第11話 轟ちゃんと甘栗くんのクラス交流会⑤

『あーーーーーー…』


やらかした。盛大にやらかした気がする。

金も払わねぇでカラオケの部屋を飛び出しちまった

俺は、店裏の路地でタバコを吸っていた。


『あれじゃただ、イキッてるみてぇじゃねぇか…。』


普段やらないようなことをしてしまった俺は、明日からの学校をどうするか考えていた。

いっそもう明日退学してやろうか…。



「Hey!スモーキングボーイ!」



そう思っていたら轟が来た。


『あんだよ…』



うーうん!べっつにーとやたら機嫌の良い轟がくるくると俺の目の前で回る。

…さっきはこの世の終わりみたいな顔してたくせに、やたらスッキリした顔をしていた。


「…ありがとね、甘栗くん」


すっかり夕方になっちまった空の影に、轟の顔が反射する。これがエモいというやつだろうか。



『なんもしてねぇよ…悪ぃな。手伝うとかなってたのにあんなんなっちまって。』



「なんで?無茶苦茶な事言ったの私だし、甘栗くんのあの演説のおかげで、結果少しスッキリしたよ?」


「ざまぁみろ!!ってちょっと思っちゃった!!」


ニカッと轟が笑う。ちょっと少年味のある無邪気な笑顔で。



『…これからどうすんだよ、お前。』



「うーん…。いよいよ明日からクラスの気づかいヤバそうだし…。美月にも顔合わせるの気まずいですねー…。まぁ、でも時は熟した!って感じ?

双葉さんともあの感じじゃお互いが恋愛感情あるかってなると、そんな感じには見えなかったしー…。

双葉さんに振られて傷心になっている美月を私が支えて、そして私と美月は!恋に!落ちる!!……というのもありかと。」



さすがのメンタルだな轟。

この後に及んで城崎と付き合うとかまだ言えるとか。


『まー、頑張れ。』


俺は適当に返事をした。



「…ただなんか、わかんなくなっちゃった気もするんだよね。」



『?なにをだよ。』



「うーん、まだそれは自分でもよくわかってないんだけど…。なんか美月と私って長い付き合いだけど。お互いのことってあんまりよくわかってなかったのかなって。今日双葉さんに少し突き放されてた時の美月見てさ、あー、あんな顔するんだって思っちゃった。」



そう言って轟は俺を背に、地面にあるアリの巣をしゃがんで見つめる。



「お互い狭い場所にいてわかった気持ちになっていても、広いところに行った時に、その人がどんな人間なのかなんて見ないとわかんないよね。」



わかるようなわからないような…。



「まあ!今日の君はカッコよかったぜ!っというのを言いたかったのですよ私は!」



…なっ!!!


『はぁ?!うるせー!!シバくぞこら!!』


アハハと轟が笑う。



『てかタバコ…煙かかるから、来んなよな…。』



轟がキョトンとした顔でその後ニヤニヤする。


「なーにー?甘栗くん、やっぱ私のこと女の子として扱ってくれてるんだねー。」



『からかうんじゃねぇ!!!!』



ーーーーこうして、クラス交流会は俺と轟の策略通りには全然ならず。お互い心に傷跡が残るような会で終わったのだが。



ーーー次の日の朝ーーー



「甘栗っちー!轟ちゃん狙いだったのかよぉ!言えよぉ!!」


なんでかわかんねぇが、ちゃんと学校に来た俺は、伏見や鳥羽。それ以外のクラスのやつらにも囲まれていた。

…は??なんだこの状況。


『は?!轟?!?そんなんじゃねぇ!!あれは城崎がキモかったからだっつーの!!』



「轟は母ちゃんじゃねぇ、女だってー。

あの状況で言われたら轟ちゃんも惚れちゃうんじゃねぇのー?美味しいとこ持ってき過ぎだぞ甘栗っち。」


『その甘栗っちってなんだよ伏見お前!!』


「えー?俺なりに友情の念を込めて甘栗っち。どう?よくね??」


この学園に来てから初のあだ名に、センスはないが少し照れくさくなる。


『や、別にいいけどよ…』


その俺の様子を見て鳥羽が、微笑ましそうにクスッと笑う。

昨日のカラオケ代は俺の分は、鳥羽が支払ってくれたらしく俺はすぐ鳥羽に謝り、金を返した。

その時に鳥羽は、すごく嬉しそうに受け取ってくれた。良いやつだよなやっぱ。


「甘栗くんってもっと怖い印象だったけど、私昨日の見てなんか面白い人だなーって思ったよー!

ちょっとカッコよかったし!あの後C組の女子もちょっとイイかもって言ってたんだからー!」


今まで話しかけてこなかった、クラスの女子。

おそらくクラス内でも一軍というやつだろうか、

金城 湊【きんじょう みなと】が話しかけてきた。


女子ってやつはすぐ印象を変えやすい。都合のいい生き物め。



『カッコイイって…俺は不良だからカッコよくてなんぼの生き物なんだよ。』



「やっぱり甘栗くんめっちゃウケるー!

ね、またみんなで集まろうね。」



…ほんと女子って都合のいいやつらだ…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



2時間目終了後、授業なんてほぼ寝ていたがクラスの暖かい雰囲気に少し居心地が悪くなった俺は。

いつも通りグラウンド倉庫裏でタバコを吸っていた。



「…だから電子タバコに変えろと言っただろこの前。」


そう話しかけてきたのは、不良先公。

安善 瑠璃子だった。



『…うるせぇ。金がない学生には手が届かねぇんだよ。』



安善も電子タバコを吸い、空を見上げる。



「…昨日のクラス交流会。何やら爪痕を残したみたいじゃないか。」



情報早!!!!!

どっから入手したんだよこいつ教師のくせに!



『ーー!あれは不可抗力ってやつだよ…。』



「ふーん、まあ、君にとっていい兆しになるんじゃないか?こうやってサボりつつも学校には来ているみたいだしな。」



『別にそんなんじゃねぇよ…。』


「学生っていうのはすぐ人の印象なんて変わりやすいと言っただろ?プラスの感情を相手に持たれた時はそれを楽しんだほうがいいぞ。」


相変わらず達観した言い方で安善はタバコを吸い終わり、校舎の中に入っていった。



『先公ってやっぱうぜぇな…。』

そうボヤいて俺もタバコの火を消して、校舎に戻ろうかと考えていたところにー。



双葉が来た。



「あの、甘栗くん。」


予想外の相手の登場に俺はビビる。



『あ?!双葉?!なんでこんなとこにいんだよ!』



「き、教室探しても、居なかったから…甘栗くんがここに来るの見かけて…ちょっと。」



『もう授業始まるだろ?サボりになるぞ。』


あきらかに優等生みたいな面したやつが、授業に出ないのはまずいだろうと思い、俺はしっしっ!と双葉を追いやろうとする。



「…別に私が教室に居なくても誰も気にしませんよ。むしろいない方が皆さんの空気も…潤うかもしれませんし…。」


フッと暗い目をして下を向く双葉。

さすが女子に嫌われている女。言うことがちげーな。



『てか何しにきたんだよ。』



「昨日の…お礼を言いたくて。

昨日は、あの…ありがとうございました。」


『はー?むしろお前と城崎のことボロクソ言った気がすんだが?』


何故礼を言われるのかわけわかんねぇ。

そう思って俺はボリボリ頭をかいた。



「…わたしにとっては、ありがたかったです。

思ったこと言ったほうがいいって。言ってくれる人なんて…今までいなかったので。」


「城崎くんとは…あの後ちょっと気まずくなっちゃって。今朝も一緒に学校来たんですけど…。全然上手く喋れなかったですけど…。」



さすがに昨日の双葉の言葉にダメージを食らったのか。城崎。ざまぁみろだな。よし、このまま振られろ、城崎。



『俺のせいじゃねーからな。恨むなよ。』



「う!恨むわけないじゃないですか!

…ちょっとずつですけど…。今日クラスの女の子が喋りかけてくれて。全然図書委員なんで私。図書館の新刊についての質問だったんですけど…。

それでも、少しずつ。私と城崎くんの噂も薄まってくれるような気がして…。」



…それはたまたまなんじゃねぇか?

と思ったがまあ、双葉がいいならいいのだろう。



「甘栗くんが、私が前に出る1歩を手助けしてくれた…気がするんです。」



さすがー…と双葉が次の言葉を口する。



「私のお友達ですね。」


恥ずかしそうに顔を真っ赤にして精一杯、俺に向けた笑顔は。轟とはまた違った可愛さで。

それはそれは、はい、可愛かった。


『だからその友達ってやつやめろや。

俺が友達なってもいいことねーし、城崎に俺が恨まれるわ。』



「ふふ、そうなんですかね。」


そう言うって双葉は、俺にぺこりと頭を下げ校舎に戻って行った。

段々居心地の良かったグラウンド倉庫裏が人の出入りが激しくなってきて、次からタバコを吸う場所を変えようか俺は考えていたーーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



昼休み。


「どぅーーーん!!!」


購買でパンを買ったあと、廊下を歩いていた俺の背中に突然イノシシが体当たりしてきたみたいは衝撃が走る。


…こんなことをする奴はこの学校には1人しかいない。



『…轟。』



「やっほー!ボーイ!元気してるぅー??」



『お前のせいでこれから保健室に行かないと行けなくなったところだ…。』



ケタケタと腹を抱えて轟が笑う。

そんな今の面白かったか??

こいつの笑いどころがわかんねぇ。



「あのさー、甘栗くんって東京来てからどっか観光した?」


突然轟が突拍子もない質問をしてくる。



『…見てわかんだろ。友達なんていねーんだ。観光なんて行ってるわけねーだろ。』


あ、これ自分で言ってて切ない。

こんなこと答えさせやがって。死ね!!!



ふーんと唇を触りながから轟が、なにやら考えた表情でうんうん頷く。



「じゃあさー、甘栗くん。」



「次の休みの日、デートしよっか。」




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確定負けヒロインの轟ちゃんと傍観ヤンキー甘栗くん 鳥の黄門 @tori_koumon

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