第10話ブレイズとエアロル

朝予選が終わり無事本戦出場を勝ち取ったギルドブレイズのバゾ。その様を見守っていたギルドマスターのデンガに秘書のナマナ、特級傭神のクグの三人は安堵していた。わざわざナラクに指環を創ってもらい本戦にも行けませんでしたではナラクにあわす顔がない。しかもこんなギルドに指環は要らないだろなんて言われればたまったものではない。それを不要に終わらせたバゾが三人の元に駆け寄って

「どうです、やったっすよ」褒められに来た。

クグはそれが痛いほど伝わったので応える。

「良くやったよ、弟子の活躍ってのもいいもんだな」ただ一つ指摘。

「あの戦い方だと負ける可能性がある」

デンガもそこが気になっていた。

「やたらバフとデバフを使い過ぎたな。指環は問題無いんだろうがお前のエナジーは無限ではない。それに本戦は勝ち残った六人によるバトルロワイヤル。お前は目立ち過ぎた、まず間違いなくお前が一番に狙われる」

クグとデンガの小言を蹴散らしたのはナマナ!

「それぐらいにしておいて下さい。エナジーに関しては対策済みです、はいバゾ食べなさい」

ナマナがバゾに差し出したのはタマゴサンドイッチ、それに魔法瓶の中には温かい紅茶。

「これを摂取すればエナジーは回復します。さあどうぞ」

バゾは本当に嬉しそうに飲み食いを始めた。それを見たクグは

「少し甘くないか?」これからのナマナとバゾの関係が心配になる。ナマナは首を傾げてから

「必要のない心配ですね。私とバゾの間には何も芽生えませんよ」断言。クグは一呼吸して

「そこまで言うなら別に良いんだがな」気苦労で終われば良い、そんな雰囲気の中四人に近づく二人組、その女性の方がデンガに

「相変わらず賑やかで良いものだ。ウチの連中にも見習わせたいくらいだ。それであの約束は覚えてるんだろうね、デ・ン・ガ」色目。

デンガは内心震えながらも

「あの約束はもう無くなった。そう言ったのはお前だバルカ」言い返す。

バルカと呼ばれた女性はデンガの声を味わうようにふうう、とゆっくり息を吸い、吐く。

「やっぱり良いものだね。約束すっ飛ばしてさっさと私の男になっちまえばいいのに」

ナマナはバルカと面識がある。デンガと本気で結婚したい女性でギルドエアロルのギルドマスター。二人は小さい時からの幼馴染で三十代の今でも付き合いがある。そして今も会う度にアタックしている一途な女性。

そんなバルカにデンガは疑問をぶつける!

「お前は俺のどこがそんなに好きなんだ?いいかげん教えてくれ」

バルカは意外な顔をする。自分の価値を知らずに今までギルドマスターをやっていたのか、そういう所が馬鹿可愛いのだがバルカがそう言うといつもからかわれてるとデンガは嫌な顔をするので角度を変えてみる。

「あんたのギルドはグレード2にも関わらずこの翠都でも指折りの大所帯。普通、ならず者の集団になりやすい。なのにそんな噂すら立たない。それはあんたのリーダーシップがあったればこそ成り立つ。そこに気付く私があんたに首ったけにならない方がおかしい。さて反論があるかい?」

バルカは楽しく自分の好きな男に向かって語れて内心嬉しくてしょうがない!そしてデンガはそこに気付けない男ではない。だからこそどう言い返しても自分自身を貶めているのと変わらない。つまり言い返せない。それでも何かを言い返そうと出て来た言葉は

「それならお前のギルドはグレード3だろ。俺よりお前の方が凄いだろ。そうだ、どうして今回の中級昇格試練に出て来たんだ?お前のギルドなら実績で充分昇格させられる。なのにどうして出て来た?」本人も良くこんなに出て来たとびっくり。バルカは笑みを浮かべる。

「何だい、知らないのかい?本戦が始まる前に何かしらのアナウンスがあるだろうね。さて私としてはあんたに会う理由が出来てねその指環、ただの指環ではないね?」

バルカはバゾが身に着けている指環を指差す。ブレイズの面々は驚きを隠せない。そこに

「別に反則ではないんだから良いじゃないか。私としてはそれをどうやって手に入れたのかを聞きたいんだ。で、どうなんだい?」

バルカは問い質す!デンガとクグは息を飲む。バゾはポカンとしている。そこにブレイズの

秘書は

「答えなければいけない理由がありません!」

毅然と答える!しかしバルカは圧を言葉に乗せながら

「確かにそうだ。とはいえずっと黙っていなければならない理由もないはずだ。もう一度言うよ、その指環はどうやったら手に入る?」

その場を支配する!だがその場にいるはずのない男が現れ軽口を叩いたのは

「いたいた、どうした?今から葬式の準備でも始めるのか?」ナラク。

すぐ飛びついたのはナマナ。

「どうしてここにいるんですか?」

ブレイズの面々も同じ思い。ナラクは簡単に

「俺は今回の中級昇格試練のゲストに呼ばれたんだよ」笑う。

だが一番震えていたのはエアロルの二人。口火を切ったのはバルカ。

「何なんだいあんたは?どう見てもウチのウトよりも存在が弱い。なのになんだい!この言いしれない恐怖は。どう考えても答えが出てきやしない。本当に何なんだい?」

最後の言葉には敗北感すら滲んでいた。バルカとウトの存在を確認したナラクは

「誰なんだこの二人?」ナマナに訊いた。

「ギルドエアロルの二人で女性の方がそのギルドマスターで多分もう一人は出場者かと」

突如呑気な空気になりそれを生み出したナラクは二人を品定めし結論。

「女性の方は見た感じデンガより強いな。もう一人はバゾと同じぐらいだな」

その評価にデンガは憤る。

「待て待て、俺がバルカより弱いっていうのか?いくらお前でも許さんぞ!」

そのバカ発言にナラクは大笑い。お腹に両手を当てる程だがもう既にこの場をナラクは支配した。それはもうピクニック気分で。改めて状況を整理し始める。

「それで何か言い争ってたけど何が理由なんだ?」

恐る恐るナマナが答える。

「指環をどうすれば手に入れられるかという質問に私が答えなかったのが理由です」

ナラクはその答えに気を良くする。

「成る程、ちゃんと約束を守ってくれてるんだな。確かにこの二人には指環創りたくないからな。ナマナさんはいつも良い仕事をするね。さてと、何であんたは知りたかったんだ?答え次第で扱いが変わるからちゃんと考えた方が良いぜ、さあ聞かせてくれ」

場はいまだにナラクの支配下。バルカは状況を飲み込めないでいた。それでも一つはっきりしているのは命の危機を感じている。明らかに自分より弱いと決めつけた男に。そして発言次第で自分の人生だけでなくウトの人生も台無しになる可能性がある。だからバルカは必死に言葉を紡いだ。

「そこにいる下級傭神の動きが明らかに強くなっていた。その原因がその指環と関係している、そう感じた」ここからバルカは本調子で

「だから、その理由がその指環にあるっていうのなら手に入れたいと思うのはごく自然な行動だと思わないかい?」微笑。

ナラクは

「デンガにとってこの女性は何なの?」

急に矛先を向けられたデンガは慌てる。それでもいつも通り喋る。

「俺のどこが良いのか、会う度に誘って来る幼馴染ってだけだ」

それを聞いたナラクは支配を解く。そしてバルカを褒める。

「良いねあんた、デンガの良さを知ってるんだな。つまり指環について訊いたのはただの口実か。それであんたの名前は?」

急に支配を解き、親しみを込めて来た男に

「バルカだよ」

名を名乗るのが精一杯。

「俺も名乗るよ、自由ギルド指環屋ギルドマスターのナラクだ。さっき言った通りあんたらには指環を創れないから俺の指環は諦めてくれ」

「どういう意味?」

バルカよりも先にナマナが質問。それはいつか訊いてみたかったブレイズの悩み。いつも指環について何故紹介してくれないのか?独占しているのかと言葉を叩きつけられる。なのにその理由を知らない。ここで決着する意気込み。それにナラクは

「適性と才能だよ」さらっと答える。

それにバゾを除くブレイズの三人が言葉に出来ないほど驚きまくった!ナマナが攻める。

「それって本当なの?ナラク!」

「言ってなかったっけ?」

「初めて聞いた」

「そこまで驚きの真実みたいな顔されても、本当にそうだからなぁ」

「ちゃんと説明して!」

ブレイズの面々は必死な顔、エアロルの二人は何をそんな必死なのか理解出来ない。

ナラクは特に何でもないと説明を始める。

「適性ってのは指環を身に着けられるか、身に着けられない人は指環に触れるのも難しい。才能は指環の力を制御出来るかどうか。つまり指環を身に着けられても力を使えないと意味がないだろ。後は指環によって必要な適性と才能が違う。例え安価品でも必要だし違いも変わるものなんだぜ、納得してくれたか?」

ブレイズの面々は何となく理解するがバルカは斬り込む。

「それじゃぁ何かい、私達二人には適性と才能が無いって言うのかい?」「そうだよ。戦闘用の指環は扱えないな」

ナラクは至って冷静。バルカはもう一度斬り込む。

「そういうのは検査みたいのが必要なんじゃないのかい?」当然の疑問にナラクは右手中指の指環を見せながら

「このハデスヴィジョンって名付けたこの指環で出来る」またさらっと答える。

納得のいかないバルカはまたまた斬り込む!

「私達を騙してるんじゃないのかい!?」

仕方ないとナラクはハデスヴィジョンの力の一端を見せる。二人には何も載っていないヴィジョンが目の前に現れる。

「何も載って無いだろ。それが戦闘用の指環の適性と才能が無い証明だよ」

そのナラクの行為はブレイズとエアロルの面々を驚愕させる。最初に口火を切ったのはクグ。

「お前ヴィジョンが使えるのか?」

「何言ってんだ?ナマナさんも使ってただろ。事務専用の指環にはヴィジョンは必須機能だからな」「あれはヴィジョンなんですね」

このやり取りについて行けないバルカは悟る。

「指環には関わらない。デンガ、中級昇格試練が終わったらまた会ってくれるかい?」

「勿論です!」ナマナが即答!

「ナマナ、信用してるよ」バルカはそう言ってウトを連れ右手を振りながらその場から去って行った。ナラクも

「見たかった奴も見たし俺も戻るかな」

応接室に戻ろうとした。だがデンガが

「待て!俺がバルカに劣るっていうのは黙っていられん。あれはどういう意味だ!?」

何故か怒っていた。要はバルカを意識しているからこその発言。それを本人は気付いていない。こればっかりはブレイズの他の三人も頭を悩ませる。さっさと夫婦になればいいのにと。

ナラクもこだわる所が違うのに気付いているがいちいち構ってはいられない。

「そのままの意味だよ」「俺は中級武神だぞ」「あの女性は上級武神だよ」「へ?」

まさか本当に知らないとはデンガ以外はドン引き。ナラクはやってられないと去り際に

「位を大切にしてるんならちゃんと詫びぐらいしとくんだな。バゾ、勝てよ」

そう言ってナラクは去って行った。

それをブレイズの面々は見送るのが精一杯だった。

















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