第21話戦神の儀をそっちのけ
セイジバッカス学院治療科を出て二時間後
第二闘技場儀式場
クグが自身の戦神の儀を見に来るように昨日ネットワークを使ってナラクにメッセージを送っていた。無視も可能だったが何かクグらしくないのでそれを確かめに来た。
ナラクは儀式場の中へ。するとナマナが抱きついて来た。回避可能だったがこの場の雰囲気を乱すので仕方なくナラクは抱き締めた。
そこにギルドブレイズのギルドマスターデンガが近寄って来た。
「本当に来たんだな。俺なら無視する所なんだがなガハハ」
「ああ俺もそうしようと思ったけど何かしらの意図を感じたから来た」
ナマナを抱き締めるのを止めナマナを引き離す。デンガの秘書ナマナの顔に戻る。
「私が大分関わって作ったメッセージなので来ると思ってましたよ。あれだけ匂わせれば来ると」「成程、俺はナマナさんの手の平の上か。まあ問題無い。それで儀は終わったのか?」
「これから始まる所だ」「なら久し振りに儀が観られるな」「戦神の儀は神聖なモノだ」
「三日に一回観てればただの催しだよ」
そこにナマナが食いつく。「詳しくお願いします!」「学院でわざわざ儀を行いたい人達もいて俺はそれをよく手伝わされたから見慣れてる。でも今回は少し期待してるよ」
デンガとナマナは目をぱちくり。
「なんたって特級の儀だからな」
デンガは不思議そうに「そんなにレアケースなのか?」発言するがギルドマスターとしては失格。
「特級は世界規模で視ても五十人いるかいないか、神の位全てを下級中級上級合わせて五千万人ぐらいか。レアケース?激レアだよバカ」
「待て。神の位ってそんなにいるのか?」
「当然だろ。所持者の内半分は普通の暮らしをしてるよ。まさか本当に知らないのか?割と世界規模の常識だぞ」
「ナマナは知ってたのか?」「私ギルドマスタ
ーの秘書ですよ。それ相応の勉強は昔も今も欠かせませんよ」「何で教えてくれなかった?」
「言っときますよ,ギルドマスターになるには筆記テストもありましたよね?どうやってギルドマスター資格を取ったんですか?」
「実技受けたら合格と言われて取れた」
ナマナは頭が痛くなってきた。ナラクは失笑。
「そんな反応が返って来る程なのか?」
ナラクは「俺の知るギルドマスターは全員知ってると思うぜ。だから勉強しな。もしくはどっかのギルドと合併してギルドマスター辞めるってのはどうだ?」忠告と提案。
「勘弁してくれ」デンガは弱音を吐く。
「まあ好きにしろよ。グレード3のギルドマスターには相応の知識も必要になってる来るから少しはナマナさんを労いな」
「そこまでナマナはギルドに貢献しているのか?」「バカ発言だな。大丈夫かギルドブレイズ?」
「今の所私はギルドを辞める気が無いので大丈夫ですよ」「良かったなデンガ」「一ついいか?」デンガは人差し指を立て
「ナラクお前、俺のギルドを乗っ取るつもりか?」本当にバカ発言。
これにはナマナも呆れる。
「いいですか。もしナラクにその気があれば既に私達のギルドは乗っ取られてます。何でそんなにバカ何ですか?」「本当なのか?」
ナラクは両手でやれやれのポーズ。
「いいかデンガ。俺のギルドは自由ギルドだ。乗っ取るとかそういうバカをする必要も無いし出来ないんだよ」「どうしてだ?」
「自由ギルドにはグレードが無い。つまり競争とかギルド同士のぶつかり合いとかはやるだけ無駄なんだよ。理解出来たか?」
「競う必要が無いのか?」「そうだ」
デンガはフリーズした。
そんなバカをほっときナラクはナマナに
「そろそろ始まりますよ」
出て来たクグに注目させる。
クグは鎧姿で現れた。隣には神官騎士。やけに力が入っている所に今回の儀が改めて激レアケースなのを感じさせる。
ナマナは珍しく気合の入った兄の顔を見て涙をぐっとこらえる。クグはそれに気付けない心理状態なのだろう。目は真っすぐ神位の石板に注がれている。手で触れられる距離まで進んだクグ。
隣にいる神官騎士に触れる指示をされクグは石板に触れると、石板が儀式場に領域展開!そして顕れたのは五大神の一柱、宝神!!!
その存在が顕れるだけで全員に領域の圧が掛かる。一番近くにいるクグに神官騎士、ナマナにフリーズしていたデンガでさえその存在に気付き気圧される。
ただ一人ナラクだけは涼しい顔をしていた!
宝神が口を開く。
「成程。良く鍛錬されていますね。良いでしょう。これからは特級戦神としてやって行きなさい。その為に」宝神はその右手をまだ石板に触れているクグの右手に触れ力を流す。
「これで神気を扱えるようになりました。
これからも励むように」
そう言葉を残して姿を消し領域展開も霧散。
残された者達は夢でも見たかのように呆ける。
そこに「やったなクグ、特級戦神だってよ」
ナラクの一声。
それに皆が歓声を挙げる!まずはデンガ。
「何だあのスレンダー美人?あんなの見た覚え無いぞ」次にナマナは
「あの人、何なんですか?」涙が止まらない。
神官騎士でさえ震えている。何よりクグは
「この世にあんないい女がいるのか?」特級戦神より消えた美女にしか頭が働かない!
その光景を見ながらナラクは儀式場を出ていこうとするのをナマナがナラクの左腕を摑んで引き留める。そして叫ぶ。
「ナラクはあの人を知ってるんですよね?教えて下さい!」
ナラクは摑まれた左腕を右手で解く。その上でナマナに訊く。
「あれだけの存在を知らないのか?」
ナラクの質問に答えられる者は一人もいないのに気付かされると
「何だ本当に見当がつかないのか?多分知識はあると思うぞ」この場の全員、神官騎士さえ答えられない現状にうなだれる。
「良し、俺は帰る」「待って下さい!知ってるんですね」ナマナは堪らず叫ぶ!他の者達も教えろコール。ナラクは頭痛とまでは行かないがまさかこんな所でこの名をいう羽目になるとは思っていなかった。
「なら少し黙れ。でなければ俺は力ずくで出ていく」全員が呼吸を揃え急に静かになるのを見て答えを口にする。
「宝神だよ」
全員が固まる?良く見ると震えている。だがそれが解けると大歓声!一番最初にナラクに声を掛けたのは跳んできたクグ。
「それ、本当なんだろうな?嘘じゃないんだよな?」「この状況で嘘をつくメリットってあるのか?」
「マジか!宝神ってあの五大神の一柱だよな?あんな美女なのか、スゲエ」
「美女って言っても五大神だぞ。抱けるわけないんだからまずは諦めろ」
「だってなぁ、あんなのありえんのか?」
「言っとくが本当に抱きたいなら荒神の上に行かないとまず無理だぞ」「何で言い切れる?」
全員の視線を受けてもナラクは動じない。
「そりゃあ他にもいるけど俺の先生だからな」
ナラクは知っている。この問題発言がどんな奴でも口をあんぐりさせて固まらせる!そうでもないのはナラクならあり得ると納得する者達。
今回の場合は全員が前者だった。その光景を見てナラクが帰ろうとした時、儀式場に二人の男が入って来た。一人は神の位、もう一人は騎士。ナラクは気にせず帰ろうとした。
「待て」騎士の右手がナラクの右肩に触れ、振り向かせようとする。その圧はその場にいた全員を正気にさせてしまう。ナラクは
「あんたこの前の金色騎士の騎装の持ち主か。俺に用があるみたいだな。早く言わないなら帰る」悪態をつく。
そこに神の位。
「俺達と戦ってもらう。場所は第一闘技場だ」
「何か賭けてるのか?」「お前がルーク騎士団から持ち出した指環を俺達が勝ったら潔く渡してもらう」「あんたらにそんな権限があるのか?」
神の位がヴィジョンを映しナラクに見るように促す。ナラクはその内容にホーグ兄さんの困り果てた顔が思い浮かび失笑。
それに騎士が反応。「何が可笑しい!?」
ナラクは言うまでもないと思っているがこの二人はそれが理解出来ないのにまた失笑。
騎士は怒りのままにナラクを殴ろうとすると
「何だ?」動けなくなった。
神の位は「何故止める?」理解不能。
だがクグ、デンガ、ナマナは理解している。
口を開いたのはナマナ。
「ナラク、ヴィジョンの内容は?」
ナラクは馬鹿馬鹿しく「あの指環を量産する為に渡せってさ。その上で売り上げの2%を支払うのを約束するだと」呆れた。
神の位は「これ以上の配慮は他の者ではあり得ない」自信満々。
ナラクは時間を「いくらで売るつもりだ?」無駄使いする。
「五十万ルブ!」またどこから来る自信なのかナラクはこれ以上は無駄過ぎると「戦って俺が勝つとどうなるんだ?」「売り上げの二割をやろう」
久し振りに馬鹿の自覚が無い馬鹿に遭遇してしまった。仕方なく
「指環は渡さない。じゃあな」簡潔な言葉。
「待て!」神の位は神気を使う前に動けなくなる。その原因は間違いなくナラク。ただ何をされたのかが二人には見当もつかない。
帰り際ナラクは「クグ、これからが大変だぜ」
忠告して儀式場を出て行った。そこに一人の小柄な女性がソフトクリームを食べながら待ち構えていた。
「久し振りねナラク。昔よりいい男になったわね。姉さんと呼ばれていた頃が懐かしいわ。取り敢えず私の質問に答えなさい。指環は量産可能って出任せは誰が垂れ流してるか知ってる?」「知りませんし出来ませんよ。ロロ姉さんなら言うまでもないだろ」「やっぱりそうなのね。私としてはその情報の出所を調べに来たのよ」「なら儀式場で固まってる奴らを調べたら」
ロロはソフトクリームのコーンをばりばり食べてハンカチで口元と右手を拭いてから「私が入って良いのかしら?」ナラクに確認。
「なら一緒に行きますよ」ロロに右手を差し出す。その手をロロは左手で握り「ふふっ」と笑う。
「そんなに笑い所?」「それはそうよ。あんな目にあっても女の手を親切心で握れるまでになったんだから、それに姉さんってまだ呼んでくれるしね」
ナラクはまいった顔。ロロはそれを見て微笑。
二人は儀式場の中へ。
そこにはさっきと変わらない面々。どうやらナラクの縛りを解こうとしてあたふたしている。
そこにナマナがナラクに気付く。そして知らない女性と手を握ってるのも。
「ナラク。その女性は?」「俺の姉さんだよ」
「もしかして」「学院翠卿クラス卒業生」
そのナラクの言葉はあたふたしていた場が鎮まる。そこにロロ。
「ナラク手を放して」ロロは神の位と金色騎士に近づくと二人の顔を平手打ち!
すると二人の縛りが解けロロに向け
「ありがとうございますギルドマスター」
感謝の意を表わす。ロロはそれに構わず
「あなた達誰がナラクの指環の量産可能って言ったのか教えなさい」
「ホーグっていう騎士教会翠都支部長にです」
「あの男は相変わらず遊び方がアホなのね。いいわ、あなた達はさっさとギルドに帰りなさい。後は私がやっておくわ」
「待って下さい!一人では危険です!どうか俺達を護衛に付けて下さい!」「危険…」
ロロはナラクを視る。
「護衛なら私の弟に付いてもらうわ、良いわよねナラク♡」「構いませんよ。俺としてもホーグ兄さんに用が出来たので」「なら行くわよ。そうだ二人共後でちゃんと調教するから逃げたければ逃げなさい、逃げられるなら」
そう言い残しロロはナラクの右手を左手で握って儀式場から出て行った。
残された二人はナマナを見て
「良し戻る前にこの女を抱いてから行こうぜ」
「そうだな良い考えだな。中々旨そうな体つきに艶っぽい顔、そそられるな」
ナマナに近づく二人。ナマナは恐怖で身が竦む。そこにデンガが立ち向かうが神の位の一撃で戦闘不能。守護騎士は金色騎士の騎装の一撃で戦闘不能。残されたクグは絶域展開。だが二人には通じない。神の位が明かす。
「俺は特級荒神だ。絶域なんざ簡単に無力化出来る。お前もっと絶域の可能性に目を向けられていれば俺の敵にはなれただろうにな」
特級荒神は神気の拳一つでクグは気絶させ
「さあ存分にいただこうぜ」舌舐めずり。
二人はナマナに襲いかかると全身が灼けた。そのまま二人はダウン。ナマナは何が起きたか二人を観察。顔に平手打ちをされた痕が発光している。どうやらこうなるのを予想して施していたのに今になって気付くナマナ。こんなピンポイントで出来る代物ではないのに気付くのはナマナも魔導師だから。
「何て言えば良いんだろ…、翠卿クラス卒業生ってどうかしてる」
そう呟いたナマナは一番安全だと判断した学院にネットワークを使って連絡した。
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