冬季番外編①「冬はあったかいもんが食べたうなる」
「寒ぅなってきたなぁ…こんな時には、あったかいもんが食べたうなるわ」
あたしは、窓の外を見ながらぼんやりと呟いた。外はすっかり夕暮れ時で、辺りは冷え込んできとった。風がビュービュー吹きつけるたび、部屋の中までひやっとした感じが入ってくる。でも、こたつに入ってぬくぬくしとると、なんか心まであったかくなってくるんやけど腹の中はそれとは裏腹になんだか物足りん。
「おかん、今日もおでんやろ?」あたしは、ふと声をかけた。
台所からはたまにパチパチという音が聞こえてきた。おかんが鍋で何かを煮ている音や。
「うん、おでんやで」おかんの声が返ってきた。「寒い日に限って、あんたはあったかいもんばっかり食べたくなるなぁ」
「そんなん当たり前やん!冬は寒いから、あったかいもんが食べたくなるんやんか」あたしは鼻をすすりながら答えた。「特におでんなんて、あったまるやろ?」
おかんはキッチンの奥でちょっと笑う声が聞こえた。「まぁなぁ。そう言われれば、確かにおでんのあったかさは心までほっこりさせてくれるわな」
少し自慢げに腕を鳴らすおかんはいつもとおんなじ、くたくたのエプロンを着ている。
外の冷たい風とは裏腹に、部屋の中はポカポカとあったかい。湯気を立てるお椀が目の前に置かれると、思わず顔がほころぶ。「おかん、いつもありがとう」
「ん?どういたしまして」おかんは少し照れくさそうに言うて、あたしの隣に座った。「でもなぁ、この季節になるとうちも昔みたいにおでんやらお鍋やらをよー作るようになったなぁ」
「あぁ、わかる。子供の頃から、寒くなったらおでんが定番やったもんなぁ」あたしはお椀を手に取って、ゆっくりと口をつけた。あったかい出汁が体の中までじんわりと染み込む感じがした。ほんまに、冬はこれが一番や。
おかんがふっと思い出したように言った。「あんた、昔、雪が降ると、あんたとおとうちゃんとで一緒に雪かきして、終わったら必ずおでん食べてたよな」
「うん、覚えとる!あん時は寒いから、雪かきなんてしんどいなぁと思ってたけど、終わったあとにみんなでおでん食べたら、なんかそれが嬉しかったんや」あたしは少し懐かしさがこみ上げてきて、ふうっと息をついた。
おかんも静かにうなずいた。「あんたが小さい頃は、まだ雪もよく降っとったし、外で遊ぶのも楽しかったんやけど、今はなんか、冬って感じが薄くなってきた気がするなぁ」
「そうやなぁ…最近はあんまり雪も降らんし、どこか温暖化の影響を感じるわ」あたしも気づけばそう感じるようになっていた。今みたいに、こたつでぬくぬくするのが幸せだって思うけど、昔の冬のあったかさとはまた違う気がする。
「でもな、冬はやっぱりあったかいもん食べて、あったまるのが一番やと思うで」おかんは優しく言った。おかんの言葉に、あたしも頷いた。「あったかいもんは、身体だけじゃなくて心もあっためてくれるんやな」
「ほんまやなぁ」あたしはもう一口、おでんを食べながら言った。「今、こうしておかんと二人でおでん食べとるのが、なんか幸せやなぁ」
おかんは照れくさそうに赤くなった鼻を隠した。
そうしてまた一口、箸を取っておでんを口に運んだ。やわらかい大根、しっかりと味のしみたこんにゃく、そしてあったかい出汁が絡んだ卵。どれもが冬を感じさせる味わいやった。
「おとうちゃんも、一緒におるときはこうやって、冬になるとすぐおでんとか鍋にして、みんなで囲んで食べるのが楽しみやったんやなぁ」おかんはしみじみとつぶやいた。
「あたし、あの頃から変わらず、冬はおでんが一番好きやなぁ」あたしはお椀を満たしながら言った。「ほんまに、冬って、あったかいもんが食べたくなる時期やなぁ」
「うん、あんたがそんなふうに言うてくれると、嬉しいわ」おかんは微笑んだ。「あったかいもんは、どこか心までほっこりさせてくれるからな」
冬の冷たい風が窓の外を吹き抜けるけれど、あたしたちはこたつの中で、温かい食べ物を囲んで、少しだけ懐かしい気持ちを共有しとった。暖かい物を食べることが、こんなにも幸せだと思えた冬の夜やった。
[冬季番外編の短編:夢を叶えてくれる本屋に収録]みなさんこんばんは。いかがお過ごしですか? 季節はすっかり冬。と言うことで暖かいものを食べたくなっているのではないでしょうか? 私なりにその温かい気持ちを物語にしたので共感してもらえると幸いです。
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