第6話 せっかくなので生贄を迎える準備をする

 生贄の少女が村を出るのを見送った後、俺は家に帰ってきた。

 一応、おっさんと一緒に石を一回投げた後、暇つぶしがてら情報収集をしていた。

 基本的に村の人は愛想が悪く、なかなか話をしてもらえなかったが、酒を出したら態度が変わった。なんと露骨なことか。

 村で得た情報とは言っても、メインは一つ。俺のところに生贄が送られてくる経緯だ。

 まず、この村に勇者が来たことがことの発端らしい。

 元々数百年前から、村のある土地には魔物が森から降りてきていたらしい。とはいえ、他に畑を作れるような場所が少なく、あそこを選んだという。

 多分森から魔物が降りてきているのは、俺が森にかけた魔物よけの霧のせいだろうが、麓に村があるということすら知らなかったんだ。許してほしい。

 とにかく、村は魔物に襲われていたわけだが、そのおかげで領主から支援金が送られていたため、特に苦労はしていなかった。

 しかし、数年前に魔物への対策ではなく、行商から酒や装飾品を買うのに金を使っていたことがバレて、支援金は打ち切りに。まぁ当然という流れだ。

 そこに舞い降りてきたのが、勇者だった。

 多くは酒や装飾品に使っていたとはいえ、魔物への対策にも金を使っていたのは事実であり、村の資金が底をつきかけていたらしい。

 そこに大森林まで竜の討伐に行くために、道中のこの村に寄った勇者が現れた。

 村の長老達は、勇者に森に住まう大魔族の討伐を依頼。お人好しの勇者は、それを断ることなく快諾して、そのまま大魔族の討伐に向かった。

 俺はここまで聞いた時少しイラついたね。なんせこの村が一番の迷惑事をふっかけてきたんだから。この村は潰そう、そう決意したよ。

 と、話が脱線したな。その大魔族の討伐に向かった勇者は、村まで帰ってきた。首だけになって。

 村の人はなんとも俺が悪人のように話したが、俺は悪くないんだ。俺が殺した奴はまだ全員正当防衛だからな。

 で、勇者の帰りを待っていた教国から来ていた騎士団の数人がその死体を確認。すぐに増援を依頼した。その数なんと10,000。大魔族一人に対してそれは、普通に考えて過剰戦力だが、それだけのことだったんだろう、勇者が殺されたってのは。

 その10,000の軍勢が村になんとか滞在を続けること三日目。その日の夕方に10,000の軍勢全隊が森に入って行ったらしい。

 だが、勇者の時と同じように完全敗北して、一人だけが帰ってきたと。

 まぁこれに関しても俺は正当防衛だしな。悪くはない。

 そして、たくさんで攻め込んでとうとう大魔族を怒らせたと、村が不安に包まれた時、村の長老が一冊の本を持ってきた。

 俺が聞いた村の人もそれについてはあまり知らないらしいが、昔の実際にあった話らしかった。

 その本に書かれていた生贄の特徴が、あの少女と酷似していて、送ることに決めたと。

 随分と勝手な話ではあるが、前例があるのであればそれに頼るのは当然だ。

 村の長老達は間違えていない。ただ、運がなかっただけだな。

 とまぁ、俺が聞いた話はこんなところだ。

 とりあえず確定しているのは、俺のところまで生贄が運ばれてくることと、村は絶対に滅ぼすこと。

 あの村は、生贄といい勇者といい、面倒ごとを押し付けてきた罰として、滅んでもらおう。優しかったおっさんには、一応逃げることをオススメしておいた。多分逃げないけど。

 次の新月の、最初の活動はあの村でやることにしよう。

 あとはどう村を滅ぼすかだが、二つ良さそうな案が浮かんだ。

 まず一つ目、俺が魔術で焼き尽くす。一番手っ取り早いけど、多分一番つまらない。せっかく楽しむって決めたんだから、もっと楽しめることをしたい。

 次に二つ目、あの磔になっている少女を使う。俺であれば、あれだけのことをされれば、村を恨む。俺が特殊という可能性もあるが、少なからず恨みは抱いているだろう。

 もちろん協力は惜しまない。なんだったら、魔術とかを色々教えてやろう。

 これならだいぶ楽しめる気がする。時間はかかるかもしれないが、まぁいい。

 でも生贄の少女が魔術を使えなかったダメだから、その時はその時次第って感じになるのかな?

 ひとまず、明日の朝になったら家に戻って迎えるための小屋みたいなのを作ろう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今はちょうど南中を迎えたタイミング。俺は木で造られた長く住んでいた家を壊し終えたところだ。長く連れ添った相棒みたいな物だが、あと二週間後にはここから去るのだから、壊しておくに越したことはない。

 昨日の夜に磔の少女を連れて一人の少年が森に入っていくのを見送ったから、一週間以内にはここにくるだろう。

 それまでにそれっぽい祭壇か小屋みたいなのを用意しておきたい。

 俺がまだ人がたくさんいるところで生活していた頃に聞いた話に、悪魔に生贄にされると生きたまま開きにされて食われる、という話を聞いたことがあった。

 幸いにも、今俺の家の近くには一万の死体が転がっているわけだから、それの骨を使って小屋を作ろうと思う。

 あと、中は料理ができるような感じにしたい。骨でできた包丁とかを作って並べてみたり。だいぶそれっぽいものが作れる気がする。

 小屋の外観は、逆にただの小屋というふうにしてみようか。何もない岩肌の上に建つ一つの普通の小屋。ただし骨でできている。

 うん、なんかそれっぽい。人の死体で遊ぶなとか言われそうだが、死んだのであればただの物に成り果てるんだ。別にいいだろう?

 もちろん感謝は忘れないさ。材料になってくれてありがとう。

 組み立ては結構簡単だったりする。

 魔術を使ってバーっと組まれていく。その合間に魔物のあぶらからできた膠をつけて接合していく。

 作業を始めてから一時間しか経っていないのにも関わらず、既に進捗は半分ほどといったところだ。

 これなら今日中に終わる。

 次に包丁の方は、大腿骨を薄く切ったものをいくつか作って、それを膠でくっつける。

 そうすると骨で出来た板のようなものができあがるから、それを土魔術、風魔術、水魔術の合わせ技で削っていく。

 削ると、刃ができてくる。

 刃ができたら、全体の形を整えて。

 よし完成。

 我ながらだいぶ上手くできた気がする。

 次に部屋の内装だけど、痛くないような床を作らなければならない。

 ということで、骨を粉末状にする。

 できた粉末を小屋の中と同じほどの大きさの容器に入れていく。

 厚さがちょうど拳大くらいまで溜まったら、上から膠を溶かした水を流し入れる。

 それを混ぜて、一旦放置。

 あとで乾いたものを取り出せば、床ができる。

 先に屋根の方を作ってしまおう。

 屋根は、肋骨を並べる感じでいいか。ちょうど外に返しが向くように。

 屋根を作り終える頃には、先ほどの床が乾いていた。

 火魔術と風魔術で乾かしていたから、早く終わった。

 それを部屋の中に、入れる。

 床としては人が三人乗っても問題ないくらいの強度だな。

 あとで下に土を置いておけば、壊れるようなことはなくなるはずだ。

 よし、残りの内装もやれば、生贄の少女を迎える準備はできる。

 ここにくるまであと四日ほどだろうか。楽しみだ。

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