抜く力だ。それは、我々がどんなに努力しても持ち得ないものだ。」


男の言葉に、悠人は驚きとともに、自分の中に眠る何かに気づき始めた。それはまだはっきりと形を成していないが、彼の中で何かが目覚めつつあるのを感じた。


「では、君の最初の任務を与えよう。」


男は、一枚の書類を悠人に手渡した。それには、「ターゲット:T-12」と書かれており、詳細な指示がびっしりと書かれていた。


「これは…?」


「『TOKIZ』が近日公開予定の重要な情報だ。だが、これがどれだけ真実に基づいているかは疑わしい。我々は、それを事前に調査し、真実を暴き出さなければならない。君にはその調査に加わってほしい。」


悠人は、書類をじっと見つめた。彼がこれまでただ消費していた情報の裏には、こんなにも深い闇が広がっているとは思わなかった。


「僕にできるかどうかは分かりませんが、やってみます。」


悠人は、ついに腹を決めた。彼の決意は固く、これからの困難な道のりに立ち向かう覚悟ができていた。


「よし、それでいい。我々は、君を信じている。」


男は満足そうに頷き、悠人に手を差し出した。悠人はその手をしっかりと握り、これから始まる新たな戦いに備えることを誓った。


こうして、悠人はZATUの一員として、巨大な陰謀に立ち向かう運命に身を投じた。彼が知ることになる真実は、想像を遥かに超えたものであった…。


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