第20話セイジバッカス学院治療科

呪怪展開事件から翌々日昼前

ナラクは懐かしさを感じていた。物心がつく前から過ごしていたセイジバッカス学院。

自由ギルド指環屋を立ち上げてからは来なかったナラクにとって実家と変わらない。

正直師匠である翠卿と戦う時まで来ないと思っていたのでこんなに早く帰って来るのは予定外。それでも会わなければならない男がここにいるのだから仕方ない。

ナラクは歩みながらその男がいる学科はこのセイジバッカス学院の学生の治療から翠都全体の治療院の統括機関でもある治療科、通称ヘヴン!

ナラクはその所轄地に入ると領域展開が改良されているのに興味が湧く。エナジーフィールドを展開。そのまま目指す部屋まで歩みは止めない。その部屋に辿り着く。どうやら個室のようだ。中には二人いる。

ナラクはドアをノック。すると「鍵は開いてます」聞き慣れた女性の声。

ナラクはドアを開け中に入る。やはり個室らしくその個室の中でも広い方。

ベッドに寝ている男より女性の方がナラクにいち早く気付く。その女性は

「ポトアさん久し振りですね。呪怪にやられてはいないんですね」びっくりしている。

「どうしてここにナラクがいるんですか?」

ナラクという名に反応した寝たまま上半身を起こす男は聖騎士で解析の出来るラダン。

身体に悲鳴。ラダンは堪らずベッドに寝る。それでも口は動くらしく「よく俺の前に顔を出せたもんだな」その声には虚脱感が表れていた。

ナラクが用のあるラダンを取り敢えず無視しポトアに「やっぱりあの場にポトアさんはいなかったんですね、本当に良かった」喜びを口にした。

嬉しさで一杯になるポトア。だがラダンは

「何しに来やがった?よくもまあ俺の前に顔を出せたもんだな。俺の治療費は出すんだろうな?」ベッドに横になっているのに上から目線。ナラクはバカを見る目にしかなれない。

「ポトアさん?ちゃんと説明してないの?」

「申し訳ございません。この生意気バカと縁が切れると思っていたら忘れていました」

「だったら部屋の外で立ち尽くしてる人も入れてからやろう」ナラクは個室のドアを開ける。そこには騎士服のレブルがいた。

「どうした?俺の声が聞こえない病にでも掛かってるのか?それともあのベッドバカと同じでどういう悪態をつくか考えてるのか?」

レブルはその場に跪く!

その光景はラダンにとって衝撃だった!

「何してんですか?団長今すぐやめて下さい!

そんな奴には唾でも吐きつけてやればいいんですよ」

「黙れぇぇぇ!!!」

レブルの怒声はラダンの顔を蒼白させ何も言えなくさせた!ナラクは跪いたままのレブルに向かって優しく「バカにいちいち怒るのはエネルギーの浪費だからやめときな」バカとの関わり方を教える。

そこにポトアがレブルの前で屈む。

「副団長何ですから言葉には気をつけて下さい。いいですか?」「今後気をつけます」

この会話にラダンは「団長が副団長?」声に力が入っていないが驚き過ぎて身体を痛める。

ポトアは一応ラダンを気に掛ける。

「バカは大変ですね?そもそもそこで寝ていられるのはナラクのお蔭何ですから本来ならあなたが跪くべきなんですよ」

ラダンは信じられない。頭の中がゴチャゴチャしていて整理もままならない。そこにナラクは近づき「取り敢えず何が聞きたい?」相手にする気になった。

ラダンは何を訊けば良いのかすら思いつかない。それを察したナラクはまだ跪いているレブルを見て「まずあの人は団長から副団長に降格した」「勿体ない配慮です」騎士としての忠誠心には感心していた。だが「何で団長が副団長なんてやらなきゃいけねぇんだ?」ラダンは納得が行かない。そこにレブルが

「何を言っている。ナラク殿の配慮があったからこそ私は副団長で済んでいる。愚を犯したというのにだ!」悲痛な声でナラクを称える。

レブルの頭が可笑しくなったのか?それとも自分の頭が可笑しくなったのか?それならまだ良い。なのにポトアまで可笑しくなったのならばラダンは許容出来ない!

「ちゃんとした説明が出来るんだろうな?」

「騎士教会翠都支部長に今回の説明をして結果、レブルは騎士団に居場所が無くなりそうだったんで俺が介入して副団長に降格で済んだ。つまり俺が助けた形になる」

「⋯支部長、まず会うのも難しい御方だぞ」

「俺は会えるんだよ。そうすると団長がいなくなる。そこで聖騎士の儀を成功したポトアさんがいた。それでポトアさんを団長にしてルーク騎士団は形を保った。これからが大変だろうな」

ラダンは信じられないが二人の覚悟を決めた顔に本当なのだと理解出来てしまった!

苦々しい顔のラダンにナラクはここに来た本題を口にする。

「さて、俺がここに来たのはあんたのこれからについて説明する為だ」

俺についてというラダンの顔にポトアは

「しっかり聞いておきなさい。今後のあなたの人生に関わるから」きつく言葉にする。

「俺の人生?」

「そうだ。簡単に言うぞ。あんたは騎士ではなくなり魔導師になった」

「何を言ってる?俺は騎士だ。魔導師になった覚えは無い」

「レアケースだよ。稀にあるんだ。騎士が魔導師になるっていう地獄がな」

「嘘だ!そんなのあり得ない!だってそうだろ?騎士が魔導師になるなんてそんなケースある訳ない!」

「なら騎装を出現させられるか?」

「そんなの出来るに決まってる!」

ラダンは右手に騎装を出現させようとすると何も起こらない。それが信じられないと何度もとにかくやった。すると魔力が漏れた!それを見たラダンは絶望絶望絶望絶望!

「何だよこれ?何で騎装は出ないのに魔力が漏れんだ?まるで魔導師じゃねぇか。こんなの嘘だーーーーーーーー!!」

「それがあんたの現実だ。その上で黃都に行ってもらう」

狂気を帯びたラダンの目はナラクを睨む。

「俺に何の価値がある!?」

「あんたには鑑定師になれる可能性がある」

何を言ってるのかラダンは耳を疑う。

「何を根拠に言ってる?」

ナラクはポケットから指環を取り出して

「これを解析してみな」提案。

「ハァ、何言ってんだ?出来るわけないだろうが。頭腐ってんのか」

ナラクは「いいからやれ」脅す。ラダンでもヤバ過ぎると感じられるレベルで。

仕方なくラダンは指環を手に取って解析。

すると指環は発光し情報をヴィジョンに映す。

「何で出来るんだ?」「簡単だよ。もう一度言うあんたには鑑定師になれる可能性がある。今解析して見たろ。それが根拠だ」

「待てよ、これぐらい出来て当然だろ」

「魔導師の中でも解析出来る奴はレアなんだ。それが元騎士なら尚更だ」

ラダンは「俺は騎士だ!」叫ぶ。

「急には受け入れられないだろうな。だから時間はやる。更にもう一つ情報をやる。あんたが騎士として積み上げたものは騎装以外全てある」

ポトアは堪らず「剣士としての技量も?」ナラクに確かめる。

「ああ今映ってるだろ」ラダンのヴィジョンにラダンだけでなくポトアも見る。

「レブルも跪いてないで見てみな」「ありがとうございますナラク殿!」

レブルは立ち上がりヴィジョンに近寄り見る。

三人共驚く!先ずはポトア。

「剣士としてなら下級荒神とも渡り合える」次にレブル。「魔導師としては異例の性能」最後にラダン。「何だこのスキルを自由に使える?」

「どうよ自分の情報を見た感想は?」

「とんでもねえ。何なんだ?指環はこんな芸当まで出来るのか?」

「そうそれが指環の良いところだ」

ナラクは近づいて指環をポケットの中に回収。

一通りの情報を見たので三人には充分。

「さてもう一度言う。あんたには鑑定師になれる可能性がある。少しはその気になったか?」

ラダンはしてやられたと敗北感を味わったがこれ程旨味があるのは初めての経験だった。

「それ以外の道はあるのか?」

「鑑定師と言っても自分の身は自分で護るっていうのが多いからな。鑑定師兼魔剣士とかどうよ?」

「魔剣士?」三人共気の抜けた声。

「聖騎士にまでなったんだ、魔剣士の厄介さは知ってるだろ?」ラダンは「なれるのか?」懐疑的。「あんた次第だな。黃都には魔剣士育成の道場が結構あるからあんたには都合が良いだろ?」

「待て!黃都って何だ?」

「黃都の騎士団に行く予定は無くなったが黃都のギルドに移籍するのはもう決まってる。まあ簡単には受け入れられないか?」

「黃都のギルドってどこだ?」

ラダンの今日イチの冷静な言葉にナラクは答える。

「ムラマサ」

ラダンだけでなくポトア、レブルも耳を疑う!

特にポトアが食いつく。

「黃都でも三本の指に入るギルドになんてそんなの破格の対応ですよ」レブルは

「こんな幸運があるモノなのか?」

ラダンにとってこれ以上を望んでも手に入らない待遇にぐうの音も出ない。ナラクは

「言っとくけどあそこは怠け者を嫌うから上手く行くかはあんた次第だからな」一呼吸を入れ

「俺の用は済んだ。ちゃんと伝えたからな、じゃあな」ドアから普通に部屋を出て行った。

ポトアはその姿を追う。

「ナラク!」

名を呼ばれたナラクは歩を止め振り向く。

「どうしましたかポトアさん?」

ポトアは疑問をぶつける。

「ラダンには勿体ないのにどうしてここまでの待遇を用意したんですか?」

「そんなに不思議ですか?」「はい」「簡単ですよ、俺の身代わりです」

ポトアは首を傾げる。「どういう意味でしょうか?」

「外にベンチがあります。そこでなら種明かしをしましょう」

ナラクはそう言って歩き出しポトアは後をついて行く。

外のベンチに座ったナラクとポトア。

ポトアはベンチに一緒に座っている幸せを噛み締めつつ訊かなければならない。

「身代わりとはどういう意味でしょうか?」

ナラクは前提から始める。

「翠卿クラスの卒業生はその後どうすると思いますか?」

「翠都だけでなく他の四都で活動すると聞いています」「つまり黃都にもいるんです。そこに誰か使える下っ端を探してる姉さんがいるんですよ。その姉さんに一人も紹介出来ないと俺が行かないとダメだったんですよ。そこに都合良く身代わりがいた。納得してもらえましたか?」

ポトアは一つ気に掛かる。

「ラダンは下っ端ですか?」「下っ端ですよ」

「騎士ではなくなったとはいえ聖騎士だったんですよ」「姉さんの名はロロ。Sランク魔導師で小さかった俺の何人もいる目標だった一人と言えば納得してもらえますか?」

「目標ですか?」「今でも頭が上がらないんですよ。Sランク魔導師というのは才能だけではなれません。それこそ命懸けです。俺はそれを近くで見てきたから逆らうのが難しいんです」

ナラクはもう一つ付け加える。

「ロロ姉さんのやってるギルドはグレード5で一番下っ端は金色騎士ですよ」

「…エ?」

「信じられないですよね。金色騎士程度でロロ姉さんのギルドでやっていけてるのは」

「違います。金色騎士が下っ端ってラダンはやって行けるんですか?」

「何がなんでも食らいつく根性があれば」

ポトアも流石に気が重くなるがラダンにはもう翠都ではやって行くのは難しい。これは間違い無くチャンス。

「最後に良いですか?」「どうぞ」

「ラダンは聖騎士でした。何故魔導師になってしまったんでしょうか?」

「俺の指環を何の用意も無く解析したからですよ。学院にいた頃、何度かあったので原因は間違いなくそれですよ」

ポトアはまだ信じられない。自分の身に着けている指環も解析すれば同じ目に遭うのか。

ナラクはそれを見透かす。

「大丈夫ですよ。ポトアさんの指環は戦闘用ではないので」「そうなんですか?」

「それにあれは安価品です。元から安定してませんから刺激すればああなるのは当然なんですよ。レブルでしたっけ?あのラダンとか言う男に解析させてしまった。その動機は知りませんが」「私にもさっぱりです」

微妙な表情のポトアに一つ教える。

「そもそも指環は精神力が高いのに実力がそれに追いついていないもの向けに創っていたんですよ、例えば俺とか。実力が底上げされるっていうのは副産物なんですよ」

ポトアは目をぱちくり。

「だからポトアさんの精神力が高いから治療用の指環は機能してるんですよ」

「そうなんですか?」「そうなんです。だから俺としてはルーク騎士団団長に相応しいのはポトアさんだとずっと想っていましたよ」

ナラクの眼に嘘は無い!それを感じ取ったポトアは立ち上がり敬礼!

「私、精一杯やってみます!」

「その意気です。ポトアさんは金色騎士にだってなれますから」

そのワードに驚くポトア。ナラクも立ち上がり握手を求める。

「お互い頑張りましょう」「はい!」

二人は握手をした。ちゃんとしっかりと。






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