第21話

 ノアは室内に人が誰も居ないことを確認すると、ポーラに向かって少々身を乗り出した。


「今からわたしがお話しすることを、夫人がご内密にしていただけるのであれば……もしかすると、現状を打開できる良い提案ができるかもしれません」


 ポーラはごくりとつばを飲み込み、ためらわずに「誰にも言いませんわ」と約束した。


「ランフォート城に、『自分好みの人と出会える』という骨董品があります」


「まあ!」


 ノアの、ひいてはココの仕掛けた罠だとは気づかず、ポーラは表情を明るくした。


「ご用意しますので、好みのかたに出会った時に一度だけ……」


 つまりはタイプの男性と不貞行為をし、子を成してしまえということを暗に伝える。


「そういうことですのね!」


 最後までノアが言い終わらないうちに、ポーラは納得した。


 不貞行為をすすめるなんて普通であれば顰蹙を買うようなことだが、ポーラはそんなことは気にも留めていない様子だ。


 それよりも、自分の好みの男性と出会えることに気持ちが向いてしまっているようで、楽しそうに頬を上気させている。


 夫と寝ずにイヤリングの責から逃れられるとあれば、天秤にかけるまでもない。


(最低な人間だな……でも、本当にココの言った通りになるなんて)


 ポーラならば、この話に食いつくと言っていたのはココだ。


 若くて美しく、筋肉質な青年をポーラが好むことをココは熟知していた。


 そういう貴族がいるパーティーには恐ろしく着飾っていき、あとからステイシーと値踏みをしていたらしい。


「男爵殿とのカモフラージュは、忘れずにしてくださいね」


「その日だけは夫と一緒のベッドに入ります。お酒でも飲ませておけばいいですわ。彼、とっても弱いから。夜の間の出来事を覚えていないはずよ」


「では準備しますのでしばしお待ちくださいね」


「伯爵様、なんてお礼を言ったらいいか」


 瞳を潤ませながらポーラはノアを熱いまなざしで見つめてくる。ノアはしがみつかれないように距離を取ると、よそ行き用の笑顔になった。


「とんでもないです。ですが、骨董遺物の力を使えるのは一度きりです」


「え?」


「それに関しては、二回使うと毒になります。ステイシー嬢を見たらおわかりになるかと」


「そうね。あの子は我慢がきかないけど、あたくしは大丈夫ですわ」


 たった一度だけでもいい、とポーラは頷く。


 必ずそれを使いこなしてみせるとポーラは意気込んでいる。


 ノアは彼女に二日後に伝書をとばし、とある場所に骨董遺物を取りに来るように伝えた。

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