第7話聖騎士ラダン

ポトアがナラクの指環創りを見た翌日

ポトアは所属するルーク騎士団修練場にて自分で把握出来てない感覚を摑む為ひたすら木剣を振っていた。ナラクのギルド領域から帰ってきてからこの感覚に心身が揺らされていた。正体不明のものと相対している、だが不思議と嫌ではないがふわふわしたこの感覚にポトアはどうも落ち着かない。剣に励めば摑める、その予想から程遠く、やればやるほど感覚がおかしくなるばかり。

ポトアは振らず、じっくり構える。ナラクの言葉が頭に過る。何でいくつもの術を身につけるのか?というポトアの不躾な質問にナラクは真っ直ぐな眼で、一つの目的を果たす為に必要だから、当然のように口にするナラクの姿にポトアは惚れてしまった!その姿を思い出す度にポトアは初心に帰れる。一つの剣術、ポトアが初めて身につけ研鑽を積み上げてきた剣術を繰り出す前に

「何だ、もういるのか。今日は俺が最初かと思ったんだがな。ポトアそんな怖い顔を向けるなよ。俺でも多少はビビるんだぜ」

訓練用の騎士服の男は生意気な口を叩く。ポトアと同世代、同じ年齢のその名は

「ラダン、今わざと声掛けたわね?」

軽薄さが出ている男は更に続ける。

「そりゃ掛けるさ。この修練場の一部を破壊されかねない一撃に見えたんでな」

ポトアはその言葉の意味に辿り着けない。馬鹿にされているのか、それとも何かを感じ取って止めに入ったのか?

「どういう意味か説明しなさい」

ラダンは呆気に取られる。

「何だ、自分の実力も測れないのか?らしくねぇな。明らかにお前の実力が上がってるようにしか見えないんだが」

ポトアは眉間にしわを寄せ

「本当にどういう意味なの?」

やけに色気のある言葉にラダンは反応。

「俺の女になるなら教えてやるよ。こんな好条件、他にないだろ」

ポトアはさらにしわを寄せる。

「私には最低最悪な条件を突きつけられてるようにしか感じないけどいいわ他の人に、そうね団長にでも訊いてみるわ。だからその締まりのない顔どうにかしなさい」

修練場を後にしようとするとポトアと大柄な男がぶつかりそうになり、ポトアはその男を見るなり一歩下がって礼をする!

「レブル団長おはようございます」

「ポトア構わん。ラダン今、調子に乗った発言をしていなかったか?ポトアを俺の女にするとかいう不快な言葉を」

レブルの圧は同じ聖騎士でもあるラダンにも脅威でありいつかは越えなければならない壁。だがその二人を見ていたポトアはふわふわな感覚が出て来る。まるで勝ち目のある気持ち、二人には一回も勝った試しがないのに今なら勝ててしまうのではという感覚、ポトアは正体の見えない自分を明らかにしたい気持ちを最優先にした!

「レブル団長申し訳ありません。ラダンと付き合う可能性は一ミリもありません。それより私の感覚について聞いてほしいんです!」

ポトアの切迫した声にレブルは珍しさを感じていた。いつもの場を包むような気配が微塵も感じられなかった。威嚇されているようなその眼は間違いなく真剣そのもの。レブルはラダンについては放り投げた。

「ポトア、一体どうした?お前に何があったらそこまで追い詰められるんだ?」

ポトアは素直に相談。

「今、摑み所のない感覚に支配されているようなでも、嫌なわけでもなく自分を見失っているというか説明が出来ないんです。この感覚の正体は何なのでしょうか?」

「そんなのは俺に抱かれたくてしょうがねぇからだよ。嫌だとか言っても心の中では俺を求めてるんだよ。だからさっさと俺の女になりな」

「ゴミは放っておいてこの感覚は何なんでしょうか?」

ポトアはラダンを言葉で刺すが、それでもラダンは割り込もうとするがレブルの殺気の込められた視線に萎縮。改めてレブルはポトアを視る。すると一つの体験を思い出す。もしそうなのであれば今抱えている問題が一発で解決する。何より思い詰めているポトアを解放出来る。レブルは質問を始めた。

「ポトア、それはいつから感じているんだ?細かくでなくて良い。自分を探れ」

ポトアは確かにいつからこの感覚になっているのかしっかり探っていない。ポトアは半眼になる。二日前にはいつもと変わらない。昨日はナラクの所に行った。楽しかった記憶、その後騎士団宿舎に帰って来る。夕食を何故かいつもより食べた。お風呂から出てパジャマに着替えてからベッドに横になる。そこからしばらく寝付けずにいたのに朝気付いたらふわふわした感覚になっていた。

「今日です。自分でも何故こんなに早く起きたのか、いつもより二時間は早く起きました。ふわふわした感覚に朝食を食べずにさっきまで木剣を振っていました」

ラダンはそりゃあ自分より早く来ているわけだと納得。レブルは

「なら昨日、何か特別な体験をしなかったか?何でもないではなく間違いなく初めての体験をしたはずだ。そしてそれが恐らくはそのふわふわした感覚になっている原因だ!」

一喝!ラダンはその勢いに茶々を入れられない。ポトアは昨日、本当に初めての体験と言えるもの、アーセナルに正規ルートで入ったというより初めて入った。この騎士団の工房の人がアーセナルの常連でそのパスを借りた。だがそれではない。初めて入った喫茶店に入ってこの感覚になるのならポトアはこの感覚を何度も味わっているはず。だから違う。その後気になっていたサンドイッチ屋で二人分の生ハムサンドイッチを初めて買った。きっとこれでも無い。その後ナラクの領域というか自由ギルド指環屋にナラクと会話がしたくてポトアは行った。あの時は騎士の護りに全振りしたから何の影響も無い。それにここには何度も来ている。だけどこれは未経験!

「そうです!ナラクが指環を創る所を初めて見ました!」

「やはりそうだったか!」

そこにラダンは当然の疑問。

「レブル団長、何言ってるんですか?ちゃんとした説明を願えませんか」

その流れにポトアも乗る。

「何か悪い影響を受けてしまったんでしょうか?」

レブルはポトアをしっかり見据える。

「ポトアよく聞け、お前は強くなったんだ。あの儀式とさえ言えるナラクの指環創りを視てお前のポテンシャルが引き出されたんだ。ふわふわした感覚というのはその自覚が全く無いからだ」

レブルは騎装を発動、重鎧と重盾が出現。レブルはポトアと距離を置き重盾を構え

「ポトア!一撃だ、今最大の攻撃を私に向かって撃て!」

レブルはふざけている訳ではなくポトアの力がそれ程に高くなっている、そう思ったからこその対策。ラダンは興味が出て

「ポトア、団長があそこまでやるってのは相当だぜ。さっき繰り出そうとした一撃を見せてくれよ」

生意気な口を叩く。

ポトアは意を決した証に騎装を発動。一つの剣術の為に練り上げた剣を出現させ構える。騎装にふわふわした感覚全てを注ぎ込み編む!

レブルも重盾に騎士の防衛に全振り!

それを確かめたポトアは一切手加減の無い剣術を発動、〈レッドスラスト〉

突撃が重盾にぶつかると修練場内を馬鹿デカい雷鳴が轟く!ラダンは必死に騎士の護りを発動。ぶつかりあった結果は重盾の形を保っているが盾としては使えない。レッドスラスト専用

の剣もその力に耐えられずボロボロ。

ポトアとレブルは肩で息をして、立っているのがやっと。だが二人の顔もグシャグシャだが今までの人生の中で最高の笑み、もう笑うしかない。レブルとラダンは聖騎士、ポトアはその下の識騎士。本来ならポトアの一撃は全く通用しない。しかし識騎士ポトアの一撃は聖騎士レブルの騎士の防衛を崩した。つまり聖騎士と対等に戦える力をポトアは示した!それはレブルの待ち望んだ結果だった。レブルはどうにか姿勢を正すと重鎧にもダメージが及んでいるのにやっと気付く。一呼吸。

「ラダン、大丈夫か?」

「この訓練用の騎士服は捨てないと駄目です。結構気に入ってたんですよ」

ラダンの生意気な口調には疲れが滲んでいた。

「また買えば済むでしょ。というか何かふわふわから地に足がついてる感覚になりました。それに今の自分を把握出来るようになりました。団長、ありがとうございました」

ポトアは剣の騎装を収めてレブルに向かって思い切り頭を下げる!頭を上げると喜色満面。

「まさかここまでとはな、これで抱えていた問題全てが解決する、ハッハッハッ」

レブルにしては珍しい。余程の問題だったんだと二人はレブルの次の言葉を待つ。そんな二人を見てレブルはまずラダンに声を掛ける。

「ラダン、お前には黃都に行ってもらう」

ラダンは声にならない拒否が顔に出る。レブルは至って冷静。

「お前は三年間黃都一番の騎士団に留学していただろう。そこの団長の娘を覚えているな。その娘との縁談が来た。私は今それを受けるつもりになった。お前にもそう悪くないだろ。上手く行けばお前の望みが叶えられるかも知れん」

ラダンはその可能性に心揺れる。そして揺れる時点で受けるつもりになっている!それでも気がかりはある。

「このルーク騎士団はどうするんですか?俺がいなくなるのは損失でしょう?」

ポトアも気になった。騎士団に聖騎士が一人でもいなくなるのは確かに損失。レブルも承知している。それを解決する策はすでにいる!

「ポトアに聖騎士の儀を受けてもらう。それで解決するだろう。今の一撃を見ただろう?防衛に全振りした聖騎士をボロボロにした。聖騎士になりその力を使いこなせるようになれば私より強い聖騎士になる。だからお前の抜けた穴は埋まる上にいなかった副団長の座に聖騎士になったポトアに務めてもらう」

レブルはめちゃくちゃを言ってるように二人には聞こえたが、ポトアはすぐに気が変わる。

「本当に副団長の座に就けられるんですか?もしそうなら聖騎士の儀、受けます!」

レブルは喜び、ポトアは意気込む。だがラダンは置いてきぼりを食らった。

「待ってくれ、俺はまだ行くとは言ってない。まだポトアを俺の女にしていない!」

気分が悪くなるポトアだがラダンに一つ提案

「もしナラクに勝てたら良いわよ」

「本当だろうな?」

ラダンは興奮!

「私をめちゃくちゃにして良いわよ」

「よっしゃーーー、絶対に勝つ!!」

喜びを爆発させている。

「但しチャンスは一回、尚かつ公式な場で勝たなければ認めない」

公式な場という言葉が引っかかった。

「例えば?」

ポトアは、くす。

「今度の中級昇格試練があってそのゲストにナラクが招待という形でやってくるわ。戦いを申し込みそこで勝ったらラダンの女でもなんでもなってあげる」

色気全開で、くす。

「言ったな、どんな手を使ってもいいんだな?」

「構わないわ」

「よぉぉぉぉぉぉしぃ!!あんなのに勝てば、じゅるり。団長!?」

「何だ?」

「もしポトアが俺の女になった時はポトアを黃都に連れて行っても?」

レブルは頷いた。ラダンは歓喜の叫び!ポトアは特に反応無し。

「俺は準備があるので今日はこの辺で」

そう言ってラダンは修練場を後にした。それを見送ったレブルは溜息。

「本当に良いのか?ポトア」

「構いません、ラダンではどんな手を使ってもナラクには勝てません」

「私も同じ意見だが万が一はある」

「それもありません。なぜならナラクの本気を私達は知らないですし運が良ければその本気が見られるかもしれませんよ♡」

ポトアの色気にレブルはただただ口元を引き攣らせるのがやっとだった。














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