第9話 火球《ファイアボール》


………………

…………

……


 レンがボロ小屋でくつろいでいると、スラのんが聞いた。


「相棒、さっき僕 火球ファイアボール って技覚えたじゃん」

「ああ、それで?」

「あの、試したくなってさ」

「え? まあいいけど」

火球ファイアボール 吐くからキャッチしてくれ相棒」

「ちょ、ちょっと待てスラのん。キャッチボールのノリで火球ファイアボールを俺に吐くなよ」

「た、頼むよう、相棒」

「んー、じゃ、外の岩にぶつけてみろよ」

「え? んーじゃそうするよ」


 レンとスラのんはボロ小屋から出ると、大きな岩と対になった。


「ほいじゃ行くぜ相棒!」

「おう、一発かましたれ!」


 ぽっ


 スラのんの口から 火球ファイアボール らしいものが飛び出した。


「なんか、小さな豆みたいな火球ファイアボールだな」


 スラのんの口からは想像以下の小さな火の球が一メートルほど飛んで、消えた。


「でもなんか可愛いな」

「んーガッカリだ」

「レベルが上がればその規模も大きくなるんじゃない?」

「そかな」

「頑張ってレベル上げようぜ」

「そだね」


 結局、岩にはノーダメージで終わった。




 ボロ小屋に戻った二人はマジックポーチからあかりが姿を現しているのが分かった。


「おはよう! あかりちゃん」


 レンはあかりに挨拶をすると


「お休み! あかりちゃん」


 すぐに床に就いた。


 スラのんはあかりの隣に身を寄せると、さっきの出来事を話した。


「あかりちゃん、さっき僕、火球ファイアボールをやってみたんだけど、思ってたのと違ってガッカリしたんだ」

「うん」

「小さな火の球みたいなやつが出て、一メートルぐらいで消えちゃった」

火球ファイアボールなら私、得意ですよ」

「え? そうなの? お手本、いい?」

「別に構いませんよ」


 スラのんとあかりがボロ小屋の外に出ると、再び大きな岩と対になった。


「それじゃいきますね!」


 あかりが息を大きく吸い込むと、次の瞬間、大きな火の球が岩を砕いた。


「ひ、ひえぇーっ!」

「ど、どうでしょうか?」

「す、すごいよ! あかりちゃん!」

「照れますね」


 スラのんたちがわいわいとはしゃいでいると、ザッザッと何かの物音が近づいて来た。

 そして


「な、なんじゃこれはっ!?」

「ん?」

「わしの特等席が粉々じゃ!?」

「あ、あれ、あなたはスライムを極めしもの、スラじいではありませんかっ! こんなところで何を」

「星を、星を眺めていたんじゃよ。ふぉふぉふぉ。って、そんなことはどうでもよい! わしの瞑想に使う岩をどうしてくれるっ!?」

「す、すいません。何かで弁償しますから許してください」

「ふむ、仕方あるまいか」

「ありがとうございます」

「しかーしっ!」

「ちょ、長老、何でしょう?」

「スラのんよ、スラばあに家に入れてくれるようにお願いするのだっ!」

「長老、追い出されたんですね……」

「いやな、ぴちぴちギャルが話し掛けてくるから悪いんじゃ。わしは悪くないっ!」

「わ、分かりました。僕がなんとかいたしましょう!」

「ちなみに、わしの家はあそこじゃ」

「え? ……ええええええええええええええーっ! 近っ!」

「ご近所さんじゃ」

「そ、そうですね……」


 スラのんはあかりをレンの元に戻すと、一人でスラじいの家に向かった。



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