真実のない真実

白雪れもん

第1話 

世界は、いつからこんなにも歪んでしまったのだろうか。主人公の悠人(はると)は、薄暗い部屋で青白い光を放つモニターをじっと見つめていた。画面に映し出されるニュースは、今日も「TOKIZ」が選んだ情報ばかりだ。政治、経済、エンターテイメント――すべての情報が「TOKIZ」によって一方的に流され、人々はそれを無批判に受け入れている。


かつては、情報は自由であるべきだと信じていた。しかし、今ではそんな考えがどれだけ甘かったのか、悠人は痛感していた。学校でも職場でも、誰もが「TOKIZ」の情報に依存し、それを疑うことすらしない。真実を知ることができない世界で、悠人は次第に孤立していった。


そんなある日、いつもと同じようにネットサーフィンをしていた悠人は、ふと目に留まったリンクをクリックした。「真実を知りたくないか?ZATU」とだけ書かれたシンプルなページ。いたずらか何かだろうと、彼は一瞬クリックをためらったが、好奇心には抗えなかった。


リンクをクリックすると、真っ黒な画面に一言だけメッセージが表示された。「ようこそ、ZATUへ。」


その瞬間、悠人のPCが勝手に再起動し、画面が再び立ち上がると、すでに見慣れた「TOKIZ」のニュースサイトが開かれていた。何事もなかったかのように、世界は続いていた。しかし、その日から、悠人の生活は少しずつ狂い始める。


最初はささいな変化だった。通り過ぎる人々が、見慣れない表情をしているように感じたり、いつもは通りがかりに聞こえるニュースキャスターの声が、どこか不自然に感じられたり。そして、ついには「TOKIZ」が報道する内容に、微妙な違和感を覚えるようになっていく。


そんなある夜、仕事からの帰り道、悠人は不意に誰かに呼び止められた。振り返ると、そこにはフードを深くかぶった男が立っていた。顔は影で見えないが、その男の目だけが異様に光っている。


「君が、ZATUに興味を持ったというのは本当か?」


悠人は驚き、後ずさる。しかし、男は悠人を追いかけてくるわけでもなく、ただその場でじっと立っていた。


「ZATUが何なのか、君はまだ何も知らない。しかし、知る覚悟があるなら、今すぐ私と来るんだ。」


男の声は低く、どこか冷たい響きを持っていたが、不思議と悠人の心には刺さらなかった。むしろ、ずっと探していた答えが、目の前にあるような気がした。


「…行く。」


悠人の口から出た言葉に、自分でも驚いた。けれど、その言葉を取り消すつもりはなかった。男は何も言わず、静かに踵を返す。悠人は、その背中を追いかけるように歩き出した。


彼の知らない真実が、今まさに始まろうとしていた。


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