第9話中級昇格試練会場応接室

指環を届けてナラクがそれなりに遊べた翌日

中級昇格試練朝予選が終わる頃、会場となっている翠都第二闘技場昼前

闘技場関係者以外立入禁止区域にナラクの姿があった。ここに来て欲しいと言う連絡が自由ギルド指環屋に来ていたのでその場に十五分待たされナラクはもう帰る気になっていたその時、関係者用入り口のドアが開き出て来たのはポトア、すぐに頭を下げる。

「ナラクお待たせ致しました。こちらから連絡を取ったにも関わらずお待たせしまして申し訳ありません!でもギリギリ間に合いましたね」

今日は赤いドレス姿のポトアを見て相変わらず派手な格好を着こなす女性にナラクは素直に

「いつも綺麗ですが今日はとびっきり綺麗ですね。俺にその気があれば口説きたくなるぐらいです」賞賛。

ポトアは全身が熱くなるのを抑える。ナラクが本気で言っているのが伝わっているから尚更。抑えるため赤騎士として振る舞う。

「それではご案内します」それでも我は通す。

「御手を」ポトアは左手をナラクに差し出す。その手は全く震えていない。ナラクは右手で握った。本当に大した女性であり騎士として数段上がっているのを握って見てはっきりした。この騎士はもっと上にいく器だと。

関係者用入り口から一分程ナラクはポトアについて行くと応接室に通される。そこには一人しかいないが見知った顔の

「来たなぁナラク」

喫茶店アーセナルの主人キネルはソファーに座りながらナラクに声を掛ける。ナラクは変わらず冷静な声で

「思った通りいましたねキネルさん。高見の見物とか言うからいるかもしれないと予想してましたよ」キネルをいじる。

「かぁぁ、お前いちいちケンカをふっかけてくんな。もし俺が間違って買ったら俺ぁどうなる?」

「そこはその時の俺の気分次第ですよ。例えば普段通りなら丸一日立ち上がれなくなるぐらいで、憂さ晴らしがしたいなら人として生きられなくなるぐらいかな」

さらりと恐怖を感じる言葉を並べるナラクに流石のキネルも黙ってしまう。そこへもう一人応接室に入って来た。スーツ姿の女性は取り敢えず

「失礼します。本当に来てくれたんですね。ありがとうございます。まさかあの指環屋に会えるとは光栄の至りです」ナラクの左手を両手で握って感謝!

ナラクは害意を感じないので握られたままこの場を見守る。そこにポトアは

「もういいでしょ、手を握るのを止めてくださいムナさん」

女として譲れない何かがあると声を荒らげる。

ムナは目聡くナラクの右手を見る。

「ならどうしてポトアさんは指環屋さんの右手を握っているんです?」

「これは私にとっての報酬です!」

ポトアの言葉に反応したナラクはそのまま強く握る。油断していたポトアは漏れてはいけない声。それにキネルとムナは呆然。キネルは何とか今の心情を絞り出す。

「ナラク何してんだ?」

ナラクは端的に

「綺麗な女性の手を強く握るのはダメなのか?」悪びれもせず言い切る。

キネルは羨ましさを隠し切れない。

「お前の頭は正直どうかしてんな」

ナラクは乾いた笑みで「ありがとうございます☆」そう言ってポトアの手を放したナラクはムナに目を向け疑問をぶつける。

「ムナさんでいいのかな?俺、六年前に会った記憶があるんだけど大闘技場で」

ナラクから大闘技場という言葉が出て来た時点でムナはやっぱりとナラクに指を差し晴れた心持ちで

「やっぱりそうなんだ、翠卿クラスにいた人ですよね?こんな形でまた会えるとは思ってもいませんでした。噂は聞いていますよ翠卿クラスの卒業生情報にはいつも驚きっぱなしなので」

溜まっていた思いを吐き出した!それにキネルが芝居がかった反応でムナに食いつく。

「例えばどんな情報だぁ?」ムナは

「すいません。機密情報扱いなので下級荒神のキネルさんには荷が重いかと」ヒラリと回避。

そこまで言われるとポトアも気になりナラクに訊く。

「ナラクは当然知っているんですよね?」

ナラクにとってどうでもいいのだが色気全開で迫るポトアをある程度鎮める為に口を開く。

「お互いが必要以上に干渉しないように俺達が造ってるネットワークがあるんですよ。それを使えばある程度は調べられますよ」そこにナラクは釘を差す。

「探らないようにして下さい。魂が蝕まれても何の成果も得られないので」

ポトアは我に返り、ムナはやはりと思い、二人は気が済んだのだがキネルは違った。

「そのネットワークとやらはどういう造り何だ?それとやましい企みがあるんじゃねぇのか?」

ナラクは珍しがる。いつものキネルならこれ以上は踏み込んで来ない。なのに今回は踏み込んで来た。何かしらの意図があるのか探ろうとした時

「キネルさん酒呑み過ぎですよ」

ナラクは声にエナジーを乗せてキネルに当てる。するとキネルは酔いが和らぐ。その上でもう一度ナラクはキネルに質問。

「ネットワークについてまだ知りたいですか?もしそうなら俺にも考えがありますよ」

ナラクの微笑にキネルは一気に正気を取り戻す。その上で自分の発言を省みる。キネルは血の気が引く!

「勘弁してくれ!それを聞いたら生きて行けねぇだろ!」

ナラクは人差し指を立てて

「正解です。これからは俺の前では言葉を慎んで下さい。出来なければどうなるか、これ以上は言う必要無いですよね?」にっこり。

悪寒が走る、キネルだけでなくポトアもムナもどうしようもない位の差を感じた!

満足気なナラクはキネルとは違うソファーに座り、二人に促す。

「何かを決めるんでしょ?始めましょう」

全員違うソファーに座り、ムナが進行。

「決めるのは誰を中心に実況を進めるか?私としては是非ナラクさんに務めて頂きたいのですが、どうでしょう?」

ポトアとキネルは互いに目を合わせ

「それが良いのでは」「俺も賛成だ」

ナラクはその意見に首を傾げる。

「俺に務まるのか?俺は指環屋で神の位は持ってない。ならここは神の位を持つキネルさんを中心に解説するのが一番だろ」

キネルが切り込む。

「ナラクお前なら傭神と戦神の違いを知ってるよな?」

ナラクは余りにも簡単な質問に戸惑いながら

「神気が使えるかどうか」簡潔に答える。

「正解だ 、なら神気って何だ?」キネルは即座にまた質問。ナラクは意図が読めないまま

「神術を使うのに必要なエネルギー」答える。

「なら何故傭神は神気を使えない?」何となく意図が読めたナラクは「神の位と言っても仮免だから。そして神術は魔導師の魔力によく似ているから俺でも解説が出来るって本気で言ってる?」首を傾げる。

キネルは馬鹿笑いし

「その通りだ。そもそもお前神の位持ってる奴より神術に詳しいだろ?」唇がにたぁと歪む。

「ちょっと待ってください。今のやり取りの内容って本当なんですか?」

ムナは黙っていられず二人の会話に割って入り

「それとも私が不勉強なだけですか?」真剣な顔。そこにポトアが

「大丈夫ですムナさん、私も今初めて聞く内容です」ムナをなだめながらも驚いている。

今のキネルとナラクの会話は普通に平穏に過ごしていればまず耳に入って来ない内容。それを今女性二人は聞いてしまった。

そこにキネルは「大丈夫だ心配すんな、死にゃあしねぇよ。逆に良く知ってんなって言われるぐらいだ」緊張感無く笑う。

更にナラクも「そうですよ。それに二人は知っておいた方が良いですよ。神の位を持つ連中と戦う時に役立ちますし」右手をヒラヒラ。

ムナは情報の整理を始める。

「つまりナラクさんは神術に精通している?」

ナラクは首に人差し指を当てて

「それはそうですよ。それぐらい知らなければ翠卿クラスではやっていけません」そこから両手の平で何故理解出来ないかのポーズ。

ムナはパンっと拍手。

「なら簡単です。ナラクさんをゲストの中心にします。ナラクさん言い逃れは出来ませんよ」

「ここまで言ったらまあこうなるか。それでスケジュールはどうなってんの?」

ナラクは簡単に意識を切り替えゲストモード!

ムナはそれに答える。

「予選は終わりました。残すのは本戦のみで内容はバトルロワイヤルです」

「へえー、それで何人ずつ残ってんの?」

「それぞれ六人ずつで最後の一人になるまで戦ってもらいます」

「なら順番は?」

「武神、戦神、最後が傭神です」

「その順番で盛り上がる?」

「間違いなく!」ムナは自信満々で言い切る!

そこにキネルも「間違い無いだろうよ」

ポトアも「なんと言っても今回は傭神がメインですから」二人も揺るがない!

だがナラクだけは心配を口にする。

「本当に大丈夫なのか?傭神だぜ」

そこにムナは理由を答える。

「ギルドブレイズのバゾが残っていますから」

「たったそれだけの理由?」ナラクにとっては理解し難い理由。だが三人にとってはこれ以上ない理由。ポトアが切り出す。

「なら訊きますが今回ナラクの指環を身に着けている神の位はギルドブレイズのバゾだけですよね?」

ナラクは半眼で「そう」そこで昔の記憶がちらつく。

「大闘技場の時も同じ条件で同じスケジュールの時があったな。その時も俺の創った指環をしてるのが最後になったな。ん、理由って俺の指環?」

キネルはやっとかという顔。二人の女性はうんうんと頷く。アーセナルでの会話を思い出すナラク。

「そういや指環がどうのこうのでゲストに選ばれたんだっけ、ああハイハイ」ナラクはようやく納得が行くのだが疑問は口にする。

「俺の指環ってそんなに注目されてたっけ?」

「ほらな、こいつはこういう奴だよ」キネルは呆れ気味。

「そうですね、自分の創った指環の価値を一番知っているのはナラクなのにどっか抜けているんですよ」ポトアはナラクのそういう所も好き。そんなナラクは覚悟を決める。

「なら割と好きに喋るけどそれでいいんだよな?三人には面倒掛けるけど」

キネルとポトア、ムナは互いに目配せする。

「その為の俺達だ」キネルは言い切った!

「だったら決める所を決めとこうぜ」

それから四人は役割を決めて行った。




















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