五章 一
「拝み屋なんかやってると、死んだ人間と会わせてくれ、なんてクソみたいな頼みをされることがクソにたかるハエ並みによくある。死んじまったやつともう一回会いたいなんて生きてなけりゃ言えないわがままだ。死んだやつに何をそんなに伝えたいことがある」
「君のような刹那的な生き方をできる人間ばっかりじゃないからな。本当はずっと好きだったとか、あのときのことを謝りたいとか、いろいろあるだろう」
「死んだやつから許しを得たって、救われるのは生きているやつだけだ。死んだやつはなんにも救われない。許しを得ればそいつはもう死んだやつのことなんか忘れてのうのうと生きていくんだろう。おれが解決策を提示してやる。生きているあいだに言え」
美静の吐き捨てる物言いはいつものことだ。長いこととなりにいる魁人は今でも苦笑がとめられない。
吸っていた煙草を地面で踏み消し、吸い殻を拾う。魁人がそれをするあいだ、美静は立ちどまって待っていてくれた。根はいい男なのだ。舌打ちは忘れないが。
「逆に言えば、死んだやつってのは伝えたいことなんかないんだ。未練がましく出てくる連中なんてのは、死んだ自覚がないだけで、お前はもう死んでいると教えて実感させてやれば二度と出てこなくなる」
「一季って男も、死んだ自覚がないってことか」
「ストーカーっていう自覚もな。おお怖い怖い」
腕を抱いて震える芝居も忘れない。相手の心を容赦なく八つ裂きにする一言も容赦なくはなつ、それが美静という男だ。
ストーカー。互いが生きていて両想いなら許されていた行為でも、どちらかが死んでしまったら何もかもおしまいだ。同じ世界線に存在しなければ、つながりは保てない。死ねば終わり、人だけが味わえる絶望。永遠の命を持たず、心のある人間だけが感じることを許されている。
「死んだと思えない連中は永遠の命を望んでいたんだろうよ、アホらしい」
「機械人形は心がないなんていうが、代わりに永遠の命がある。人は永遠の命がない代わりに心がある」
「両立は許されない。悲しいね。目玉焼きの黄身が勝手に割れたくらい悲しいね」
心と永遠の命。どちらの領域にも踏みこんで立つことは許されない。はたまた、心を得た代償に永遠の命は失われる。永遠の命を得た代償に、心は失われる。
どちらが欲しいか。選ぼうとする時点で、人には心がある証拠だ。欲深い。
「だがな、現代、それが不可能じゃない方法ってのも出てきやがった。ちょうど死んだ人間ってのは何かに憑依するにあたって、人型に近いものを選ぶ癖があるらしい」
それはぬいぐるみであったり、
「こんなのだったりな」
寄せ集めの雑草で出来た人形を、美静が指でつまんで見せる。しかり。逢子が肩代わりした呪いをさらに肩代わりした雑草人形は腐ってとろけ、原型をなくしていた。美静はつまんでいた雑草人形に感謝も慈悲もなく、背の高い柵を越えさせるために、めいっぱい腕を振りあげる。柵を越え、新月溝からわずかの後、ぽしゃんと小さな落水音が響いた。
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