第41話 幼馴染との会話

 その後、警察によってブラフマーの乗せられたトレーラーが確保され、ブラフマーは無事な状態で発見された。ドローンを戻して回収した私と宇田賀は、蒼と同じように紺を東京湾に下ろし、私と宇田賀はボートで、紺は泳いで〈東京神殿〉へ行って曽理音達と合流した。

 〈本殿〉のプールに集まった十三頭の宇宙イルカ達は、キュウキュウピュウピュウカリカリ……と賑やかに何かを話していた。もうすぐブラフマーも戻ってくるはずだ。


「東京ラボの状況はわからないが、しばらくはここに紺ちゃんと蒼ちゃんを預かってもらうことになりそうだな」


 宇宙イルカ達の様子を見ていた私の横に宇田賀が来て言った。私は、ため息をついて答える。


「社長に相談ですね」

「御鍵も、今こっちに向かっているってさ」

「怒られますかね? 飛行禁止区域でドローン飛ばしたりしちゃいましたし」

「はははっ、まあ、警察には色々聞かれるだろうな。だが、俺達が罪に問われることはないんじゃないか?」

「そうですね。私達は……」


 私は壁際を見やった。そこには柱に縛り付けられた佐藤と、床に座り込む曽理音の姿があった。宇田賀が言う。


「もうすぐ警察が来る。話をしておいた方がいいんじゃないか?」

「行って来なよ、美理仁君。イルカちゃん達は私が見ておくからさ」


 そう言いながら、鹿島さんがやって来た。手には魚と氷の入ったバケツを持っている。


「はい。あ、そうだ、後で紺にイカをあげてください。食べたいらしいです」

「ふふ、わかったよ」

「鹿島さん、今日は変な役をお願いしてしまいすみませんでした。その……大丈夫でしたか?」

「へ? ああ……佐藤ね。大丈夫、仮想世界とはいえ、指一本触らせてないよ。そんなことより、曽理音さんと話して来なよ。警察が来ちゃうよ」

「はい、ありがとうございます」


 私は、床に座り込む曽理音に近づいた。曽理音はまるでバッテリーの切れたおもちゃのようにぐったりとしていた。


「曽理音」

「美理仁……」


 私の呼びかけに顔を上げた曽理音の顔は、やっぱりウィスキーのグラスを傾けていた男と同一人物には思えなかった。なんと言ったら良いかわからず、口を開いたまま固まってしまう私。先に言葉を発したのは曽理音だった。


「本当にすまなかった。でも、これ以上罪を重ねずに済んだのはお前達のおかげだ。ありがとうな」

「ああ……」

「お前が幼馴染でよかったよ。俺も、〈ミカギテクノロジー〉に転職すればよかったぜ」

「罪を償ったら、来いよ。一緒にやろう」


 曽理音は力無く、ふっ、と笑う。


「〈ミカギテクノロジー〉はそれまで残っているかな?」

「おいおい、失礼だな。すぐに潰れるっていうのか」


 笑って言った私に、曽理音は首を横に振って答えた。


「いや、違うんだ。俺が罪を償える日が果たして来るのかな、って思って」

「……来るよ。待ってるさ」


 それを聞いて、曽理音は弱々しい笑みを浮かべ頷いた。


「本当に変わったな、美理仁。いい人達に会えたんだな。仕事、頑張れよ」

「ああ、ありがとう。楽しい仕事だよ」

「そうだ、最後に教えてやるよ。少しでもお前の仕事の役に立つかもしれない」


 そう言うと、曽理音はプールで鹿島さんから魚をもらってカリカリ……と鳴いている宇宙イルカ達をチラリと見てから言った。


「宇宙イルカのすべての脳をフルダイブさせたことはあるか?」

「いや……そういえば、半球だけだな」

「そうか。俺はやったことがある。ドローン操縦の能力が向上するかと思ってな。ILFで独自にやったんだ」

「それで、どうなったんだ?」


 曽理音は一瞬目を伏せてから、私の方をまっすぐ見て言った。


「死んだんだ。全球でフルダイブした宇宙イルカは、塵になった」

「なんだって? なぜ?」

「そこまではわからない。だが、何かのヒントになると思う。フルダイブ時の脳の活動をよく見てみるんだ。普通のイルカとの違いもな。俺は宇宙イルカの秘密には大して興味がなかったから、詳しくは調べなかった。お前なら何かわかるかもしれない。まあ、それ以前に、間違って紺ちゃん達を全球でフルダイブさせないことだ。死んじまう。可哀想だろ」

「そうか……わかったよ。ありがとう」


 警察が〈東京神殿〉に到着した。曽理音は自首し、佐藤は逮捕された。私達も警察署で事情を聞かれ、解放された時には既に日は沈み、真っ暗になっていた。

 こうして私達の長い一日はようやく幕を閉じたのだった。

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