第22話


 *



 ポーラはノアに言われた通り、骨董品を保管してあるという場所へやってきた。


 馬車をゆっくり走らせて向かった先は、街の中心地だ。


 活気のある大通りに向かうと、呼子たちの声があちこちから聞こえ、多くの歩行者たちで賑わいを見せていた。


「たしか伯爵は、この通りを二本いった先にある店って言ってたわよね」


 住所の書いてあるメモを見ながら、ポーラは侍女とともに通りを二本奥に向かって進んだ。


 そこは目抜き通りほどの賑やかさはないが、大人な空気感が漂っている。


 道行く人々もたいそうオシャレで、ポーラは思わず見栄を張ってふんと鼻を鳴らしながら肩で風を切るようにして歩いた。


 彼女は見栄えの良い金髪碧眼で、今でも美人な自分のことを誇りに思っている。そして実際に、美しい見た目をしている。


 ポーラがあちこち見ながら歩いていると、横に伸びる通りの先にかかっている、吊るし看板が目に入った。


「骨董品店のマーク。あそこに違いないわね」


 鉄で作られただろう吊るし看板には、煙をまとうカップの模様が型抜きされている。看板につられるように爪先をそちらに向け、店に近づいた。


 重厚なオーク素材で作られたショーケースには、分厚いガラスがはめられている。


 覗き込めば、そこには見事な造りのアンティーク絵皿が展示されていた。扉を押し開けると、中からは木材の香りが漂ってくる。


「誰かいないの?」


 店内に足を踏み入れるが、人の気配はない。


 室内を見回すと壁一面がすべて棚になっており、見るからに手入れの行き届いた骨董品たちが陳列されている。


 釉薬のこってりした艶が素晴らしい陶磁器、職人が一つ一つ絵付けしただろう小皿、オルゴールや花瓶まで様々な品物が並んでいた。


 飾られている品々は、その姿をまるで誇っているかのような優雅さだ。


 まさしく圧巻ともいえる光景で、どれもこれも、年代物の上質な品物のように思える。


「こんな所に、こんな店があるなんてね」


「夫人、お待ちしておりましたよ!」


 棚から視線を前に向けた瞬間、ポーラは声をかけられて肩を震わせた。ノアが上品な笑顔で奥から出てきた。


 今日の彼は機嫌がいいのか、いつも以上に美貌に磨きがかかっている。


 見つめてくる彼の瞳の奥に、情熱の炎が見え隠れしているように思え、ポーラは首を横に振った。


「ご足労いただき申し訳ございません」


「とんでもないですわ。こんな素敵なお店があるなんて知りませんでした」


 ノアは店内を自慢げに見渡した。


「実はこうして国のあちこちに、秘密裏に骨董店を経営しております。王家の品物が紛れ込んでいないかチェックしているんです」


 なるほどとポーラが頷いた時には、すでにノアの術中の中だ。本人は、それに気づくことさえない。


「こちらへどうぞ」


 案内されたのは奥にあるカウンターだ。


 ボタン留めが美しい背もたれに、金属製の飾り単鋲が張り巡らされている椅子に腰かけると、革のしっとりとした感触がする。


「早速用意しますので、お待ちくださいね」


 白い手袋をはめたノアが店の奥から持ってきたのは、見るからに装飾が立派な金でできた箱だ。


 外箱だけでも、ものすごく価値があるもので間違いない。あまりにも素晴らしいので、それだけでもため息が出てしまった。


 中には上品なピンク色のシルクの内張りがされている。中心には、見たこともないくらい美しいチョーカーが収まっていた。


 それを見るなり、ポーラの目の色が変わる。


「こちらは『情熱のチョーカー』と呼ばれているお品物です」


 天使の羽を模したであろう羽根の一枚一枚が、小粒な真珠によって繋がれている。柔らかそうな羽根は、触れたら溶けてしまいそうなくらいなめらかだ。


 本物の羽根でできていないのが、不思議なくらいの代物だった。


 それを眺めていると、ポーラの脳内で、なにかが響いたような衝撃が駆け巡った。


 とたん、全身から無駄な力が抜けていき、ふんわりと夢を見ているような極上の心地になる。


「夫人にとても似合うと思いますよ。ぜひ、お付けになってお帰りください。返却はいつでも可能でございます」


「……いただくわ……」


 うっとりしたまま、ポーラはチョーカーに手を伸ばす。その手をノアがさえぎり

「お手伝いいたします」と彼女の首に巻き付けた。

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