第10話 轟ちゃんと甘栗くんのクラス交流会④

「あなたが…私の友達になってください!」


『は?』


ーーー予想外の双葉の言葉に俺は面を食らう。


「城崎くんだけじゃ、生きていけないって…いうなら…あなたが、な、なってくださいよ!」

デケェ眼鏡越しに映る双葉の目は真剣そのものだった。


『…俺は違ぇだろ。お前頭沸いてんじゃねぇの。』


「ま、真面目に言ってるんです…!

あなただって学園の人から避けられてるみ、みたいですし…案外私たち、き、気が合うかもしれないじゃないですか…!」



『ーはぁ?!お前みてぇな小賢しい眼鏡と一緒にすんじゃねぇ!!』

俺の怒気にビクッと双葉が震える。



『…お前なぁ…。これ以上男とばっか関わり増やしても余計に女子から反感もらうだけだろうが…。

ーちったぁ男の力を借りず、自分でなんとかするんだな。』


ーー轟以外の面倒事に巻き込まれるのは、これ以上はごめんだ。

俺は、悪ぃなと双葉に言い。改めて部屋に戻ろうとするとー…。



「…ならやっぱり城崎くんの言うとおり。

轟さんと仲良くしてみるべきでしょうか…。」



ピタッと俺は足を止めるーーー。



『…轟?』



「…はい。城崎くんの幼なじみの轟さんなら、良くしてくれると…城崎くんに言われまして…。

でも、轟さんってとっても陽!!!な人じゃないですか…??あんな人に近づくことなんて…それこそ図々しいじゃないですか!!」



【轟と双葉を近づけさせること】


これは、今回のクラス交流会で避けねばならねぇことの1つだ。

これ以上轟の精神が崩壊しないためにも、双葉を近づけさせることはできねぇ。



「轟さんから城崎くんを私が奪ったみたいに、周りの女子達は思っているみたいですし…轟さんにもど、どう思われてるか…。」

轟は、めっちゃくちゃお前のこと嫌いだぞ双葉。

多分お前の思っている以上にー…。



『あいつはやめとけ。絶対にだ。』



「な、なんでですか…やっぱり私…嫌われて…。」



『いや、なんつーか今轟と絡むと、余計他の女子から嫌われそうじゃね?だからやめた方が…。』

ーー俺は、取り繕うのに必死で何を言ってんだか段々自分でもわけわかんなくなってきた。



ああ!くそ!めんどくせえ!!



『あー…だから…。〜〜そう!!だから!!

俺がなってやるっつーんだよ!お前のダチに!!』

…言ったセリフに秒で俺は後悔した。


「え…、いいんですか…?」



『あーもう、いい、いい。

俺は、甘栗慎吾な。よろしくダチ。』

もう俺は半ば開き直って、とりあえず双葉を撒きたいので適当に喋った。

友達になろうって言って友達になるわけじゃねえし。

これは、この場限りの言葉になるだろう。



「…双葉 桃菜です。よろしくお願いします!

…甘栗くん!!」

パァァァっとお花みてぇな笑顔で双葉が笑う。

あーーー…城崎が双葉を気にかけるのもわかる気がする。確かに可愛いかもしれないと俺は思った。



…なんでわざわざ俺みてぇな不良と友達になりたいんだか。


謎に入学してから初めての、ダチ第1号(仮)が俺にできた。



『…さっきの双葉の話ぶりだと、双葉は城崎のことをまだ好きとかではないのか…?』



そんな疑問を残し、俺は部屋に戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あ、甘栗くん。」

鳥羽が話かけてきた。



「さっきくじ引きで席替えしたんだけどー…。

伏見くんがどうしても女の子の隣がいいって聞かなくて…。甘栗くんは、轟さんの横ね。」


ーーーーなんでか俺は轟の隣になったらしい。

轟は先に部屋に戻っていたのか、さっきよりはマシな顔になっていた。



「戻ってくるの遅かったわね。」


『あー…。ちょっとな。』

この場で轟に、さっきの双葉とのやり取りを言うわけにはいかず、俺は適当に返事をした。



クラス交流会は順調に盛り上がっている。

俺は城崎と双葉の様子を見つつ、自分も曲を入れることにした。

城崎は席替えなんか気にせず双葉の隣にいた。

2人を見ていたら双葉と目があい、俺にしか見えない角度でニコッと微笑まれた。

……なんだこの可愛い生き物は。

可愛くないと思っていたが、さっきのやり取りもあってかなんだか可愛く見えてきた!くそ!これがハニートラップというやつか!!

城崎は、まんまとこの双葉の毒牙にかかったというわけか!くそ!俺は騙されねぇぞ!



そして俺は、王道不良ソングを歌いクラス(男子のみ)を盛り上げ目立ちつつも楽しんでいたー…。


轟も周りの女子の囲みという名の気遣いが凄く。

(常時、轟の目は死んでいたが)



隣同士だったが、俺らはお互い会話をするタイミングを失っていた…。



そんな中、俺と轟が1番避けたかったことが起きるー…



「野乃亜、ちょっといいか。」


城崎が立ち上がり、轟の方に向かうー…。


轟は状況を察したのか、深刻な顔で城崎を見る。


「美月、どうしたの?」


「…あの、俺と野乃亜のことなんだけどさ。」


みんなにも聞いて欲しいとクラスのやつらの視線を集めるー…。


「…入学してから、俺と野乃亜が付き合ってるって思っている人が結構いるみたいなんだけどさ。」



あれ、違うんだ。と城崎が言葉を考えながら喋り出す。



「俺ら本当にタダの幼なじみで、お互い恋愛感情とかなくてさ、なんか最近双葉さんが俺と野乃亜の邪魔しているみたいな噂が立っているみたいなんだけど……。」



「城崎くん…まって!それは…私は大丈夫だから…!」

まさかこんな大勢の前で言われると思っていなかったのか。双葉も焦りだし城崎を止めようとする。



「それは全くの誤解だから。もう双葉さんのことは悪く思わないんでほしいんだ。

双葉さんのためにも、野乃亜からも、誤解を解いてくれないか?」



ーーー最悪な状況だ。

これじゃ俺が途中でいきなり止めることもできない。

場は完全に城崎達の方に、集中してしまう。



「え……美月、それは私が何をすればいいってことなの?」

ーーー怒りの震えなのか、悲しみの震えなのか。

轟は手を震えながら、声も少し掠れて城崎に精一杯聞いた。



「いや、だから…野乃亜も俺のこと好きじゃないだろ?それを言ってほしいんだけど。」



野乃亜も俺のこと好きじゃないだろ?


野乃亜も俺のこと好きじゃないだろ?


野乃亜も俺のこと好きじゃないだろ?


野乃亜も俺のこと好きじゃないだろ?



野乃亜も俺のこと好きじゃないだろーーーーー……




城崎が発した言葉は、轟にとって完全なトドメだった。



「城崎くんちょっとそれは!!!」

「轟さんに対して失礼じゃない?!」


轟を擁護する女子達ー。

さっき双葉を詰めていた女子共だった。

さすがに黙っていれないのか女子の矛先が城崎に向かう。



「あ、でも俺も前から轟さんと城崎の関係気になってた。」

「まじで轟さん城崎のこと好きじゃないなら、俺狙いたいんだけどー。」

ーー火に油を注ぐように何人かの男子が喋り出す。



「あんた達は黙っていなさいよ!自分達が野乃亜ちゃんと付き合いたいからって!!」



女子と男子同士で揉めだすーー…。



「み、みんな落ち着いて!」

「そうだぜ!!せっかくのカラオケなんだから歌おうぜ!!」



鳥羽と伏見が場を止めようとするが、その声はもう誰にも届かないーー…。



俺はどうすれば…!!



「みんな、ありがとう。私は全然平気だから。」


轟の一声で周りは一気に静まり返る。



「私と美月はタダの幼なじみだよ!

だから一緒にいることが多いだけで、全然好きとかそういうのじゃなくて…なんなら私美月のお母さんみたいな感じだし、うん!ほんとみんなが思ってるような関係じゃないんだ!!」



だからもう皆せっかくのクラス交流会なんだから、楽しまなくちゃ!この話はこれでおしまーい!と轟は場を収めようとする。


……笑顔の中には、今にも泣き出しそうな顔で。



キュッ



隣に座っていた俺の袖を、轟が掴む。

小さな、弱弱しい力で。




俺はもう、我慢ができなかった。

計画とか、小賢しい手は俺には向いちゃいない。



俺の漢気はそんなんじゃない。



『あー…、なんだァこの茶番。』


クラスの男からマイクを奪い、俺はマイク越しに喋り出すー…。


『どいつもこいつも…誰かのこと好きとか、好きじゃないとかそんな興味あっかー?

カラオケだぞここ?歌う場所なんだよここは。

くっだらねぇことで時間とんなよ。』



城崎がムッとして俺を睨みつけるー。



「俺はみんなの誤解を解きたいから時間をとってもらっただけで…くだらない事じゃ…」



『いや、くだらないね。

要するにお前が双葉のことが好きだから、双葉を受け入れてくださいっつーことだろ?』



「…な!!ちが!俺はクラスに馴染めない双葉さんとみんなに仲良くしてほしくて…!」

あきらかに顔を赤くして城崎がチラッと双葉を見る。



…双葉は俯いて、城崎を見ようとしなかった。



『城崎…だっけ?お前クラスに馴染んでほしいっていうなら。まず双葉のクラスのB組が先だろ。

こんなC組とD組の交流会に呼んで、反感ないとでも思ったのか?

女連れとか気持ちわりぃ。

お前がただ、ポ○モンみてぇに双葉連れてきたかっただけだろ?何属性のポケ○ンだよそれ。』



ポ、ポ○モン…?と城崎がわなわなする。


『ー…自分はさも良い奴で双葉を助けてますーって面してよ。お前が気持ちよくなりてぇだけだろ。

女々しいんだよお前。』



「甘栗くん…!これ以上は…!いいから!もう…。」

轟が俺を止めようとする。

うるせぇ。お前が頼んできたんだろ。


俺は轟を無視して話を続ける。


『…んで轟に俺たちはタダの幼なじみですーってか。知らねぇ。どうでもいい。』



『お前が双葉を助けたい?きめぇ。

まぁ、思うならお前1人で勝手にやりゃいいが。

他人を巻き込むな。

ーーーあ、あと双葉お前。

そうやって黙ってっからお前のせいで、余計めんどくせぇことになんだよ。

思ってることがあるなら喋れ。』


双葉は自分のことを言われると思っていなかったのか、びっくりして俯いていた顔を上げる。


「…わたしは…。し、城崎くんに嫌われたくなかったから…言えなかったけど…。

こ、こういう人前で、私のこと…言われるの。

ちょっと…いやかも…。」


……それだけかよ。と思ったが。

城崎はダメージを食らったらしく、双葉の言った言葉に目を大きくして不安げな顔をする。



「双葉さん…。俺、そんなつもりじゃ…。」



『あー、まぁ。そっちは勝手にやってくれ。

俺が1番言いてぇのはあれだ。轟ー…。お前だ。』


ボリボリと俺は頭を搔く。



「え…私?」


『自分のこと母ちゃんみてぇなもんだって言ったな…??』



「…確かに、言ったけど…。」



『お前は、女の子だ。

同世代の女子をその…母ちゃん扱いしていいもんじゃねぇ!同世代の女の子を母親扱いしてる男とか気持ち悪ぃだろ…!

女の子は女の子の扱いをしないといけねぇもんだ!!』


うわ、これ俺自分で言っててかなりキモイかもしれねぇ。



『だから自分のこと母ちゃんとか…そんなこと言うな!!お前は女なんだよ!!』



「いや…知ってるけど。」

轟が何当たり前のこと言ってんのよという顔でつっこむ。



『いやそうじゃねぇ!とにかくだな!

ーーー城崎お前のやってることは気持ちわりぃってことだ。』



「な…俺が気持ち悪い…?」

生まれて初めて言われたみたいに、城崎がショックを受ける。そんだけイケメンだったら言われることもねぇだろうな。だがしかし、気持ち悪ぃことは間違いねぇ。



『ーーー俺が言いてぇのは…まぁ。

男なら内側から固めるみてぇな、狡い真似しねぇで。真正面から双葉に当たって砕けろ!!

ほんとあー!まじくだらねぇ…!シラケた!帰る!!』



言うだけ言って、こんな大人数の前で喋ったのが恥ずかしくなった俺はーーー。

これ以上、この場にいるのが耐えられないので部屋を後にしたーーー……。



「なんなんだ!!アイツは!!!」


部屋を出た後すぐに、後ろで城崎の叫びが聞こえた気がした。

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